GSCA Japan Summit 「スマートシティの成否を握るオープンデータ・エコシステム」 セッション開催レポート
G20 Global Smart Cities Alliance(GSCA)がグローバルな都市の参画を得てオープンデータに関する「Policy Roadmap」活動を開始したのを契機に、日本の最前線で活動されている、川島宏一教授(筑波大学)・多田功氏(加古川市役所)・德永美紗氏(Code for Fukuoka)をお迎えして、パネル討論を開催しました。
世界の自治体ではデータ・エコシステムをスマートシティ成功の鍵ととらえ、オープンデータへの取り組み方をアップデートしつつあります。公開自治体数の増加や各地でのハッカソン開催など、課題を抱えつつも着実に前進してきた我が国のオープンデータへの取り組みが、さらに一皮むけて地域のスマートシティ活動発展の基盤となるためには何が必要か、どんな進め方があるかという点を議論しました。
セッション動画を本記事の最後で公開しています!
登壇者(敬称略)
筑波大学 システム情報系 教授 川島 宏一
加古川市役所 企画部 政策企画課 スマートシティ推進担当課長 多田 功
Code for Fukuoka 代表 德永 美紗
世界経済フォーラム 第四次産業革命日本センター フェロー 望月 康徳(モデレーター)
キーメッセージ
・市民側も行政側も課題にフォーカスしそれを具体的に解いてゆくアクションを広げてゆくことで、オープンデータの公開と活用のモチベーションとスキルを向上してゆけるでしょう。
・地域に根付いた官民学・市民によるマルチステークホルダーの協力と組織を超えたリーダーシップこそが、イノベーティブな文化を高めると共に、基本的公共財としてのオープンデータから多様な人々のインクルージョンにつながる利活用のベストプラクティス作りにつながると考えられます。そしてこのことは、オープンデータとスマートシティ活動のどちらにも成り立つことです。
・GSCAのポリシーロードマップ活動(モデルポリシー)は、自治体や市民を巻き込んだ共通認識を形成しつつ関係者の主体的参画を促す触媒として期待されます。さらにGSCAのグローバルネットワークによる海外の都市の好事例の共有に期待すると共に、日本文化がもつ協調性・思いやりに根差したサクセスストーリーを世界に発信してゆきたいと考えます。
オープンデータ活動の現状
まず、パネリストに各地域で取り組んでいる実際の活動とそれを通じて感じている課題について紹介していただきました。
子育て中の親のための公園の遊具情報など、市民目線の具体的ニーズに沿って市役所に必要なデータの公開をお願いしています。福岡市では行政はオープンデータ化に対して協力的ですが、実際にデータ公開してもらえるまでにはかなり時間がかかっているのも事実です。(德永氏)
加古川市では市役所の各部局の理解を得つつ公開データセットを増やしてきました。APIによるデータ公開を行うことで、アクセス件数が大きく増えてきています。一方で、必要とされるデータニーズを吸い上げどうやって出していくかは今後の課題です。(多田氏)
地域の課題をマルチステークホルダーで協創的(co-creative)に解決することに取り組んでいます。「Hack my Tsukuba」を通じ地域の課題を地域の人々が自分事として考え解決してゆくための活動を行っていますが、これを通じて、異分野の人々が知識を交流させる取り組みが重要と感じています。また、具体的なデータに基づきイノベーティブな発想を出して価値を出してゆこうとすると、どうしても個人情報に迫った状態でソリューションの組み立てを行う必要があるので、「顔の見える関係の中での問題解決」に注力しています。地域情報アドバイザーのリーダーとして、日本の活動が世界と共有されることに期待します。(川島教授)
オープンデータポリシーの明文化と共有の意義
GSCAのポリシーロードマップ活動が日本のオープンデータの活動にどのようなインパクトをもたらすことを期待するか、語っていただきました。
Code forの活動は市民目線で具体的課題を持っている当事者の活動であり、自ら主体的に考えることの重要性を感じています。自治体が自ら政策として明文化と共有を行うことによって、主体的に動いて行ってもらえるとの期待を抱いています。(德永氏)
自治体単体でこういうことをやろうとすると中の調整が大変ではありますが、GSCAモデルポリシーの形で全国(およびグローバル)で共有されることは重要で、活動の認知を得てやりやすくなると期待してます。ファーストペンギンだけでは進まないものも、次に続く人々が市民の方々を巻き込みつつやってゆくことが重要で、GSCAの活動はそれを裏打ちするものです。(多田氏)
部門・組織やセクターを超えて横断的なイノベーションを起こす文化をリーダーが示してゆくことは極めて重要です。市民の活動とGSCAのようなポリシーがつながって、そこから持続的に様々なステークホルダーを巻き込んて底堅い地域社会を作っていくうえで、モデルポリシー/ポリシーロードマップに大いに期待しています。(川島教授)
マルチステークホルダー協働の事例
地域でのオープンデータの活動において、世界経済フォーラム第四次産業革命センターが標榜するマルチステークホルダー協働がどのようなかたちで役立っているか、具体的な事例をお聞きしました。
福岡では自治体は市民意見としてのCode forの活動に協力的です。自治体からすると個別企業とすぐに組むのは難しいかもしれないですが、相手が市民代表ということで意見を傾聴してくれるのです。最近では福岡のコロナ対策サイト立ち上げを通じて市役所とCode forが協力したことで市民の意見を取れるフォームを作りこむことができ、一般市民のオープンデータにかんする気付きや理解が進みました。(德永氏)
加古川市では市民参画型のDecidimプラットフォームを立ち上げたました。これに地域の高校が協力することで、学生にもオープンデータを活用した課題解決に取り組みつつあります。また、行政側が情報公開したつもりでも実は市民に伝わっていないなど、独りよがりにならないための気付きも得られています。また企業保有データに関しての協力も始まっており、保育園のコスト効率化などに効果が出始めています。(多田氏)
マルチステークホルダーというと政府・企業・市民の3セクターを固定的に考えがちですが、アカデミアという個性的プレーヤーのもつインパクトを過小評価してはなりません。さらに、学生にとってもオープンデータを活用した実地に「相手を納得させる価値証明」の経験(Active learning, Problem-based Learning)は実社会でも非常に役に立っています。(川島教授)
行政の透明化の重要性
日本のオープンデータの活動ではデータ利活用による効率化や新ビジネス創出を目的と考える傾向にありますが、Open by Defaultの原点でもある行政の透明化という観点についてのお考えを聞きました。
透明にすると出来ていないことが明らかになり責められるのではありますが、データの正確性に万全を期そうとして公開が遅くなるという悪循環に陥らないためには、間違ってもよいからとにかくデータをだそうという文化のリセットが必要と思っています。(多田氏)
オープンデータはそもそも知る権利の問題であり、Open by Defaultは基本的権利だと認識する必要があります。紙のコピーや郵送が不要で情報公開のコストが激減したデジタルの時代においてはこの基本的権利の保障(かつ知る権利の格差が生じない)を推し進めないといけません。オープンデータとは、様々な背景・事情を持つ人々(「最大複数のための最大幸福」)に資するための、地域の多様な事情を知るための基本的な共有財産だと捉える必要があります。(川島教授)
スマートシティとオープンデータの関係
近年、日本の各地域でスマートシティへの取り組みが活発化していますが、オープンデータの活動を進化させることがスマートシティにどのようなインパクトを及ぼすと期待されるかをうかがいました。
スマートシティは企業一社でなくいろいろな連携で行われています。このような横連携の進展がオープンデータの公開(企業保有データ含め)にも良い影響を与えてゆくと思います。(德永氏)
加古川市は技術ありきでなく課題解決のためにスマートシティを進めています。見守りカメラによる犯罪発生率低減など、具体的な御利益をオープンデータとして提示してゆくことが次なるスマートシティ活動の支持を得ることにつながってきています。(多田氏)
データをオープンにするかどうかはともかく、データを色々集めること自体が市民に対するメッセージであり行動変容を促すことになります。これが結果としてスマートシティとなり結果として全体の効率性や合理的な判断に繋がってゆくのです。オープンvsクローズにこだわりすぎずにデータを活用することが大切です。個人データを加工して役に立つ限定的情報として価値出し活動を進め、価値への理解が進むことでデータの機微性に対する理解が深まってオープン化に移っていくということが滑らかに流れる社会を目指すべきだと信じています。(川島教授)
日本でのオープンデータ活動の更なる向上に向けて
日本の文化的・社会的背景をふまえて、オープンデータの活動をさらに向上されるうえでのポイントをお聞きしました。
市民の側がデータは納税者である自分のものという意識をもっと強く持って、自治体に出してもらいたいデータを積極的に要求してゆくべきと考えます。(德永氏)
データ品質改善についての管理は担当部局レベルでは充分にできてはいませんが、解決すべき課題が明らかになれば改善は速いです。ナレーティブが分かれば前進するのです。また、日本の自治体は誰かがやって先例ができればどんどんそれを見習う傾向があるので、よいプラクティスが示されてゆけば進展が加速すると思います。その意味でGSCAに期待しています。(多田氏)
部門をまたがったビジョンをリーダーがしっかり示し、データ開示がどのように課題解決につながるかビジョンを示すべきです。また、自身の経験からして、移行コストは現場に負担させずリーダーがアロケートするべきという点も重要です。そもそも日本人は協調的行動を重んじ思いやりがあるのでその特性に馴染んだやり方は有効だと思います。データを出すことでめぐりめぐって御利益が自分に返ってくる、というような納得のさせ方です。(川島教授)
おわりに
GSCAのポリシーロードマップ活動には世界全域から様々な特性と背景をもった都市が参画しています。今回は日本の3つの地域(福岡、加古川、つくば)から登壇していただきオープンデータ活動をより良いものとし更にはスマートシティにもレバレッジを利かせる展望につき語っていただきました。日本の都市は世界の先進的な思想や事例に学ぶべきことは多々ありますが、近い未来には日本の特性を生かしたよい取り組みを世界に発信して行きたいと思います。
本セッションの動画はこちらからご覧ください。
執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
スマートシティプロジェクトフェロー
望月 康則