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【開催報告】スマートシティのトラストアンカーとしてのリビングラボ

2022年4月12日に開催されたGSCA Japan Summit 2022。全国の加盟自治体をはじめ産官学の参加者とともに、スマートシティの国内実装・実践についてさまざまな領域の議論が行われました。本投稿では「スマートシティのトラストアンカーとしてのリビングラボ」セッションについてご紹介します。

トラスト白書:信頼をどうやって構築するか?

本セッションにおいて議論のスタート地点となった「リビングラボはスマートシティにおける信頼の基点(トラストアンカー)足りうるか」という主題は、昨年、当センターが発刊した「Rebuilding Trust and Governance-Toward Data Free Flow with Trust(以下トラスト白書)」での議論がベースとなっています。

この白書では、イノベーションとそれがもたらす構造的変革の不可欠な大前提としてトラスト(信頼)を定義しています。デジタル化やAI等の革命的なテクノロジーは、私たちの生活に恩恵を与える一方で、新たなサービスや製品が信頼可能かどうかという判断をより困難なものにしてしまっています。そのような中、意思決定や選択を行う際には、トラストワージネス(信頼性)担保のためエビデンスをどこまで遡って検証すべきかという課題が生まれます。そこでその解決のために白書が重要とするのが、本セッションのテーマとなっている「トラストアンカー」であり、これはトラストワージネスの基礎となるエビデンスを公開し、信頼主体にとって”トラスト”に値することを目指したガバナンスを意味します(下図参照)。

住民が参加意欲を持つ設計

新しいテクノロジーやサービスの導入など、新しいまちづくりに対して住民の積極的な参画が不可欠である一方で、テクノロジーやガバナンスというテーマはハードルは高いとも言われます。リビングラボの取り組みで住民に参加意欲を持ってもらうためには、どのようなことが行われているのでしょうか。

鎌倉市リビングラボを代表して参加した青木清氏からは「参加することで自分の声が形になる」という気づきを設計する取り組みなどが紹介されました。そして柏の葉リビングラボ「みんスタ」の八崎篤氏からは「楽しむこと」「ともに考え、ともに決める」ことが活動の基本であり、対話のあり方から一緒に考え、プロジェクトのロゴや命名では参加者の間で投票を行っていることなど、時間がかかっても市民の主体性を第一に尊重していることなどが紹介されました。

TSKI/鎌倉市リビングラボの青木清氏
UDCK/柏の葉リビングラボ「みんスタ」の八崎篤氏

日建設計イノベーションセンターの吉備友里恵氏からは、小田急電鉄と散歩社による下北線路街の再開発事例「BONUS TRUCK」の取り組みについて紹介がありました。これは一人ひとりとのコミュニケーションを丁寧に行うことで「市民」という漠然とした言葉の解像度を高め、困りごとや求めていることを具体的にしていった事例になります。

日建設計イノベーションセンター/FCAJリサーチャーの吉備友理恵氏

モデレーターを務めた東京大学大学院の笹尾知世氏からは、丁寧に細部まで参加者の属性とニーズを把握することが住民の参加意欲につながる設計の要であることがコメントされました。

東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授の笹尾知世氏

信頼構築のために、リビングラボができること

市民には、当然のことながら参加意識の低い人、興味があるけれど忙しくて時間がない人、対面参加が難しい人など、さまざまな人がいます。こうした多様な人々に対してリビングラボは信頼を構築するためにどのような工夫・施策を行なっているのでしょうか。

柏の葉リビングラボのみんスタでは、聞きたい市民の声が聞けないという機能不全に陥ったことがあり、それ以来「市民の声を起点に」を原点として認知活動のための手間を惜しまないと言います。開催前にはプログラムポスターや住民へのポスト投函を行い、また中間発表や最終発表をYoutubeで公開するなどの取り組みも行い情報の出し入れを重視しています。手間はかかりますが、毎回20名程度という会合への参加者との活動の枠を超え、取り組みへの信頼構築のためには必要不可欠です。

吉備氏からはテクノロジーにニーズを当てはめる技術起点ではなく、社会起点で課題に注目することについて発言がありました。住民が町の問題に自ら取り組んだ社会起点の事例として、オランダの「Hollandse Luchten」では大気汚染に悩む市民が自ら簡易センサーを設置して生活環境の状態を可視化し、企業との対話を市民側から実現したそうです。

鎌倉市の取り組みからはオープンラボのほか、「楽しさ」「繋がり」が挙げられました。例えば高齢者のデジタルリテラシーという行政課題に対しては、スマホ利用をお願いするのではなく、いかに楽しく高齢者がスマホとつきあえるか、住民同士の自然な教えあいを含めて楽しさや前向きさを設計したそうです。

行政のプロジェクトと市民を繋ぐ

それぞれの取り組みや調査事例から、リビングラボが現場の活動という住民主体の「ファクト」を通じて、まちづくりへのトラストアンカーになりうる可能性を感じました。その鍵は、市民一人ひとりにフォーカスをして、ニーズ起点で検討を始めること、市民をお客様ではなくパートナーとして接することにありそうです。スマートシティの動きが加速化するなかで、行政や民間のプロジェクトと市民を繋ぐリビングラボには今後一層の連携が期待されます。

私たちアジャイルガバナンスプロジェクトでも、本年5月にスタートする、みんなのまちづくりスタジオ「AIカメラ編」をサポートしています。柏の葉に設置されているAIカメラの新しい活用方法を検討するだけではなく、リスクコントロールの方法までともに話し合い、テクノロジー活用に対する市民参加型のガバナンスを検討しています。


執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
土居野渓心(アジャイルガバナンスプロジェクトインターン)
隅屋輝佳(アジャイルガバナンスプロジェクトスペシャリスト)
ティルグナー順子(広報)


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