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DFFTが直面する課題と、その解決策
国際的なデータ流通の環境整備を目的として、2019年に日本が提唱した「Data Free Flow with Trust(DFFT)」。
日本政府の重要課題や翌年度予算編成の方向性を示す、いわゆる「骨太の方針 2022」にも DFFT が記載され、6月7日に閣議決定されました。DFFT という構想の下で、今も国際的ルールづくりが目指されています。
もっとも、DFFT の推進には課題を伴っていることもまた事実です。
そこで今回は、DFFT の進捗、見受けられる課題、その対応を提案したアジェンダブログ「Every country has its own digital laws. How can we get data flowing freely between them?(各国がそれぞれのデジタル関連法を擁する中、国を跨いで自由なデータ流通を実現するには?)」をご紹介します。
当該ブログ記事は、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの榊亮介、ジョナサン・ソーブル、工藤郁子の共著です。世界経済フォーラムの年次総会(「ダボス会議」)の開催に合わせて寄稿されました。
原文はこちら↓
DFFTとは?どこまで進捗した?
データは、デジタル経済を駆動する燃料です。しかし同時に、データの取扱いについて各国の制度や姿勢は異なります。これは、各国の自治を考えれば当然のことです。
だからこそ、「共通の課題に対応し、社会全体に利益をもたらすために、国境を越えたデータ移転の障壁を最小限に抑えるにはどうすればよいか?」を問うことが重要になってきます。
例えば、持続可能な循環経済を実現するには、グローバルなサプライチェーン全体で、材料やパーツを作る際の環境負荷や輸送時の炭素排出量を把握するなど、炭素関連データを収集・分析するシステムを構築する必要があります。 そのためには、各国のデータに関するルールを考慮しなければなりません。これは、非常に複雑な作業です。
実現するためには何をすればよいのでしょうか?
ここで DFFT のコンセプトが重要となってきます。DFFT は安倍元総理によって、国家間のデータ流通に向けた制度の整備を目的とし、2019年にダボスで提唱されました。そして、同年6月の G20 にて承認されています。
DFFT というコンセプトは、各国のデータ関連政策に影響を与えてきました。また、DFFT の構想に沿ったデジタル貿易のルールを確立するための取組みも進んできました。
例えば、日本政府は、日米デジタル貿易協定と日英包括的経済連携協定(EPA)の2つの貿易協定において、電子商取引に関するルールを含めることに合意しています。また、日本と EU の間でデータ関連のルールに関する予備的な議論が進行しています。
二国間だけでなく地域レベルでも、地域包括的経済連携(RCEP)などの取り組みが行われています。加えて、日本、シンガポール、オーストラリアは、世界貿易機関(WTO)での電子商取引に関する多国間協議を協働して促進しています。
DFFTが直面する課題:国際的合意の難しさ
しかし、現在 DFFT というイニシアチブが直面している課題はいくつかあります。
最も困難な点は、各国が異なる姿勢でデータ保護やデータの信頼性(Data Trust)の確立に取り組んでいるため、国際的な調和が非常に難しいことです。各国で国益や価値観が大きく異なるため、特に、セキュリティとプライバシーといった分野のルールについて、国際的な合意を得るには相当の時間がかかります。
政府などの公的機関が民間の保有するデータを取得する「ガバメント・アクセス」は、そのような問題の典型例です。 ガバメント・アクセスには、民間からのデータの購入、捜査令状に基づくデータの差押え、国家安全保障上の理由による情報開示要求に至るまで、様々な行為が含まれることがあります。
そこで、多種多様なガバメント・アクセスを分類して類型化することは、各国の政策担当者や利害関係者の認識をすり合わせ、議論の基礎を固めるために、非常に重要なステップとなります。
経済協力開発機構(OECD)はこの課題に取り組んでおり、一定の成果をあげています。しかし、国際的合意に至るまでは、より多くの時間を要するものと見られます。結局のところ、各国は自らの制度を説明し、取引相手国の理解を得る責任があると言えるでしょう。
2021年のG7デジタル・技術大臣会合において承認された「DFFTロードマップ」はこうした問題意識を反映したものとなっています。
このロードマップでは、ガバメント・アクセスに加えて、データ・ローカライゼーション、規制協力、そして重要分野におけるデータ共有という3分野の行動計画も定めています。
解決策のひとつ:ボトムアップのアプローチ
DFFTに対する反対意見の一つに、国内のデータエコシステムがしっかりと確立されていない中で、国境を越えたデータ移転システムに参画した場合、当該国のデータアセットが外国企業に奪われてしまうのではないかというものがあります。
しかし、それを理由に DFFT イニシアチブに参画しないでいると、かえって不利益を被ることになるかもしれません。世界経済フォーラムが発表した白書「Advancing Data Flow Governance in the Indo-Pacific: Four Country Analyses and Dialogues」が示すように、国境を超えたデータ流通は、地域の経済成長に大きな利益をもたらす可能性があります。
そこで求められるのが、ビジネス・ニーズを満たす、実用的でボトムアップのアプローチです。これは、高レベルで包括的な政府間のルール作成と、個別の課題を解決するための官民連携とが、並立できることを意味します。
日本の経済産業省が2022年2月に発表した報告書では、ビジネスにおける越境データ移転のユースケースを分析し、そこで生じている課題について6つのカテゴリーに分類し(下記表を参照)、推奨事項を示しています。
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当該報告書によると、例えば、ある IoT 機器メーカーは以下のような問題に直面しています:
当該メーカーは、IoT 機器を各国で販売するだけでなく、それらの機器から得られる稼働状況などのデータに基づいて、故障予測などのメンテナンス・サービスも提供しています。ただし、そのようなデータの取扱いに関する規制は国によって異なり、しかも頻繁に変更されます。
もしも、どのデータが国境を越えることができるか判断する際に、明確で統一された手続きがあれば、リアルタイムでのデータのモニタリングといった IoT の機能をより活用することが可能となります。
「『データが流れない(data does not flow)』場面に関する議論は、これまで少数に留まっていました」と、報告書をまとめた検討会で座長を務める山本龍彦教授は指摘します。「そこで私たちは、民間セクターの声と実例に基づいて、グローバルなデータ移転のライフサイクルに関するユースケースを収集して分析しました」。
DFFT を担うレグテックの導入
こうした課題は、法令遵守や規制プロセスを自動化するよう設計されたテクノロジーである「レグテック(RegTech)」を利用して解決できます。
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2022年4月に世界経済フォーラムが公表した白書は、レグテックを導入するためのベストプラクティスを定義するのに役立つ7つの共通的成功要因をまとめています。
DFFT の今後のマイルストーンの一つは、2019年にこの構想を提唱した日本が主催する2023年のG7である可能性があります。
「Davos Agenda 2022」において、日本の岸田文雄首相は「今から3 年前、ダボスの地で、我が国が提唱した DFFT を更に前に進めます」と発言しました。
サミットというマイルストーンが近づくにつれ、DFFT について、実際の利益と実装に関する議論が広がることを願っています。 その意味で、DFFTに沿った官民連携が、ビジネスのペインポイントへの解決策としてさらに重要になると予想しています。
執筆:榊亮介(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター フェロー)、ジョナサン・ソーブル(同グローバル・コミュニケーション責任者
)、工藤郁子(同プロジェクト戦略責任者)
翻訳:須貝太一(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)