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ウィズ・コロナ時代に安全な国境往来を。世界共通のデジタル証明「コモンパス」

混乱する国境

コロナ禍の国境管理において、何よりも大事なのは感染症を拡大させずに安全な人の行き来を実現することです。ただしそのために国境は混乱しています。検温スクリーニング、ラボによる陰性証明、到着時のPCR検査、検疫中のGPSタグなど、入国する国、訪問する空港、搭乗する飛行機ごとに異なる証明を要求されます。さらに旅行者は自分の個人情報が外国で正しく管理されているかの不安を拭えず、受け入れ国は検査結果の偽造対策に頭を抱えています。これが旅の未来なのでしょうか?

データ×テクノロジーが生み出す、世界共通のデジタル証明

私たち、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは、ロックフェラー財団により設立された非営利組織「コモンズ・プロジェクト」を支援し、安全な国境往来を実現する世界共通のデジタル証明「コモンパス」を立ち上げています。2020年6月頃より、世界経済フォーラム、政府、航空会社、民間企業、医学会などさまざまなステークホルダーに働きかけ、国際官民連携でプロジェクトを開始しました。コモンパスの基本は、検査陰性の結果等の必要な健康データを認証し、安全な場所で一元管理し、渡航可能な条件を満たしていればQRコードが発行されるという仕組みです。将来的にはワクチンの接種状況も情報として追加されるでしょう。渡航者は飛行機の搭乗時や入国審査時にQRコードをかざすだけでOK。健康データそのものを渡す必要はありません。航空会社や行き先ごとに異なる証明を用意したり複数のアプリをダウンロードしたりする必要もありません。すでに英国、米国、香港の一部で試験導入が開始され、大きな反響を呼んでいます。日本での試験運用もまもなく開始される見込みです。

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日本経済とオリパラ

世界の誰にとっても、ここまで大規模な疫病対策を念頭においた国境管理は未知の領域でした。政府は国内の感染抑制に追われ、国際機関も機能しないなか、活動を自粛した民間企業の経済という命がジワジワと削られている状態が続いています。日本も同様です。世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターが2020年7月に実施した調査(※)では、対象企業の約半数が「海外出張・海外からの出張者の受け入れができなくなったことにより、経済的損失があった」と回答しています。また、86%の企業が「海外出張・海外からの出張者の受け入れを再開することは重要である」と答えています。(※)調査期間:2020年7月14日~27日 調査方法:インターネット・メールでのアンケート 調査企業:111社

さらに日本には2021年のオリンピック・パラリンピック開催が控えています。世界各国からたくさんの人が日本を訪れる一大イベントを控えている日本にとって、感染拡大を避けて安全に渡航者を受け入れることを可能にする仕組みづくりの重要性は明らかです。

国際官民連携とインターオペラビリティ

コモンパスは、新しい時代の国際官民連携のありかたを体現したひとつのモデルです。特定の国や企業が推進する独占的な仕組みは、政治的な理由によって受け入れる側と受け入れない側を明確に分断するでしょう。非営利団体であるコモンズプロジェクトや世界経済フォーラムのもつ中立性が大切である理由はここにあります。また民間企業のスピードとテクノロジーが、感染の広がり、検査結果の精度向上、ワクチン開発など、刻々と変化する状況や各国の入国条件への対応というコモンパスの柔軟性を支えています。プライバシーという大切な側面についても、個人のヘルスケアデータをパスポート番号と紐づけて複数国で見るという非常にパーソナルな情報をグローバルに扱うことに対する解決策が必要でした。

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私たちは、こうした国際官民連携プロジェクトを成功に導くキーワードのひとつは「インターオペラビリティ」であると考えています。世界中で単一のシステムを導入することを目指すのではなく、各国の仕組みを尊重し、必要な部分だけを相互に接続できる「相互運用性」の確保を目指すという考え方です。コモンパスと似た取り組みはいくつか提案されていますし、コモンパスでも当初から「統一」は目指していません。信頼できるテスト結果をお互いの国がより効率的に参照できる仕組みづくりに注力することで、多くの国やステークホルダーの参加意欲を促しています。移動の自由は、人間の基本的な人権です。“再び世界中の人たちと同じ空気で笑い合える社会”を夢物語で終わらせるのではなく、実装による実現を目指し、コモンパスは動き出しています。

コモンズ・プロジェクト
コモンズ・プロジェクト(TCP)日本事務局

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
藤田卓仙
山本精一郎


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