【開催報告】DAO(分散型自律組織)勉強会
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでは「DAO(Decentralized Autonomous Organization, 分散型自律組織)」に関する知見を深めるため、勉強会を8月4日にオンライン開催いたしました。当センターのスタッフ、フェロー、インターンなど40名ほどが参加し、活発な議論が展開されました。
この記事では、その模様を紹介します。
白書「Decentralized Autonomous Organization: Beyond the Hype」の紹介
検討会では、世界経済フォーラムが2022年6月に発行した白書「Decentralized Autonomous Organization: Beyond the Hype」(以下、「白書」といいます)を紹介しました。
なお、以下は、特に記載のない限り、基本的に白書の内容に基づいていますので、詳しくは白書本文をご参照ください。
DAOとは何か
DAO=Decentralized Autonomous Organizations(分散型自律組織)とは、ブロックチェーン技術やスマートコントラクト、その他関連技術を活用し、分散型ガバナンスを実現する組織形態です。
2021年の1年間で市場規模は40倍、構成員数は130倍と急成長を遂げています。
DAOは「トークン」を保有する構成員が、組織のあらゆる事項に対する提案や投票に参加し、共通の目的達成に向けて構成員が主体的・協力的に関わることを可能とします。
また、従来の中央集権的な制度構造や仲介者を不要とするため、容易に組織を立ち上げることができるとされています。
さらに、合意事項を自動的にコードに記入できるため、迅速で透明性の高い意思決定が可能だとされています。
このような特徴のため、DAOは分散化・非中央集権化を特徴とし、昨今注目が高まっているWeb3の理想を実現する組織形態の1つとして注目されています。
DAOの歴史
DAOは1990年代にドイツで提唱され、2014年に理論化が開始されました。2016年に起きた大規模なハッキング事件「The DAO事件」以来、DAOのセキュリティを高めるために、様々なツールやサポートインフラが開発されてきました。
また、近年のNFT(Non-Fungible Token, 非代替性トークン)の成長は、DAOの成長をさらに加速させています。
DAOの強みと弱み
理論的な分析やこれまでのケースを見ると、DAOの強みとして、以下のようなものが挙げられます。
参入障壁が低い
スピード
透明性、信頼性
柔軟性
分散型ガバナンス
スマートコントラクトによる自動化
対して、DAOの弱みとして、以下のようなものが挙げられます。
法的不確実性
説明責任の不明確さ
運営ツール不足
ガバナンスの難しさ
セキュリティの低さ
税制上の不確実性
監視能力の低さ
DAOの運営
では、DAOはどのような形で運営されているのでしょうか?
DAO設立の最初の重要なステップは、ほかの組織形態と同様に、共通目的を掲げて組織を活性化させることです。
DAOは通常、Discord・Telegram・Twitterのようなコミュニケーションプラットフォームを介してつながった人々によって始動されます。設立メンバーは、DAOの理念や事業展開計画の策定などに向けて協力します。
組織で形成された合意事項はスマートコントラクトにコード化され、DAOの意思決定を拘束するように仕組化されます。
一部のDAOは独自のルールをコード化しますが、Gnosis・Moloch等が提供する既存のDAO作成プラットフォームを活用することがほとんどです。
また、近年では、DAOの始動をサポートするツールに加えて、トークンサービス・議決権管理・財務監督・法務サービスなどの様々な運用ツールが開発されています。
DAOの用途と分類
DAOの潜在的な用途は幅広く、例えばNFTへの集団投資といった1つの目的から始まり、その後助成団体や取引プラットフォーム等、様々な形態に変貌する可能性もあります。
このような性質のため、DAOの分類分けは非常に困難ですが、ここでは一例として「手段と目的」という観点からの類型を紹介します(下表)。
上記のような分類方法のほかにも、どの程度DAOが分散しているのか、または自律性をもっているのか、という観点からも分類をすることができます。
今後のDAOの重要課題
今後のDAOの普及・拡大に向けては、主に実践面と法的規制面について大きな課題が残っていると白書では指摘されています。
(1)実践面での課題
(1-1)セキュリティ面における課題:
2016年のThe DAO事件以降、DAOのセキュリティは一定の進歩を見せていますが、未だに課題が山積しているのが現状です。ブロックチェーン技術によって運営の透明性は高い一方で、バグ等も多く、ハッキングによる資金流出も多発しています。
(1-2)仮名性(pseudonymity)に伴う課題:
DAOは仮名制を採用しているため、ユーザーが身分を偽って商取引に参加することが可能となっています。そのため、責任の所在が曖昧になり、金融犯罪の取締りにも支障をきたしています。
(1-3)有権者の投票率に関する課題:
トークン所有者の多くがガバナンスに積極的に関わろうとせず、棄権または権利の委任を行っています。そのため、DAO内で権力が集中化しています。近年ではこれを改善するために楽観的投票制や比例投票制など、様々な投票形式が検討されています。また、定足数に達しないと議案可決すらできないこともあり、DAOの有権者の投票率の低さは組織の意思決定を鈍らせているという現状もあります。
(2)法的規制面の課題
法的規制面の課題の多くは、法制度が整備されていないことに起因しています。DAOは既存の企業モデルには容易に当てはまらないからこそ、その法的地位、適用法および管轄権等は未整備となっています。
現在、DAOの中には、既存の法的構造と分散型組織を組み合わせ、何らかの法的地位を新たに作りだそうとする試みをするところも見られます。
また、米ワイオミング州で、2021年4月にDAO法が成立し、同年7月にワイオミング州法に基づいて米国発のDAO法人が設立されるなどの動きもあります。
さらに、DAOに特化した会社法を作ろうとする試みもありますが、法的には未検証であることが現状です。
DAOは分散化どころか、驚くほどに一極集中化した組織?
以上は世界経済フォーラムが発行した白書の紹介でした。
ここからは、ブロックチェーン分析企業であるChainalysis「State of Web3 Report」(2022)の興味深い報告を紹介します。
例えば、DAOの数と資金規模においてはDeFi関連のDAOが圧倒的に多く、全体の83%を占めることを指摘されています。
また、それらの代表的なDAOの例として、BitcoinやEthereumなどの暗号資産、Uniswapのような分散型取引所、CompoundのようなDeFiレンディングプラットフォームを挙げられました。
さらに、DAOの資産のほとんどは暗号資産であり、中でもステーブルコインのUSDCが最も保有されていることについても報告書は言及しています。
また、DAOの資産のほとんどが暗号資産である理由としては、DAOの法的地位が不明確であるために、融資やクレジットを利用しづらいからであると指摘されています。
また、DAOは本来であればガバナンストークンの保有を通して、組織の意思決定を分散的に行うことができる点が強みである組織ですが、逆説的にDAOの所有権が非常に一極集中化しているとも考えられると指摘されています。
実際に、主要なDAO10社のガバナンストークンの分布を分析したところ、全保有者の1%未満が90%の議決権を有しているという調査結果もあるそうです(下図)。
質疑応答
勉強会の質疑応答では、DAOの意思決定に関連して、例えば、DAOにおける議案の決定の仕組みとトークン保有割合との関係についての質問がされました。
加えて、セキュリティの実態として、DAOの多くを占めるDeFiでハッキングが多発している要因とブロックチェーン技術の信頼性との関係などについての議論も行われました。
米国では、2022年3月に「デジタル資産の責任ある発展を確保するための大統領令(Executive Order on Ensuring Responsible Development of Digital Assets)が発出され、暗号資産を、脅威ととらえるよりもむしろイノベーションや経済拡大の源泉としてとらえると同時に、包括的な暗号資産規制を検討していくこととなっており、現在、議会や省庁、関係者を巻き込んで幅広く議論が行われていることが紹介されました。
なお、足元ではやや低迷していますが、米国では直近までベンチャーキャピタルの資金や人材もDeFiに多く流れており、そこで一つの産業が生まれているなど、結果的にイノベーションにつながる種がまかれていると思われることなども紹介されました。
執筆担当者の所感
DAOの出現は、これまでの中央集権型の組織に代わる分散型組織の可能性を示唆しおり、分散型ガバナンスや透明性、柔軟性を強みとするDAOはWeb3の理想を実現する組織形態として今後も期待されるでしょう。
一方で、ハッキング対策などのセキュリティの確保、法的安定性、さらにはトークン保有者の投票率の低さなど大きな課題が残っています。
そのため、DAOは本当に信頼性のある分散型ガバナンスを実現できるのか、疑念の声も上がっており、単なるマーケティングワードで終わってしまうのか、なんらかのイノベーションに繋がる種なのか、今後も注視が必要となりそうです。
米国をはじめ、世界各地でDAOの法整備の動き等がある中、日本においても2022年6月に日本政府の基本戦略の1つとして明示された「Web3の推進」の中心項目として「スマートコントラクトとDAOの法的位置づけの整理」が挙げられており、今後国内においても動きがあることが予想されます。
今後もDAOに関する国内外の動きを注意深く見ていく必要があるでしょう。
主要参考文献
本稿では、本文中でご紹介した白書や報告書のほかにも、用語の定義や経緯、データ、分析結果は、以下の文献も参考にしていますので、こちらも合わせてご参照ください。
殿村桂司、近藤正篤、丸田颯人(長島・大野・常松法律事務所)「自律分散型組織(DAO)―その概要、近時の世界的動向と法的課題―NO&T Technology Law Update テクノロジー法ニュースレターNo.18」(2022年4月)
Chainalysis「State of Web3 Report」(2022)
BIS (Bank of International Settlements) (Sirio Aramonte, Wenqian Huang and Andreas Schrimpf), "DeFi risks and the decentralisation illusion." BIS Quarterly Review (2021): 21.
総務省「平成30年版情報通信白書」(2018年)
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