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ゾロアスター教の聖地ヤズドで、鳥葬のルーツを探る

 唐突な話で恐縮だが、世界には火葬以外にも様々な遺体の埋葬方法があることをご存じだろうか?
 終活ねっとによると、たとえばヒンドゥー教では遺体を焼いたのち聖なる川であるガンジス川に流すし、イスラム教では火葬が禁じられている為土葬をする。カトリック・プロテスタントにおいては従来土葬が一般的だったものの、最近では火葬も増えてきていると言われている。このように宗教や宗派によって遺体の埋葬方法は様々だ。

 そんな中で、「鳥葬」と呼ばれる一風変わった埋葬方法を選択する宗教がある。ゾロアスター教だ。
 鳥葬とは、読んで字のごとく、遺体処理を鳥に委ねる埋葬方法のことである。何故ゾロアスター教の民は遺体を鳥に食べさせることを選んだのか?鳥葬のルーツを探る為、イランのヤズドへ飛び立った。

ヤズド

 ヤズドはイランのほぼ中央に位置するオアシス都市で、町の周囲には荒涼とした岩石砂漠が広がる。ゾロアスター教の聖地として知られており、インドなど世界中に約10万人いるとされる信徒が巡礼に訪れる宗教都市としての側面も持つ。
 今でこそイランはイスラム国家だが、遡ること2,600年前、アケメネス朝ペルシア時代には、周辺に住むペルシア人のほとんどがゾロアスター教を信仰していたと言われている。その後イスラム教の伝来とともにゾロアスター教の信仰は廃れ、今ではイランにおけるゾロアスター教信者は約1万5千人まで減少しており、そのほとんどがここヤズドに暮らしている。

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 この街を訪れた最初の西洋人旅行者マルコ・ポーロは、「学識が高く優秀な人々が住む美しい街」と称えた。日干しレンガ積みの家屋が迷路のように連なる街並みを歩いていると、突然視界が開け、ふと視線をあげるとモスクとそのミナレットがそびえたつ凛々しい姿が目に入るだろう。

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 ゾロアスター教は火を神聖視する宗教の為、別名拝火教とも呼ばれる。ゾロアスター教の神殿には火が灯されており、信者は火に向かって礼拝する。アーテシュキャデというゾロアスター教寺院では、1,500年間その火が絶えたことがないといわれる聖火を見学することができた。

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 火を神聖視する理由は色々考えられるが、1つには地下資源の豊富なイランの地域性が挙げられるだろう。地表付近に溜まっている天然ガスが石や砂と擦れることで火が付くと、地下に無限の天然ガスが眠っている為その火は永遠に燃え続けることになる。
 国は異なるがアゼルバイジャンに地面を蹴とばすと火が噴き出る場所があった。トルクメニスタンでは1971年に天然ガスの採掘現場が崩落し、その後50年近く経過した今もなおごうごうと燃え立つ穴を見学することができる。
 このような現場を目にした古代の人が、火に畏怖の念を抱き、祈りを捧げてきたのだろう。

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 そういうわけで神聖な火で遺体を処理することを忌み、火葬という手段は取りえなかった。また、火には劣後するが土・水・空気も神聖視している為、それらを用いた遺体処理はありえない。そのような背景ゆえに鳥葬という文化が誕生したと考えられる。

◇ ◇ ◇

 鳥葬はその辺の庭先に遺体をポンと置いておくといったことは流石になく、岩山の頂上に穴を掘り、そこに安置したそうだ。現在は使用されていない古い岩山、その名も「沈黙の塔」が荒野の中に静かにそびえたっていた。

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 現在は鳥の姿は見られなかったが、ほんの数十年前まではこの地にもハゲタカが飛び交っていたそうだ。
 頂上はからっぽの穴があいているのみだった。

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 沈黙の塔を後にし、宿に帰った。宿のテラスから見渡す限りいっぱいに広がる日干しレンガの街並み。これは世界でも最大規模だそうだ。家屋の屋根には空気孔が設けられ、これによって熱い空気を外に逃がし、部屋を涼しく保つ天然のクーラーの役割を果たしている。
 また、目にすることはできないが、水の蒸発を防ぐ為に地下に設けられた水路「カナート」は、その卓越した技術力からユネスコの世界文化遺産にも登録されている。
 この街を形作る火・土・水・空気の力を改めて目の当たりにし、ゾロアスター教の聖地たる由縁を知ることができた。

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