後輩力とメシ哲学~『黄金の定食』
あなたは後輩力があるだろうか?僕にはない。
自分でいうのもアレだが変なとこシャイで天邪鬼な僕は「嬉しい/楽しい/大好き」というドリカム感情を人前で爆発させるのがあまり得意じゃない。
内心しっぽブンブン振って嬉ションのスプリンクラー状態でも、それを他人に伝わる形で態度に出すのが苦手なのだ。
結果、表情が乏しく口数も少なく中途半端にガタイがいいという要素の悪魔合体で半熟のゴーレムみたいな有り様になる僕は、人生の各場面で諸先輩方に可愛がられるようなムーブがあまりできなかった。
ついでに言えば若い頃は変なプライドを守ることに固執していたのかもしれない。
今思えばそれは他人との間に壁を作るための逃げの口実なのだけど、遠回りはしたが今こうして過去の自分の至らなさを俯瞰で見られるようになったのでよしとしよう。
加えて、こんな僕に現在進行形で良くしてくれる人生の諸先輩方には改めて感謝である。いま自分でも(嘘くさい書き方になったな~)と思ったが偽りない本音だ。信じてほしい。信じてよ。頼むって。
で、そんな後輩力について。
まさしくその後輩力の高さ、本人の言を借りれば「奢りがいのある後輩感」が決め手となりTVプロデューサーの佐久間宜行さんが自身の番組にキャスティングしたのがなにわ男子の大橋和也くんだった。
またそのパートナー兼先輩役に「メシを美味そうに食うから」という理由で選ばれたのがシソンヌの長谷川さんだ。
かくして2人のグルメバラエティ『黄金の定食』は今年1月からワンクール限定で始まり、それを見た僕が今こうしてnoteに感想を綴っているというのが事の経緯だ。
悩んで食うメシこそ至高
番組内容は2人が毎週どこかの定食屋に訪れ、考え抜いたうえで今自分が最も食べたいメニューを選んで食べるというもの。それ以上でもそれ以下でもない。
ちなみに僕は芸能人がただメシを食うだけのグルメ番組に何の興味も持てない人間で、自分が今すぐ食べられない料理を映像で見せられ、いくら言葉で感想を伝えられても「どうせ今食えないし、後日調べて店に行くほどの熱意もないしなぁ」と何も感じない虚無に着地してしまう。
そんなグルメ番組は、基本的に番組や店側が取り上げたいメニューが事前に決まっており、それを受動的に出演者が食べて感想を言うという流れが主だろうが、本番組『黄金の定食』は「いま自分が何を最も食べたいのかを徹底的に悩む」ということが軸になっている。
またそうして悩んだ末に最終的な注文メニューを決めるまでには3つの工程がある。
まずはメニュー表を受け取り、字面で見た料理名の印象だけで暫定の希望メニューを決定し申告。
次に、事前にその店の全メニューを制覇した番組スタッフから、オススメのメニューTOP3が調理映像つきで発表される。2人はそのプレゼンおよび映像を鑑みて再度希望メニューを選び申告。
この時点で先ほどの希望メニューから変更する場合もあれば、あくまで最初に決めたメニューを貫く場合もある。その揺れ具合が実に人間らしく見ていて面白い。
そして最後の第3工程として、実際にその店に通い続けている常連さんのオススメを聞く。日常的に通っている常連さんだからこそ、各メニューを何度も味わって最終的に選び抜いた推しメニューに関する熱のこもったプレゼンが展開される。
それを聞いたうえでついに最終的な注文メニューを決定する、という流れだ。
やはり徹底的に悩み抜いたメニューだけあり、完成した料理が出てくると2人は本当に美味しそうにそれを食べる。
なおリアタイで観ると日曜深夜(※日向坂の後)という時間帯からだいぶ飯テロ指数が高いので要注意だ。
「食べたいものを選ぶ」という哲学的行為
白状すると、僕は基本的に食に関する興味が薄かった。
どちらかというと何を食べるかよりどういう状況で食べるかというシチュエーションを重視する傾向があった。
要するに「嫌いな上司と食うステーキより一人で食う牛丼の方がよっぽど美味いわ」と声高に主張する面倒で偏屈な人間なのだ。
なので、これまでの人生でも「いま何を食べたいか?」と深く自問した経験がなかったように思う。
ただこの番組で真剣に悩む2人の姿を見て、いま自分が何を食べたいかを悩むことは、目の前の選択肢から何を選べば自分が最も幸せになれるのかを考えることであり、ひいては自分の人生の幸福をミクロな視点から考えることに繋がるのではないかと改めて思った。
イングランドの文学者、サミュエル・ジョンソンは『腹のことを考えない人は、頭のことを考えない。』と言ったらしい。
考えてみれば「食べる」という行為は「生きる」という目的へ向かうための最も重要な手段の一つである。
その「食べる」という行為を自分なりに悩み考えてデザインすることは「どう生きるか」に繋がってくるのではないか、みたいなことを足りない頭でグルグル考えていると、これまで食に無関心に生きてきた時間をもったいなく思った。
同時に、食べたいものを考える心の余裕があり、それを実際に選んで食べられる自由があることは実はとてもありがたいことなのだと改めて感じた。
最後に
「若いうちから不健康な料理ばかり食べてはいけない」という警告はよく聞くが、逆にいえば歳を取った後にそういう不健康な料理を消化できる元気な胃を維持できている保障はない。
だからこそ健康な食生活への意識は持ちつつ、時には欲望に正直に「いま何を食べたいのか」の答えに素直に従うことも大事だなぁ…みたいなことを、大橋くんと長谷川さんのキラキラした食べっぷりから教えられた気がする。
同時に、いくらオッサンになろうと後輩力への憧れは持ち続け、この番組を通して「後輩の先輩」こと大橋くんから愛嬌ある振る舞いを学んでいこうと思う。
P.S.
どっしり構えつつも茶目っ気があり、後輩からツッコむ隙もちゃんと残せる長谷川さんの先輩力も素敵だし、美味しい料理を前にああでもないこうでもないと悩む2人の掛け合いはとにかく微笑ましい。ご視聴はなるべく満腹時にどうぞ。