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小型救助車あれこれ

先日、総務省消防庁が緊急消防援助隊に小型救助車を追加配備する方針を示しました。

今回はこの小型救助車に関するあれこれを箇条書きみたいな感じでまとめていこうと思います。


まず小型救助車って何?

カワサキモータース製の全地形対応車MULE(ミュール)PRO-FX(EPS)をベースに消防車メーカーであるモリタが消防車としての艤装を施した「Red Ladybug」の事です。
また、米ポラリス・インダストリーズ社製のRANGER XP1000TRも小型救助車として配備されつつあります。

モリタ製小型オフロード消防車「Red Ladybug」
米ポラリス・インダストリーズ社製「RANGER XP1000TR」

「小型」なのに「大型」特殊免許はおかしい→そうでもない。

小型救助車を運転するには大型特殊自動車免許が必要となりますが、「小型なのに大型特殊自動車免許が必要なのはどういう事なのか」という意見がそこそこありました。
ではなぜ小型特殊自動車免許ではダメなのでしょうか?
長岡市のホームページに分かりやすい詳細があったのでそれを参考に説明します。

次の項目に全て該当する場合は小型特殊自動車です。
①最高速度が15km/h以下
②長さが4.7m以下
③幅が1.7m以下
④高さが2.8m以下

長岡市

①~④を満たすのならば良いのですが、小型救助車は条件を満たしておらず、大型特殊自動車免許が必要となってきます。
大型特殊自動車か小型特殊自動車であるかはサイズだけではなく、速度も関わってくるのです。
中型水陸両用車(全地形対応車II型)もイメージより小型な割に、陸上で大型特殊免許、水上で2級小型船舶操縦士の資格が必要となる事を考えたらそこまで違和感はありません。

中型水陸両用車。写真では大きく見えるが、それでもサイズは小さめ。

小型救助車は搬送車がないと高速を走れない→ミスリード

「走れない」というより「走らない」

一部では小型救助車が高速道路を走れないとの誤解があります。
小型救助車の最高速度は時速70キロメートルとそこまで高速ではありません。
ですが、速度が指定されていない高速道路の法定最低速度は時速50キロメートルと小型救助車でも十分に通用する物です。

これを踏まえると高速道路を走れない訳ではありません。

ですが燃費の問題(小型救助車はあまり良くない)持って行ける後部ユニットが限られてしまう点を考えると搬送車とセットで使用した方が良いのでしょう。

(そもそもこのタイプの車両がそれ単体での長距離&高速走行に向いている車両なのかと筆者は疑問に思っています。実際はどうなのでしょう…)

出典 災害対策の課題を集め、予測し、準備する。防災車両開発の最前線

令和6年能登半島地震では搬送車の不足が課題となりました。

これを教訓に搬送車の増備もありでしょう。

代わりにキャンターATHENA(アテナ)にしろ→コンセプトが違うので採用するとして別枠。

三菱ふそうが国士舘大学 防災・救急救助総合研究所と共同で開発したレスキュートラックのコンセプトカーである三菱ふそう・キャンターATHENA(アテナ)を代わりに配備した方が良いとの声もあります。

三菱ふそう・キャンターATHENA。

確かにATHENAは良い車両ですが、小型救助車のような役割で配備する物とは異なります。
初動対応や情報収集に特化したこの車両とは求める物が違う以上、代わりとはなりませんが、このような車両を緊急消防援助隊に配備するのはありかもしれません。

代わりにトヨタ・ハイラックスにしろ→サイズ的に難しいのでは?

高性能と『トップ・ギア』で乱暴な扱いがなされた事で有名なハイラックスを推す声もあります。
確かにハイラックスは高い性能であり、消防指揮車や水難救助車のベースとしての採用がなされていますが、小型救助車の代替としての役割は難しいと筆者は考えます。
ハイラックスは明らかにサイズが大きく、狭い場所での活動に制限がかかってしまうのではないでしょうか?
採用するとしてこれも別枠の方が良いでしょう。

代わりにスズキ・ジムニーにしろ→積載能力に限りが…

スズキ・ジムニーを推す声もあります。ですがスズキ・ジムニーは乗用車仕様のみで、積載能力に限りがあった事から、候補になっていたものの、採用される事はありませんでした。
ですが、警察では多目的災害対策車として配備されていたり、一部消防では広報車として配備されており、ジムニー自体が使えない車両である訳では無い事に注意が必要です。

軽トラまたは軽トラのリフトアップにしろ→ちょっと難しいかも…

軽トラックまたは軽トラックのリフトアップ(車高を上げる事)を推す声もありますが、前者はともかく後者は難しいと筆者は考えます。

軽トラックのリフトアップにはメリットもありますがそれなりのデメリットも存在します。

駆動系への負担が高まる
車高をアップするために使用するリフトアップスペーサーやリフトアップブロックの装着により駆動系への負担が高まり、大径のタイヤを装着する
ことで更にその傾向は強まる。

但東自動車

メーカーの保証が受けられない可能性がある
新車から車高アップの改造を実施した場合、改造部分となる足回り系に関してメーカーの保証が受けられなくなる可能性がある。

但東自動車

例えば上記のようなデメリットが挙げられます。
また、リフトアップ用の部品も自動車製造メーカーで製品化されている純正品ではなく、強度検討計算や耐久試験をクリアした物では無い場合も多いです。

普段から車に負荷がかかっている車両の導入は難しいのでは…

リフトアップでない軽トラックの方ですが…
小型救助車は水深約40センチメートルまでのオフロード走行を可能としていますが、軽トラックで水深10センチメートルの場所を走行して一時期調子が悪くなった事例もあり…

ちなみに令和6年能登半島地震を踏まえ、令和7年度消防庁予算概算要求では消防団に対して軽自動車などをベースとした小型消防車両の無償貸付が要求されています。

小型救助車が能登では活躍できなかった「本当の理由」

令和6年能登半島地震では小型救助車が十分に活躍できたとは言えない状況になりました。
これを理由に小型救助車の配備を批判する声もありますが、筆者はこれを理由に小型救助車自体を批判するには微妙な内容だと考えます。

各消防が被災地まで小型救助車を運搬する車両を持っていなかったことや、各隊で本格的な運用が開始される前だったことが主な理由という。

出典 北國新聞 配備の小型救助車、初動入れず

このように、本格的な運用の開始前だという「時間の問題」と搬送車が足りないという「使い方の問題」が主な要因であり、それは「小型救助車の配備が間違い」だという理由としては足りない物でしょう。

余談

小型救助車はカワサキ製は可愛いイメージ。ポラリス製はカッコいいイメージ。
似ているけど慣れたらすぐ見分ける事ができる気がします。

あとこれだけ言っておいて小型救助車を一回も見た事がない…

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