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”好き”で社会にイノベーションを起こせるのか?
武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 一般社団法人i.club代表理事 小川 悠さん
2020年5月25日(月)、i.club代表理事の小川 悠さんのお話を伺った。イノベーション教育の話で、中でも「地域」というテーマに重きが置かれていた。簡単にいうとイノベーションの原動力は「自分の好きなこと」であり、実現するための具体的な方法は
1.自分の好きから「問い」を立てること
2.まだ他の人がいない領域で勝負すること
である。
「好き」起点のイノベーションの難しさ
「1.自分の好きから「問い」を立てること」は、最近流行している「アート思考」で言われていることである。例えば『13歳からのアート思考』(末永幸歩、2020、ダイヤモンド社)で著者はほぼ同じことを主張している。
しかし、この話を聞いてあえて問いたいと思った。どの理屈通りに実践できる人がどれくらいいるのか、むしろできている人は無意識に実践しており、この考え方は後付けの理屈なのではないか、と。
自分の好きから「問い」を立てる、ということも簡単ではないと思うが、さらに困難なのは「好き」を「誰も実践していないフィールドで実現すること」である。成功している人をみると、結果的にそうなっているのかも知れないが、これを理屈通りに実践しようとして、できる人は少ないのではないだろうか。なぜならば、この思考回路だと、自分の中にある「好き」がどんどん狭まっていくからである。極端な話、自分が一番好きなものが多くの人が既に好きだった場合、その「好き」は諦めなければならないのか、と思う人が多いのではないだろうか。
だからこう考えるところから始めてみてはどうだろうか
「自分の好き」を「他の人に興味を持ってもらえるように形に整えていく」
「好き」を伝えるところから始める
自分の「好き」なものをそのまま好きと言っても伝わらないことがほとんどである。けれども、もしかしたら、自分の「好き」なものの中には、人から見たら自分では気づけていない魅力があるかもしれない。これを見つけていく作業ならば、まだ考えやすいのではないだろうか。言い換えると、「自分の好き」と「社会の興味」の被りをみつけていくのである。人が興味を持つ理由の一つには「これまで知らなかった/なかった」という気づきがあるので、必然的に「誰も実践していないフィールド」という要素もここには含まれる。
これならば、まだアプローチの仕方は考えられる。それは他者/社会とのコミュニケーションである。自分の好きを積極的に発信し、相手の反応をみる。SNSでもいいが、まずは身近に相手に話してみることでダイレクトな反応が得られるので、そこからでも始めてみてもいい。もし具体的なターゲットがあるならば、その属性の人に聞いてみるのが良い。一人ではなく、3人、5人と試していくとだんだん共通して興味を持ってもらえるポイントが見えてくる。それが自分の好きを普及させる鍵である。
こう書くと、簡単なようだが実はこれだけでも相当難しい。試しに、自分が「絶対に好き」というものを1つ考えて、それを周りの誰かに話してみよう。自分の好きなもので人の心を動かすことが、いかに難しいか分かるはずだ。
小川さんの活動や実績は社会的な意義は大きく、素晴らしいものである。時代の流れにも合っていると思う。ただ、まずはイノベーションと大上段に構えずに、「好きを伝えるコミュニケーション」から始めてみては、と考えるのである。日本人は否定されることを嫌がり、自分の好きを表明することに慣れていないのだから、なおさらである。
#i .club #小川 悠 #イノベーション教育 #好き