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周術期の予防的抗菌薬投与,適切に行われていますか!?


 今回はSSI(手術部位感染)対策の1つ,手術時の「予防的抗菌薬投与」について取り上げます。
 以前は、厳密なエビデンスに基づかない投与が行われることがあり、術後も主治医の裁量で投与が続けられることがありました。しかし、その後耐性菌蔓延の問題が顕在化し、現在ではWHOの手術安全チェックリストにも組み込まれ、エビデンスに関しても多くの報告があり,ガイドラインも複数存在します.

ガイドラインの例

  • 日本化学療法学会/日本外科感染症学会 実践ガイドライン・ドラフト版

  • CDC Guideline for Prevention of Surgical Site Infection (2017)

  • ASHP Therapeutic Guidelines on Antimicrobial Prophylaxis in Surgery (2013)

  • SHEA/IDSA Practice Recommendation: Strategies to Prevent Surgical Site Infections in Acute Care Hospitals (2014)

  • NICE Guideline: Surgical Site Infections: Prevention and Treatment (2019)

 試験でも頻出するこのテーマのポイントは、「どの抗菌薬をどのくらいの量投与するのか」、「術前はいつまでに投与するか」、「術中の追加投与はいつ行うのか」、「術後の投与はいつまで行うのか」です。それでは一つずつ見ていきましょう。

どの抗菌薬をどのくらい(量)投与する??

 抗菌薬には多くの種類があります.どれを使用すれば良いでしょうか.え?外科医や麻酔科医の指示通りいけばいい?いや,そりゃそうなんですけど・・😅
 治療のための抗菌薬は,感染の起因菌とその感受性に応じて投与されますが,今回は「予防的抗菌薬」の話です.感染はまだ生じていません.つまり,ターゲットとなる細菌は「その手術部位に存在する可能性のある常在菌」となります. 

ほとんどの手術で使用されるセファゾリン(CEZ)

 現場で働いていると実感していると思いますが、ほとんどの場合、予防的抗菌薬としてセファゾリン(CEZ)が使用されます。術後のSSI(手術部位感染)の起因菌の多くは皮膚常在菌(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)であり、これらの多くはグラム陽性球菌です。これらにはセファゾリンが有効です。
  また、腸管手術などでは、グラム陰性桿菌や嫌気性菌も関与する可能性があり、これらに対してはセフメタゾール(CMZ)や追加の抗菌薬が選択されることがあります。
 ただし、ペニシリンやセファロスポリン系などβラクタム系抗菌薬にアレルギーがある患者には、クリンダマイシン(CLD)やバンコマイシン(VCM)などが使用される場合があります。
 手術別のその他の抗菌薬選択については,様々なWebサイトや教科書に掲載されていますので,丸暗記する必要はありませんが一度眺めてみることをおすすめします.

量は一般的な治療に用いられる量を.ただし・・

 セファゾリンの場合は一般的な治療量は1回1-2gです.ただし,腎機能低下症例では投与間隔を調節したり,肥満患者では1回の投与量を増量することが考慮されます(80kg以上で2g,120kg以上で3gなど.各種ガイドラインを参照のこと).


いつまでに投与する?

手術開始時には投与終了していること!

 どんなに遅くても創部に感染リスクが発生する執刀開始時までには投与終了しておきましょう(手術開始までの60分以内).搬入時に病棟から投与開始する施設もありますが,多くは手術室内に入ってから開始されます.
 搬入から手術開始までの時間は麻酔の種類や施設により様々かと思いますが,多くは麻酔時や麻酔終了時に開始されると思います.上記のセファゾリンはボーラス投与も可能とされているので,手術開始に間に合わないことはないかもしれませんが,バンコマイシンなど急速投与できない抗菌薬もあり,その場合は1〜2時間ほど前から1時間ほどかけて投与されます(バンコマイシンは急速投与で血圧低下を起こす可能性があります).


術中の追加投与はいつ行う?

原則として半減期の2倍程度の時間で再投与

 感染のリスクがある場合,血中濃度をある一定濃度以上に保つ必要があるため,濃度が一定以上低下するにタイミングで再投与する必要があります.セファゾリンの半減期は正常腎機能患者ではおよそ2時間であるため,初回投与後3〜4時間程度で行われることが多いです.
 それよりも半減期が短い抗菌薬を用いる際には,理想的にはそれに応じて投与間隔を短くすべきではありますが,施設によってはプロトコルが煩雑になったり,人為的なミスが起こりやすくなることから「抗菌薬再投与は3時間」としてタイマーを設定しているところも多くあります.
 また,バンコマイシンは半減期が4〜6時間程度と長いため,通常の手術では再投与することはあまりありません.また再投与する際には急速投与にならないように気をつける必要があります(輸液ポンプを用いたり,ない場合は意識していないといつの間にか早く落ちてしまう場合もあるので・・).
 現在のところ再投与によるSSI発症率低下のエビデンスは限定的ですが、手術の長時間化や大量出血時にはプロトコルに基づいた再投与が推奨されます。なお、再投与開始時刻は、初回の投与終了時(開始時ではありません)です。

大量出血時は・・・

 また,大量出血がある場合,それに伴い血中濃度も低下することが予想されるため,1,500mL以上の出血がある場合には3時間等の間隔を待つことなく,再投与することを考慮します.

腎機能低下患者は・・?

 腎機能が低下している患者(クレアチニンクリアランスが50mL/分未満など)では抗菌薬の半減期が延長しているため,通常1回の投与量は減少させる必要はありませんが,投与間隔を長くする必要があります.

肥満患者では・・?

 CDC(アメリカの疾病予防管理センター:Centers for Disease Control and Prevention)のガイドラインにはエビデンス不足により推奨されていませんが,ASHPガイドライン(American Society of Health-System Pharmacists)や,JSC/JSSI実践ガイドライン・ドラフト版(日本化学療法学会/日本外科感染症学会)では,肥満の程度に応じて1回投与量を増加させることが推奨されています(例えば120kg以上では3gなど).
 具体的な増量の程度は各ガイドラインを参照してください.


術後はいつまで投与する?

 原則としては24時間以内(清潔創では術前のみ)とされています.ただし,ガイドラインによっては条件(創の正常度や手術の侵襲度)によりやや長めに設定されています.
 いずれにしろ特に感染を起こしているわけではないのに,漫然と術後数日以上投与することは耐性菌の発生を招きますので,厳に慎む必要があります(院内ICTから指摘受けると思います・・).


各病院ごとのプロトコルに従いましょう

予防的抗菌薬の投与が上記を踏まえて適切に行われているかどうかを調査したところ,適切な使用でないと判断される事例がとても多かったようです.
 現在,手術を行なっている病院では予防的抗菌薬の投与に関して,各種ガイドラインを参考に,抗菌薬の選択,再投与時間,術後投与の期間等のプロトコルが作成されていると思いますので,一度確認をしておきましょう!

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