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高齢になった親と向き合う18



病院に向かう日の朝


“兄っちゃんを恨むんでないよ
 父さんのことも恨まないでよ
  病気は誰のせいでも
   何かのせいでもないから“

と母が言った


真意はつかめなかったけど


咄嗟に
“わたしはそんなバカじゃない"

って言って
顔がくしゃってなって
泣いた


母も
ウルっとしながら
満足気にうなずいた


オプソ内服液
と書いてある
モルヒネを飲んで


“起こしてー“と
子どもみたいに
両手を広げる


全身の苦痛に耐え
ベッドの上に座った


母のガラケーに
友だちからメールが来たようだ
♪ シルビーバルタン
      あなたのとりこ ♪ が鳴る

メールを読んだ後電話をかける

"元気ー?これから病院に行くのさー!旦那さんに限りなく優しくしてね限りなくだよ!はーいじゃあね"

自分のことより相手のこと思って
母らしい


予約の時間より遅く病院に着いたけど
すぐ血液検査とエコーと診察をしてくれた


肝転移あり
退院の見込みなし
もって約1か月


さすがに今回ばかりは担当医も
本人には伝えない
と言っていた

人の好き嫌いがはっきりしている母だけど
担当医と担当の看護師さんのことを
気に入っていて信頼している

そうゆう気持ちが
担当医と担当の看護師さんにも
伝わって
優しい言葉で包んでくれたんだと思う


この頃になると
実家から遠ざかっていた兄も
週に1度は面会に来てくれた

“毎日親の所に行こうなんて
オレは思いつかなかった
ちゃいは偉いな
オレは薄情だな
ちゃいにばっかり悪かったな"

と兄が言った


ああ母さん
兄がこんな風にぼやく事を見越して

“兄っちゃんを恨むんでないよ
 父さんのことも恨まないでよ
  病気は誰のせいでも
   何かのせいでもないから“

ってわたしに言ったんだね

とそのまま兄に話すと
少し慰められた様子


だけど
それと同時にわたしの感情から

 父と兄を自分と比べてモヤモヤしたり
 あの時あーすれば良かった
 どうしてこうなったのと考える


恨んだりする感情
負の感情を


封印してくれてたんだね



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