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ジェンダーの社会学(1)

経緯について

課題内容

(1)学校教育のプロセスにおけるジェンダー問題について教科書の内容をもとに説明し、(2)新聞などで報道される実例を挙げながら、(3)それに対する自分の意見を述べなさい。

答案要約(忙しい人向け)

  • 理系分野で女性が少ない現状は、性差ではなく社会的偏見や教育環境の影響によるものと指摘

  • 2021年のデータでも理系分野の女子比率が依然として低い

  • 横山教授らの研究によると、「理系は男性的」という固定観念が日本社会に根強く存在

  • この偏見が女性の進路選択を制約し、人権問題と考えられる

  • ジェンダー平等の実現には、学校教育に加え、家庭や職場での対話が重要

答案(評価 A)

(1)
 専攻分野別の女子比率について、人文科学系や家政・教育・芸術関係の学部では女子比率が高く、社会科学系・理学・工学系の学部では低い。あらゆる専攻分野において男女比の不均衡がある。
 確かに、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)では、読解能力に関してはほぼすべての国で女子の成績が優位、数学的能力に関してはおおよそ半数の国で男子の成績が優位、科学的能力は国によって多様という結果が出ている。
 この結果は、一見すると生来的な性差によるものと解釈できなくもないが、数学的能力や科学的能力の性差に関しては国を超えた一貫した規則性は確認できず、また同じ国でも変化があり、性差をあらわす数値が相対的・流動的なものであると示唆されている。
 つまり、教育や社会環境の変化の改善によってPISAの結果は変化しうると考えられており、女子の科学技術分野の能力開発は国際的な教育課題とみなされている。

(2)
 上記の調査は2012年のものだが、内閣府男女共同参画局によると、大学の専攻分野別の女子比率は、薬学・看護学等70.3%、人文科学65.0%、教育学59.0%である一方で、社会科学35.8%、理学27.8%、工学15.7%となっており、2021年時点においても依然として男女比の不均衡が明確に存在している [*1] 。
 産業界に目を向けると、IoTやAI、ビッグデータ活用を始めとした情報技術の急成長によって、製造業や情報通信・ソフトウェア業における技術職の需要は増えており、少子高齢化による労働力不足がさらに拍車をかけている状況である [*2] 。
 家庭では夫婦共働き世帯の割合も増加し続けており [*3] 、日本経済の低迷によって十分な所得が得られないという問題はあるにせよ、男女ともに職業を通して自己実現や経済的自立を目指すことは、より良い人生につながると感じられる。特に職業選択においては、理工系分野のバックグラウンドによって、専門性を生かした職種に就ける可能性も高く、確かな技術力と経験を積んでいけば長期的に需要が見込まれる分野である。理系へ進学するかどうかは、その後の職業人生に大いに影響する重要な選択になるだろう。

(3)
 それにも関わらず、なぜこれほど理系分野に女性が少ないのか。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の横山教授らのプロジェクトチームは、この疑問について、「優秀さは男性のものであり女性には不要である」という「社会風土」が影響を及ぼしていることを指摘している。
 横山らは科学の6分野(数学、物理学、化学、機械工学、情報科学、生物学)に対して「男性的」か「女性的か」というジェンダーイメージの感じ方を統計的に調査し、各分野のジェンダー度を示した。その結果、やはり理系は男性の学問だという偏ったイメージが鮮明になり、回答者のジェンダー平等度が低い人ほど、科学に対してより男性的なイメージをもつことも明らかになった。
 さらに横山らは、日本で特に女性が少ない数学と物理学に対して男性的なイメージを強める要因モデルを整理し、日本とイングランドの調査結果を比較している。その中で日本では、女性は知的でないほうが良いと思う人ほど、数学に男性的なイメージを持つ、と報告しており、さらに、男性も女性も「数学ステレオタイプ(女性は生まれつき数学ができないという誤った思い込み)」を明快に否定も肯定もせず、日本のジェンダー平等度は、イングランドと比べて男女ともに低い、と述べている  [*4] 。
 このことから、理系分野に進学する女性には、分野の男性的カルチャーや性差別についての社会風土が影響している。本来、社会は男性と女性の両方の手で形成していくものであるが、日本では現在でもなお、女性にとって選択の機会が平等にあるとは言えない状況である。特に「知的な女性が奨励されない」という社会風土は、深刻な人権問題である。
 目の前の人を男性か女性かではなく、一人の人間として思いやり、個々の意思決定が平等に尊重される世界でなければならないだろう。そのためには、学校教育段階でのジェンダー平等教育に加えて、家庭や職場でも男性、女性を問わず、ジェンダー問題について日常的に身近な人と語り合うことが大切である。

参考文献
[*1]内閣府男女共同参画局 : 大学(学部)及び大学院(修士課程、博士課程)学生に占める女子学生の割合(専攻分野別、令和3(2021)年度)
[*2]経済産業省:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査/IT人材に関する各国比較調査(2019年)… IT 需要の伸びが「低位」「中位」「高位」の場合、2030年にはそれぞれ16.4万人、44.9万人、78.7万人の需給ギャップが発生。
[*3]厚生労働省:共働き等世帯数の年次推移(2022年)
[*4] 横山広美 : 幻冬舎新書『なぜ理系に女性が少ないのか』(2022年)


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