Abu Dhabi Autonomous Racing League (A2RL):自動運転車によるレース


はじめに

 はじめての投稿となります。合同会社クラウドデザイン研究所の進藤と言います。このnoteでは、様々なデジタル技術を使った挑戦事例とか、データの面白い見方などの紹介をしていきたいと考えています。
 その第一弾として、先日開催されたAbu Dhabi Autonomous Racing League (A2RL)、自動運転車を用いたレースについてまとめてみたいと思います。なお、基本的な内容はこちらのウェブサイト(Abu Dhabi Autonomous Racing League in UAE | A2RL)とyoutube動画(Service AlwaysON 施策動画 (youtube.com))に記載されている内容となります。詳細を確認したい方はこちらを確認してください。

Abu Dhabi Autonomous Racing League (A2RL)とは

 Abu Dhabi Autonomous Racing League (A2RL)とは、自動運転の車によってレースをしようというイベントです。今年が初開催ですが、毎年、世界中の教育機関などが参加して、賞金225万ドル(2024年の場合)を競ってレースを戦っていくとしています。
 主催者はASPIREという企業で、アラブ首長国連邦UAEの機関であるATRC( Advanced Technology Research Council、先進技術研究評議会)の傘下にあるようです。そのため、次世代の技術者の育成やアブダビの地域の産業育成なども目的としています。
 なお、レースが行われたヤス・マリーナ・サーキットは毎年F1も開催されているコースで、全長5.281km。ラップレコードは2021年のレッドブルレーシングのマックス・フェルスタッペンの1:26.103でした。

会場となったヤス・マリーナ・サーキット(a2rl.ioから)

車両について

 ベース車両としては、日本のスーパーフォーミュラで使用されている車両が使われています。
 エンジンはホンダ製の2.0lターボエンジン。トランスミッションは6速。ブレーキはブレンボ製のカーボンブレーキ。タイヤはヨコハマ製となっています。
 自動運転に必要なセンサー類については、ソニー製の7台のカメラで360度の視界を確保し、ZF製の4台のレーダー、Seyond製の3台のLidar、それらを束ねるNeousys製のコンピュータとなっています。

ベース車両(a2rl.ioから)

参加チーム

 今年のレースに参加したチームは以下の8チームです。主に大学の研究室などが中心となって構成されているようです。

  • Code19 Racing(アメリカ)

  • Constructor University(ドイツ・スイス)

  • Fly Eagle(中国・UAE)

  • HUMDA Lab(ハンガリー)

  • KINETIZ(シンガポール・UAE)

  • PoliMOVE(イタリア)

  • UNIMORE(イタリア)

  • TUM(ドイツ)

レーススケジュール

 以下のような流れになっていました。

  1. 自動運転車2台によるマッチアップ(前日)
    ※2台が前後に走っていきストレートで抜くことができるかのマッチアップ

  2. 予選(前日に2セッション、午前中に1セッション)
    ※タイムを競い、上位4台が決勝に進出

  3. 自動運転車と人間のドライバーによるエキシビジョン

  4. 予選上位4台による決勝

マッチアップと予選の様子

詳細は以下のyoutube動画をご覧ください。
(頭出ししてあります。)

 マッチアップでは、まずイタリアのPoliMOVEが先行し、ドイツのTUMが追う形で始まったものの、ストレートが終わったコーナーで両方とも相手にかまわずコーナーリングしようとして追突して終了。
 2戦目はアメリカのCode19 Racingが先行し、ドイツ・スイスのConstructor Universityが追う形。今度は、Constructor Universityがストレート上で余裕で抜き去っていき終了。というような場面が映像で流されました。
 予選は、それぞれが単独で走行してタイムを競いますが、まずCode19 Racingがコース上で止まってしまった映像から。その後、TUMがUNIMOREのタイムを更新してトップに。
 その他のチームは、Fly EagleはGPSをロストしたらしく、壁にぶつかりそうになってコース上でストップ。同じことがストレートでも起こったようでした。KINETIZは曲がるところを間違えた?のか、右側の壁にヒットしてストップ。なかなか混とんとしているのですが、さらにPoliMOVEの車はストレートの真ん中で突然タイヤをロックさせて停止。なんでかわからなかったです。以上がセッション1。
 夕方に行われたセッション2では、まずUNIMOREがセッション1のTUMのタイムを更新しトップに。続くCode19 Racingはゴールまではたどり着けたもののタイムはいま一つ。次のConstructor Universityは2番手タイム。
 位置情報のトラッキングをもとにした各車のライン比較の映像が流れるのだけれど、途中で終わってしまいよくわからず。1周2分ほどかかるので、映像的にはだれるのかもしれないけれど、もう少し見てみたかったです。

ライン比較の映像(youtubeから)

 その他のチームについては、セッション1でトップだったTUMはコースをはみ出してストップ。ネット回線がオフラインになった、と言っていたような。続くPoliMOVEもFly Eagleもコーナーでスピン。もう日が暮れて涼しくなっているので、タイヤがグリップしなかった感じでした。このあたりの変化を読み取っていくのはまだまだ難しいようです。
 予選最後のセッションは翌日の午前中、再び暑い昼間に。まずUNIMOREがトップタイムを更新。続いてPoliMOVEがタイム更新してトップに。TUMは再びコースアウトで終了。セッション2に比べてちゃんとタイヤがグリップしている感じがしていて、このあたりの加減が難しい。F1のドライバーでも高度なレベルでの争いではあるけれど、タイヤをちゃんと使えるドライバーとそうでないドライバーで結構差がつくことがあるので、このあたりは研究していく必要があるのでしょう。
 以下の上位4台が決勝進出となりました。イタリアチームとドイツチームがそれぞれ2台ずつ。

予選の結果(youtubeから)

エキシビジョンと決勝の様子

エキシビジョンの詳細は以下のyoutube動画をご覧ください。
(頭出ししてあります。)

 エキシビジョンは運営が用意した自動運転車と元F1ドライバーのクリスチャン・クリエンが運転するスーパーフォーミュラーの走行。タイム的には20秒以上人間のほうが早いためレースにはならないけど、レースコースの上で、自動運転車を人間が抜いていったということが大事なのです、と解説していました。
 youtubeの動画では、先にこのエキシビジョンがあって、そのあとに予選の模様とかが流されたので、あまり感じなかったけれど、予選にあったような突然の停止や急なターンがあるという可能性を考えるとクリエンは怖かっただろうなと。まぁ、似たような動きをする人間のドライバーもいますけどね。
 いよいよ最後。決勝レースは8周。そのうち2周は追い越し禁止の隊列走行をして、3周目からレースをするというレースフォーマット。ちなみに真ん中のライトの意味は、緑が近づいても大丈夫、赤がエラーで停止、紫の点滅がAI起動中、紫の点灯がAI稼働中、らしいです。

決勝レースの詳細は以下のyoutube動画をご覧ください。
(頭出ししてあります。) 

 スターティンググリッドは以下のとおり。なお、それぞれの車に名前がついているようで、それが一番初めに書かれています。イタリアチームは女性の名前。ドイツチームは女性の名前のところと味気ない名前のところ。

  1. EVA : PoliMOVE(イタリア)

  2. GIANNA : UNIMORE(イタリア)

  3. HAILEY : TUM(ドイツ)

  4. Constructor AI : Constructor University(ドイツ・スイス)

 1周目。PoliMOVEのEVAを先頭に周回。人間のドライバーの時よりずっと車と車の距離が離れている。これではレースにならないのでは、とも思ったり。
 2周目。3番手まではそこそこ近づいたけれど、Constructor AIが少し遅れている。ちょっと離れすぎでは。でも、このスピードで自動運転車4台が同時に周回しているというのはそれはそれですごいことかも。
 3周目。レース開始かと思ったらまだでした。計算がよくわからないけど、もう1周してからが本番らしく。各車2秒から5秒程度の間隔で周回。
 4周目。さぁレースだ。と思ったら、4周目に入る直前の最終コーナーで2位のUNIMOREのGIANNAが突っかかったような感じとなり、つられてTUMのHAILEYが停止。後ろのConstructor AIも停止。GIANNAはそのあと加速していったけれど、HAILEY以下は停止したまま。
 先頭の2台もレースをしてよいのか、悪いのか、というようなペースで隊列で走行。一方、後方2台はまだスタートライン手前でうろうろ。結局再度セーフティーカーモード(追い越し禁止)に。これによって後方2台も走り始めた。でも、このモードにすると、ちゃんとそれに従うって、それはそれですごいですね。
 ただ、これによって、前方2台と後方2台の差が55秒に。どうするんだろ。人間であればゆっくり走らせて待たせるということも可能だろうけど。レースコントロールが難しい。
 5周目。20秒ほど離れていたと思うけどレース開始。先頭2台は快調に飛ばしていく。3番手のTUMも15秒くらいまでは差を縮めていた。と、バックストレートで先頭を走るEVAがスピン。反対方向を向いてしまった。2位のGIANNAはうまくよけてそのまま先へ。HAILEYも抜いていった。取り残されたEVAは戻ろうとしたけどスピンターンなんてできないので、横を向いたままコースのはずれでストップ。そして、多分イエローフラッグが出たので、4位のConstructor AIはそれを抜くことができずに見ている状態に。さらに、1周走ってきたGIANNAはその後ろにストップ。なかなかシュールな光景。

スピンから抜け出せない車とそれを遠くから見ている車(youtubeから)

 結局、全車一度ピットに戻り、そこから仕切り直しとなりました。EVAはローダーに載せられてドナドナされてピットへ。

再スタート後の決勝レースの詳細は以下のyoutube動画をご覧ください。
(頭出ししてあります。) 

 再スタート。しかし、EVAは再起動できなくてリタイヤ。ポールポジションだったのに残念でした。残り3台で全部で7週となったレースを戦うことに。
 フォーメーションラップがあったので、7周目のファイナルラップからレースが再開。トップはGIANNA。それをHAILEYが追う展開。しかし、コーナー入口でGIANNAが突然ストップ。それをHAILEYがきれいに追い抜いて行った。このままゴールして終了。TUMのHAILEYが優勝となりました。1位と2位にいたイタリアチームは残念ながら全滅し、ドイツチームが1・2でした。

終わりに

 本格的なレースコースで初めて行われる自動運転車によるレースということでしたが、動画の中でも何度も言い訳?をしていたようにまだまだ実証段階で、まずはやってみたという感じでした。端的に言えばグダグダな展開。
 ただ、その中でも印象に残ったこととして、人間のドライバーのレースにおけるタイヤマネジメントの凄さという点があります。F1を見ていると良くタイヤマネジメントにより勝敗が決するような話が出てくるのですが、今回のA2RLのイベントでは、予選が非常に暑い中東の昼間に行われて、決勝が涼しくなった夜間であったため、日中に集めたデータがあまり使えなかったのではないでしょうか。結果として、5周目のスピンが発生してしまったように思います。
 ただ、逆に言えば、そういったコントロールが必要なレベルまでは達しているとも考えられ、スーパーフォーミュラーのマシンをコントロールすることについては自分よりもずっとうまいのだろうなぁと感じました。
 補足として、メタクエスト用のアプリも提供されていて、イベントの様子をヴァーチャル空間で観戦できたのですが、リアルタイムの時間帯は深夜であったため寝てしまっていて、体験できなかったのが残念でした。
 また、面白そうなチャレンジとかがあれば紹介していきたいと思います。

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