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世界の都市とともにルールをつくる 〜 スマートシティ・ポリシー・ロードマップ 〜

私たち世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターが事務局を務めるG20 Global Smart City Alliance(以下、GSCA)は、2020年11月17日、18日に開催された 「Smart City Live 2020」 のセッションの中で、「スマートシティ・ポリシー・ロードマップ」という新たな取り組みを発表しました。

今回、現在私たちが行っているこの取り組みと、公開されたポリシーに関する基本的な情報をぜひ知っていただきたいと思いこの記事を書きました。

スマートシティ・ポリシー・ロードマップとは何か

スマートシティ・ポリシー・ロードマップとは、私たちGSCAがスマートシティ推進の基礎となるポリシーのパッケージを提供し、その後世界の都市と協働で改善やアップグレードを繰り返しながら、最終的には都市がみずから自信をもって採用・実装できるレベルへとポリシーの価値を高めていく取り組みです。スマートシティを目指す都市は、これらのポリシーパッケージをスマートシティ関連政策の立案もしくは検討の際のベースラインとして活用できるようになります。

ポリシー策定においては以下の5つの重要な領域(5原則)を特定し、各領域に関連したモデルポリシーを提供することにしました。

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1. 公平性と包摂性、社会的インパクト(Equity, Inclusivity & Social impact)⇒ ICT アクセシビリティポリシー(ICT Accessibility Policy)

2. セキュリティとレジリエンス(Security & Resilience)
サイバーアカウンタビリティポリシー(Cyber Accountability Policy)

3. プライバシーと透明性(Privacy & Transparency)
プライバシー影響評価ポリシー(Privacy Impact Assessment Policy

4. オープン性と相互運用性(Openness & Interoperability)
オープンデータポリシー(Open Data Policy)

5. 財務面、運営面での持続可能性(Operational & Financial sustainability)
Dig Onceポリシー(Dig Once Policy)

現在提供されているポリシーには、オープンデータのように日本でも既に実装が進んでいる領域もあります。一方でDig Onceといった全く新しい領域も含まれています。
各ポリシーの策定は、世界の各地域の政府や民間部門、関連機関で政策策定に携わってきた専門家のタスクフォースにより行われました。策定に際しては、世界で展開されている先進的な政策の比較、分析や関係者との幅広い協議が実施されています。
今回提供されたポリシーは、各都市がより成熟したスマートシティを目指すために必要なポリシー全体のまだほんの一部にすぎません。私たちは今後新たなポリシーの追加や既存ポリシーのレビューおよびアップグレードのサイクルを繰り返しながら、ポリシーを継続的に進化、成長させていきます。

また私たちは、ポリシー・ロードマップに賛同頂いた世界の36都市をパイロット都市(正式名称はPioneer City)として公表しました。彼らはGSCAの活動を通じて各ポリシーの実装に協力頂くとともに、実装していく上での課題や改善点などのフィードバックを行っていくことを約束しています。パイロット都市にはロンドンやトロント、メルボルンなど世界各地域の主要都市が参画したほか、日本からも加古川市、加賀市、浜松市、前橋市の計4都市が参画しています(関連記事:【開催報告】第三回「スマートシティの最前線で、何が起きているのか―競争から協調へ)。

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パイロット都市の参画状況(こちらはGSCAのサイトからも参照可能です)

なぜスマートシティ・ポリシー・ロードマップが必要なのか

私たち世界経済フォーラム第四次産業革命センターの IoT and Urban Transformation 部門の責任者である Jeff Merritt はスマートシティ・ポリシー・ロードマップが必要な理由を次のように述べています。

「私はニューヨーク市勤務時に、同市における最初のIoTに関するガイドライン策定に携わり結果として高い評価を得ました。一方で同ガイドラインが単なる「ガイドライン」であるがゆえに、都市への責任あるテクノロジーの展開にとってはあくまでも「推奨事項」に過ぎないということ、都市が実際に必要としているのは具体的な「ポリシー」であることに気づきました。
そのために世界レベルでステークホルダー(利害関係者)を集め、都市におけるスマートテクノロジーの倫理的か責任ある利用に関して、一連のグローバルな規範を確立することが私たちのなすべきことであるという結論に至りました。」

ニューヨーク市のIoTガイドラインは世界でも極めて有名なガイドラインとして知られています。しかし実際にガイドラインを採用しても、それを遵守し運用できている自治体は少ないという課題もありました。
彼のコメントにはこうしたガイドラインの形骸化を防ぐために条例など一定の政策という形で実装を行う、そしてステークホルダーとともにそれらを磨き続けていくことの重要性が含まれています。

各ポリシーの概要

つづいて前述5つのモデルポリシーの概要について触れていきます。

1. ICT アクセシビリティポリシー(ICT Accessibility Policy)
「誰も取り残さない」 スマートシティを進めるためには、あらゆる種類の障がいを持つ人々に対するデジタルアクセシビリティの確保が重要です。
このポリシーはデジタルアクセシビリティの最大化には公共調達プロセスが重要であるという視点に立ち、都市が公共調達プロセスを通じて適切なICT製品やサービスを調達、維持するために必要となるフレームワークを提供します。
このポリシーの実装により、アクセシブルなICTの調達に関する基本的な理解や遵守すべき基準について、都市の関連部門や提供する民間部門も含めて横断的に示すことにつながり、結果として都市レベルでのデジタルアクセシビリティを確実に進める一歩となることが期待されます。

2. サイバーアカウンタビリティポリシー(Cyber Accountability Policy)
サイバーセキュリティ確立の第一歩がサイバーセキュリティの責任(アカウンタビリティ)を明確化することです。現在多くの都市で最高情報セキュリティ責任者(CISO)もしくはそれに類する役職を任命しています。一方でCISOの役割や責任範囲は、都市によってかなり異なっています。
このポリシーでは、こうした都市のガバナンス構造の差異を認識した上で、世界のあらゆる都市に参考となるサイバーセキュリティに関するアカウンタビリティ・モデルを規定し、都市によるサイバーセキュリティの維持・構築に優先順位をつける際に必要な枠組みを提供しています。
このポリシーは、都市がサイバーセキュリティを改善する、より高いサイバーセキュリティを確保する、サイバーセキュリティの責任を負う役職の定義を策定するための規範として活用できます。

3. プライバシー影響評価ポリシー(Privacy Impact Assessment Policy)
都市はサービスの提供やスマートシティ技術の導入に際し、必要な情報収集と市民のプライバシー保護との間で公正なバランスを見出すよう努める必要があります。プライバシーへの懸念により市民の信頼が得られなければ、スマートシティ技術の恩恵を享受し続けることはできません。
プライバシー影響評価(PIA)ポリシーは収集から廃棄に至るまで、データのライフサイクル全体を通してプライバシーリスクを特定し、管理するための一連のプロセスを提供します。
PIAポリシーの実施により都市はプライバシーリスクを特定、評価、対処するための一貫した方法を確立し、結果としてプライバシーに関する透明性と説明責任を高め、市民の信頼に応えることが可能になります。

4. オープンデータポリシー (Open Data Policy)
オープンデータについては、多くの国および都市で一般的な原則宣言や具体的なデータの取り扱いを定めた指令など既に何らかのオープンデータポリシーを採択しています。
オープンデータは既に10年以上の歴史を持っていますが、私たちはこの時期にこそポリシーをアップデートし次の10年に活きる基盤を策定すべきであると考えました。これにはIoTなど技術の進展、社会課題や規範の変貌、そしてデータ自体が新たな市場牽引のための戦略的アセットになってきた状況、などが背景にあります。
このポリシーでは改めて世界各地域の事例を比較検討し、都市が独自のオープンデータポリシーおよび関連規定を策定する際の基礎となる論点を、ステークホルダーとのかかわりも含めた形で提供しています。実装段階(内部の運営手順やチーム構成など)から定着段階(コンプライアンスや政府内の利害関係者の参加など)への移行を支援するためのより具体的なガイダンスもあわせて提供しています。

5. Dig Onceポリシー(Dig Once Policy)
5GやIoTなどスマートシティの基盤となるデジタルインフラ整備は、現代における公共事業の要となっています。このポリシーにある"Dig Once" とは文字通り 「掘るのは1回」という意味です。国の予算を活用して道路整備工事をする際、電気通信インフラも一緒に整備することで、土を掘り返す頻度を削減し、インフラ整備の効率化・費用削減を目指す、というものです。
このポリシーは、国土が広いアメリカやオーストラリア、カナダ等において広く取り入れられてきた概念であり、デジタルインフラ整備に係る利害関係者との調整や及び運用管理等に係るフレームワークを提供しています。
このポリシーの実装は、占用物件として各インフラ施設 (水道管、下水道管、ガス管、送電線、電話線、光ファイバーケーブル等)の効率的な整備・運用管理に寄与します。

ポリシー・ロードマップにおける民間部門の役割

あわせて着目すべき点として、ポリシー・ロードマップにおける民間部門の役割があります。イノベーションをもたらすという点で民間部門がスマートシティ推進には不可欠あることはいうまでもありません。その上で都市は民間部門と双方向の関係を構築することが求められるといえます。

例えばオープンデータでは、都市は民間部門との協力のもと、都市から得られる膨大なオープンデータの責任ある管理、最適化が必要であると考えられます。また都市は民間部門にとって重要である「ビジネス視点」を理解しその可能性を一緒に探っていく一方で、民間部門には可能な限りデータをオープンにしてもらうことが望ましいのではないでしょうか。
ICTアクセシビリティでは、時には民間部門が提供する製品やサービスにアクセシビリティが考慮されていないケースもあります。その場合、都市は民間部門に対してアクセシビリティをしっかりと要求する、民間部門が基準を守らない限り都市との取引は行えないようにする、といった役割を明確に担う必要があるのではないでしょうか。

おわりに

今回紹介したポリシーに関連して、日本国内においても最近いくつかの新しい動きが起きています。プライバシー影響評価ポリシーについては、政府のスーパーシティ / スマートシティにおけるデータ連携等に関する検討会において議論されています。また直近では同ポリシーに対応するJIS規格も制定されました。


ICTアクセシビリティでは、昨年11月に政府のデジタル改革関連法案ワーキンググループより出された 「IT基本法への提言」 内の第1の提言として、情報アクセシビリティが盛り込まれています。

スマートシティー・ポリシー・ロードマップに関する直近の日本での活動として、GSCAに参加している国内の自治体に向けて昨年各ポリシーの説明を実施しました。私たちは国内におけるポリシー・ロードマップの更なる展開をめざし引き続き活動を続けていきます。

さいごにスマートシティー・ポリシー・ロードマップの発表にあわせて、私たちGSCA のサイトもリニューアルをしました。本サイトから各ポリシーを参照できるほか、各ポリシーのダウンロードも可能です。パイロット都市の一覧も参照できますのであわせてご覧ください。

執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
スマートシティプロジェクトフェロー 
増田 拓也

関連リンク

GSCAのご紹介(Introduction to the Alliance)

ポリシー・ロードマップについて(The Policy Roadmap)


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