ライドシェアは「あいのり」?「のりあい」?
高齢化と人口減少が進み、地域社会を支える公共交通が危機的状況にあるとき、自治体にはどのような選択肢があるのでしょうか ーーー 熊本県荒尾市の取り組みについて、Japan Timesに寄稿した記事の一部をご紹介します!
おもやい(OMOYAI)タクシー
かつて炭鉱の町として知られていた熊本県荒尾市。当時の三井三池炭鉱は25年前に閉山し、現在の荒尾市はゴルフ、温泉、遊園地などの複合リゾート施設である三井グリーンランドがあります。
住民人口が広範囲に分散している荒尾市では、バスや電車の便は少なく、タクシーを使うと相対的に高い値段がついてしまい、結果として高齢の住民を中心に家に閉じこもりがちになってしまうという課題がありました。この問題に取り組むために創り出された新たな移動サービスが、バスとタクシーの最も便利な部分を組み合わせ、効率的に運行するためのテクノロジーを加えた「おもやい(OMOYAI)タクシー」です。
車両はニューヨークキャブ風の黄色に塗られている2台の電気自動車。人工知能ベースのプラットフォームに接続されており、予約の管理、運賃の計算、常に変化し続けるルートのナビゲーションを行います。乗客はスマートフォンのアプリや電話を使っておもやい(OMOYAI)タクシーを呼び出します。料金はバスよりも高いものの、通常のタクシーの半額程度。荒尾タクシーと別の地域タクシー会社2社は、市に対して1日当たりの固定料金を請求しています。
このAIプラットフォームは、北海道の公立はこだて未来大学のコンピュータサイエンス研究者が設立したスタートアップ、未来シェアが設計しました。
未来シェアは100を超える自治体とともに実証実験を行い、そのうち約20自治体においてそのプラットフォームが実装されています。
あいまいなルール < 地元の合意?
日本の運輸行政は、バスとタクシーが明確に分かれていることを前提としています。つまりバスは「乗り合い」用で、タクシーは「プライベート」用、というわけです。一方、ライドシェアは「あいのり」と「のりあい」の2種類に区別されています。乗客が事前に予約し、ルートが最初から決まっているライドシェアは「あいのり」であり、これは従来のタクシーでも許可されています。ただし乗客が走行ルートの途中で車を呼ぶことができる場合、「あいのり」は「のりあい」になり、タクシーではなくバスの法的領域となります。
つまり、おもやい(OMOYAI)タクシーは「のりあい」に該当していました。ただし、幅広い裁量権を持つ交通規制当局、実際には国土交通省の地方運輸局が、地元の合意を前提に新たなライドシェアサービスが許可されたという背景があります。
荒尾市役所は、地元のバスやタクシーと競合しないよう、料金設定や運行時間(午後5時まで)にも気を配ったと言います。
おもやい(OMOYAI)タクシーの導入によって、荒尾市はバス事業への補助金を大幅に削減することができました。地元のバス会社は20路線のうち3路線を廃止し、2路線を減便しました。現在、月に約1,300人の利用者がいるおもやい(OMOYAI)タクシーが、その減便分を補っています。
地元のバス会社、産交バスは当初、事業が食い込まれることを懸念したものの、ライドシェアサービスは補完であることがわかってきたと言います。バスが主要駅や新興住宅地、グリーンランドリゾート、来年オープンする病院などを結ぶ人気路線にリソースを割くことができるようになるからです。
おもやい(OMOYAI)タクシー事業に参加する荒尾タクシーは、荒尾市がライドシェアサービスに支払う固定料金から得られる安定した収益からタクシー会社は恩恵を受けていると語ります。
縮小するパイを取り崩すのではなく、人の移動が増える仕組みを作ることによって、家族の負担を減らし、潜在的な交通需要を掘り起こし、パイ全体を拡大させる ーー 新たな子育て支援策など、荒尾市・おもやい(OMOYAI)タクシーの挑戦は続きます。