「ボンゴバザール」に行ってみた
新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛生活が長引き、スーパーマーケットに足を運ぶことが唯一にして最大の気分転換という方も多いのではないだろうか。かく言う私もその一人だが、代わり映えのしないレシピのローテーションに飽きてきたある日、ハラルフードを専門に取り扱うスーパーマーケット「ボンゴバザール」が新規オープンしたという情報を目にした。異国のスパイスが手に入るかもしれないと思い、早速自転車を飛ばして駆けつけた。
ハラルフード専門店ボンゴバザールは武蔵野線新三郷駅から徒歩20分ほどのロードサイドに位置しており、近隣に住む東南アジアや中東といった様々な外国籍の、とりわけイスラム教徒をターゲットにしたスーパーマーケットである。周囲にはみさと団地が広がっており、タイムスリップしたかと錯覚させる街並みだ。
新三郷駅を通る武蔵野線は埼玉県西部と千葉県を繋ぐ環状路線の為、東京へのアクセスは決して良くはない。その為、新三郷駅が位置する三郷市は東京23区に接するロケーションにも関わらず、比較的家賃や地価が安く、それゆえに外国人労働者の受け入れが進んでいるという背景がある。
これらの団地群は1970年代初頭、日本住宅公団(現UR都市再生機構)により高度経済成長を支える労働者の住まいとして建設された。それから約50年が経過した今、建物の老朽化・居住者の高齢化が進む中で、一部の建物は取り壊しを余儀なくされた。その跡地に建設されたのがボンゴバザールである。当日の曇り空も相まって、薄暗い灰色の街並みの中にボンゴバザールはひっそりとたたずんでいた。
店内にはなかなか日本ではお目にかかれない、異国情緒満載の商品が陳列されていた。
東南アジア料理の素となるスパイスや、あえるだけで簡単に炒めものができてしまうレトルトパックなど、日本にいながらにして異国を味わえる、まさにステイホームにぴったりの代物である。
魚売り場にも足を運んだ。泥ざかな、ヒルシャ、ナマズ。あまり食指が動かないラインナップだが、飛ぶように売れていた。どのように調理するのだろうか。
野菜売り場にはパクチーが置かれていたが、表記は「野菜」。
イラン産のピスタチオを発見した。忘れてしまった方も多いかもしれないが、年が明けたばかりの2020年1月にはアメリカとイランの関係性が急速に悪化し、一触即発の様相を呈していた。両国共に新型コロナウイルスの感染拡大が顕著な為、現在は一時的に衝突がおさまっているという皮肉な事態に陥っている。
肉売り場には羊まるごと一匹が販売されていた。イスラム教では豚を不浄な生き物とみなし、口にすることが禁じられている。その為、食肉売り場には豚肉は一切置かれておらず、代わりにラムやマトン等の羊肉が多数取り揃えられていた。
イスラム教が禁じている食のタブーは豚肉だけではなく、アルコール飲料もその対象である。ただしアルコールに関しては豚肉ほど厳格ではなく、世俗国家をうたうトルコなどでは現地の人もアルコールを嗜むようだ。
また、11世紀ペルシア(現イラン)の詩人ウマル・ハイヤームは酒にまつわる詩を数多く残している。「酒をのめ、それこそ永遠の生命だ」「酒をのむにまさるたのしい瞬間があろうか」といった現代日本の酒飲みが詠んだかのような数々の詩からも、コーランにおけるアルコール飲料に関する文章の解釈がまちまちであることが伺える。
なお当店に箱積みされているフレーバービールはノンアルコール飲料だった。
たかがスーパーマーケット、されどスーパーマーケット。自転車でいける異国がそこにはある。いま世間を騒がせている様々な問題が落ち着いた頃に是非足を運んでみてほしい。
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