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【開催報告】「自治体における持続可能なPHRとデータ活用の設計」について

2022年4月11-12日、GSCA Japan Summit 2022を開催しました。2年ぶりとなった今年のオフライン開催では、全国の加盟自治体をはじめ産官学から多くの方々に参集いただき、スマートシティのさまざまな実践・実装の領域について議論しました。

本記事では、同サミットのセッション「自治体における持続可能なPHRとデータ活用の設計」の概要をご紹介いたします。

なぜPHRなのか

現在、日本だけではなく、世界的にも感染症対策や高齢者医療が課題となっています。PHRPersonal Health Record)は、そうした課題の解決策の一つとして期待されています。

これまでも、PHRを自治体でどのように実践できるかについて、さまざまな検討がなされてきました。しかし実際に、PHRは同意をどのようにとるか、持続可能性をどのように担保するか等課題も多く、ビジネスモデルづくりに苦労してきたという経緯があります。

セッション冒頭において、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの藤田は以上のような課題提起を行いました。当センターでは、PHRがもつ上の課題に対処するために、先進的な取組みをもつ自治体とともにワークショップを設け、その取組みについて知見の共有を進めています。


当日のセッションでは、三名の専門家の方々から先進的な取組み事例を紹介いただき、今後のPHR活用の仕方に活かすことを目的として議論しました。

(左から、敬称略)藤田卓仙・世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ヘルスケア・データ政策プロジェクト長、田口健太・KDDI 株式会社ヘルスケア事業推進部シニアエキスパート、宮内恒・株式会社三井住友フィナンシャルグループデジタル戦略部部長、中島直樹・九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター長/教授

スマホアプリ活用事例

KDDI 株式会社ヘルスケア事業推進部シニアエキスパートの田口健太氏からは、住民とコミュニケーションをとるためにスマホアプリを活用した事例について紹介いただきました。

KDDIでは、東京都次世代ウェルネスソリューション構築事業(pdf)の中でPHR実証を行っています。その一環として、スマホアプリを活用しているとのことです。

スマホアプリ活用事例ということで、2020-21年の二年間に行われた豊島区・板橋区・江戸川区での実証について報告がありました。その実証では、症状を有するなどリスクのある方の日常の健康予防から、未病段階を含むオンライン診療体験までワンアプリで実現しています。

現在は対面診療が基本となっていますが、先述のスマホアプリやPHRシステムを活用することで、オンライン診療を可能になります。将来的にオンライン診療対応を進めること、マイナポータルなどと協働し名寄せすることで医療データの利活用推進を図ることの重要性も、報告では強調されました。

医療データ・ポータビリティ確保のための情報銀行事業

株式会社三井住友フィナンシャルグループデジタル戦略部部長の宮内恒氏からは、医療データ・ポータビリティ確保に資する情報銀行の事業について紹介されました。

報告によると、まずデータ駆動型社会・Socitey5.0を実現するベースとして(医療データの)情報銀行があります。そのうえで、個人のデータ・ポータビリティを保証し、権利行使を可能にする手段としても情報銀行が役立つとのことです。

情報銀行に関するこのような捉え方のもと、「decile(デシル)」という事業が発足しました。decileは、阪大病院の監修を受けており、医療版情報銀行とも呼ぶべき事業になっています。decileの特長としては、大きく以下の3点が挙げられます。

◆開示するデータと開示しないデータをしっかり仕分けできる
  例えば、妊娠に関する内容、ペースメーカーに関する内容等、センシテ 
  ィブな情報をあえて見せないこともできる。
◆オンラインでの本人確認・認証に対応している
◆漏洩防止の対応等を動画で分かりやすく説明している

また、三井住友銀行は加賀市と協力し、デジタル田園健康特区の取組みを情報銀行の方面から推進しています。デジタル田園健康特区の詳細については、下の記事をご覧ください。

PHRの標準化

九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター長・同大学教授の中島直樹氏からは、PHRの標準化について報告いただきました。

報告ではまず現状認識が語られます。一方で、昨今の技術革新によって、IoT センサ、医療機器情報が使えるようになり、さらに健康医療情報がネットワークを通じて使えるように発展してきています。他方で、現状のPHRシステムは、データの多くが手入力となっており、それぞれのシステムが独立しています。

つまり、データの取り方が多様になり、その質や量も増加しているにもかかわらず、現状そのデータをうまく扱えていないということになります。また、とくに自治体としては、PHRということで市民のデータを預かることで、教育や災害救急にも使える共通基盤となるはずです。

したがって、上述の課題をクリアし目的を達成するために、以下の3項目がこれからのPHRシステムに求められることになります。

◆地域を超える(県境、市境を越えられる)
◆領域を超える(医療から介護まで一貫して情報が扱える)
◆時間を超える(長期保存ができる。幼少から老年まで扱える)

そして、こうした目標を実現するために、以下のことが必要であると中島氏は語ります。

◆意味的(臨床的)な標準化
◆技術的な標準化

国としても、「データヘルス集中改革プラン」(pdf) を厚生労働省が発表するなど、PHRの標準化は喫緊の課題として認識されています。PHRの標準化が進むことで、市民へのサービスが向上し、データの二次利用の道も開けることが期待されます。

(左から)田口健太氏、藤田卓仙氏、中島直樹氏、宮内恒氏

おわりに

セッションの最後には、会場の自治体関係者等の参加者を交えて議論がなされました。とくにレセプト・診療情報の扱いや、市民にどれだけ関心を持ってもらえるかということ、PHRの海外展開についてなど、これからも検討していくべき重要な課題が示されました。

こうした課題等に一つの解決策を与えるべく、私たちヘルスケア・データ政策チームでは、先述のワークショップを含め、さまざまな取組みを国内外で行なっていきます。活動報告は随時、こちらで更新予定です。ご期待ください。

著者:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 佐々木誠矢(インターン)

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