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料理長の美しい休日 二

マッシュルームとスパゲッティスクワッシュ  

 あたしがまだもっと小さかった頃、父さんの働くレストランがお休みの日に、誰もいないそのキッチンに連れて行ってもらった。あたしは学校も休みなんだから本当は父さんに先生から褒めてもらったあたしの走りを見せたかった。この前体育の時間にみんなで走ってあたしは一番先にゴールした。先生に褒めてもらったので父さんに見せたかった。その日も寝転んでいる父さんに公園にいこう、走り見せたる、速いんやでといっしょに寝転びながら足を父さんの目の上に走るようにばたばたした。

 父さんはそうか、と言ったけど今日はキッチンでやることあると寝転んだままあたしを見た。いっつもやることあるとレストランに行く父さん、なんといったか覚えてないけど公園に行くかわりにあたしは父さんのレストランにいっしょに行くことになった。

 あたしは父さんにレオンも連れて行って良いかと聞くと、いいよと言うのでうれしくなった。レオンはあたしが学校の門の側で捕まえた。イモリやと言う人もいるしヤモリやと言う人もいる。トカゲにしては短い体で可愛い顔をしている。足のさきが丸っこい。持って帰っていまは虫かごに入れてある、あたしの悩みはレオンが餌を食べないこと。野菜入れても食べないので虫を捕まえてきてあげようと思う。あたしはそんなことを考えて父さんとおうちを出た。父さんはあたしに買ってくれた野球帽を頭にかぶせてくれた。


 地下鉄に乗ってレストランに行く途中、おとなの人があたしの虫かご覗いてレオンを見つけるとあたしの顔を見た。あたしはちょっと自慢したい気持ちでいたので嬉しかった。
レストランに着くとあたしは窓を乗り越えてレオンといっしょにテラスへ出た。レオンの好きな虫がいるかもしれない。ここはビルの五階やけど。
 

 父さんがあたしをキッチンにおいでと呼ぶ声を聞いてあたしはレオンの虫かごを置いてお店のなかに戻った。虫かなんかをレオンが見つけるかもしれない。

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 キッチンに入ったあたしが手を洗っていると、お腹減ってるか、お昼食べようと言う。父さんはあたしを抱き上げてテーブルの上にあるマッシュルームとおばあちゃんの枕みたいなカボチャみたいなものを見せた。金糸瓜や、スパゲティスクワッシュやと言って美味いんやでとあたしに言う。あたしは父さんとおんなじくらいの背になったので、キッチンのなかを見回した。おうちのキッチンとぜんぜん違ってピカピカの鍋やらなんかの機械がある。

 父さんはあたしを抱いたままシンクの方にあたしを向かせて、見てみ、これは野菜とか魚とか洗うたりするとこや、見てみ、ここは湖なんや魚が泳いどったんや。あたしはぴかぴかのシンクのなかをのぞき込む。それから父さんは銀色の扉を開けて冷蔵庫のなかを見せる。見てみ、きのこやら花やら葉っぱやらあるやろ、ここは野原や、このなかは森や、いろんな宝もんがいっぱい入ってるんや、ほんでここは火山や山やとガス台をあたしに見せる。ここがな、ぼくが汗かいて焼いたり煮たり火吹いてるとこや、火山や、父さんはしんけんらしい顔で言う。それから父さんは、ランチを作るというからあたしは客席にすわってさっき見たマッシュルームとスパゲッティスクワッシュの絵を描くことにした、レオンは外においたまま。

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 あたしは顔を上げるとレオンといっしょに森のなかにいた。緑色のまわりの景色の向こうに青い空とその下に水がいっぱい広がっていて湖が見えた。レオンはあたしのまえを走っていて立ち止まると、あったあったこれや、と言う。あたしはレオンが食べるものとうとう見つけたのかとうれしくなった。あたしはレオンに駆け寄るとそこにあるのはマッシュルームやった。

 おまえがさっき描いとったやつやとレオンは言う。レオンのご飯なのとあたしは聞いた。レオンはちょっと怖い顔になって、教えたるわ、マッシュルームのなかにはな、食べたら死ぬやつあるぞ、レオンが死ぬというのであかんというと、おれはマッシュルームは食べないと言ったので安心したけど、あたしはなんか、こわいような変な感じがしてきた。死ぬていうのはなんやろ、レオンも父さんも母さんもおにいちゃんも死ぬのやろか。
 あたしはむこうの空を見た。空とみずうみのさかいめを探した。あたしはいた、あたしはまだいた、あたしはまださかいめを探してまだ見ていた、あたしはまだいた。


 ご飯できたぞ、父さんの声がして顔を上げたら目の前にお皿をテーブルにのせて、さあ食べようという。マッシュルームが入ったパスタやった。これはなシャントレールやあんず茸や、金糸瓜やスパゲッティやと父さんはあたしにフォークを渡す。スパゲティはなんかしゃりしゃりした。あたしがマッシュルームはよけて食べへんのをを見て、これは毒ちゃう、死なんやつや、美味しいやつやと笑った。

 窓の外は暗くなってあたしの絵はいっぱいになってきた頃、帰ろうと父さんはにっこりして、あたしはレオンの虫かご抱えて父さんと地下鉄に乗った。日曜日の駅はひとがいっぱいであたしはどっかで野球帽なくしておうちに帰ってきた。帽子のことは父さんに言ってない。月曜日、あたしは学校にいってレオンをもといた所に帰してやることにした。



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画 会津勝巳

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