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「トムとジェリー」の真ん中のやつ

 子どものころ名古屋に住んでいて、鍵っ子だったので学校から帰ると延々とひとりでTVを見ていた。主に名古屋テレビ(現メ~テレ)を、15時から18時まで。
 ずっと同じものを再放送しているなと思っていたけれど、それは自分の子どものころの僅かな時期だったのではないかと思う。
 15時台は中村梅之助の「遠山の金さん」を三年くらい見てて、そのうち松平健の「暴れん坊将軍」になった。16時台は「特捜最前線」で、しかしこれは暗すぎるのと、あまり怖い話が好きではなかったので、CBC(中京放送圏のTBS系列)でやっていた「水戸黄門」を見たりしていた。
 そのうちおしゃれでかっこいい気がして、16時台は中京テレビ(中京放送圏の日テレ系列)の「俺たちは天使だ」「探偵物語」「プロハンター」「熱中時代・刑事編」などを見るようになった。プロハンターについては別に記事を立てて書きたいくらいはまったがそれはさておき。
 上記のテレビ局でもだいたい17時台はアニメの再放送が流れていた。中京テレビではイデオンやバルディオスとかやっていたらしいが気づかず、自分はずっと名古屋テレビの「トムとジェリー」と「一休さん」の再放送を延々とみていた。
 土曜はこの時間枠で戦隊ものとサンライズロボットアニメをやっていた。

 平日の再放送、「一休さん」については「鉄斎さんを演じていたのがその後ずっと好きになる声優さん」だったことだけ記しておこう。お察しください。
 で、「トムとジェリー」ですよ。
 トムとジェリーはとてもよいアニメでしたわ。よく動く。そして声が可愛い。ジェリーの声が藤田淑子さん、トムは肝付兼太と記憶していたが、このふたりが同時に演じたことは(Wikipediaの記事によれば)ないようなので、記憶が混乱しているかもしれない。何せ40年は前の話である。正確を期せなくてすまない……
 トムとジェリー本編はいろいろなタッチの作画で見られた。異様にモフモフしているトムもいた。でも同じキャラクターとしての認識ができた。たいていトムがジェリーを追い回して、ジェリーにしてやられたりすることが多い。ジェリーは可愛くて好きだったが、トムさんはそんな目に遭わされないといけないようなことをしたかなあ……と思うことがよくあった。
 本編で好きだったのは冷蔵庫が壊れて、台所の床を凍らせてスケートリンクにし、その上で滑るジェリーに、色とりどりのゼリーを通した光があてられる話だった。あれはとてもきれいだった。

 本編について語るとやっぱり長いのでさっさと「真ん中のやつ」について話しましょう。
 「トムとジェリー 真ん中の話」で、ある年代のひとは反応できると思うけど、昔の編成の再放送では、トムとジェリー2本のあいだに、トムとジェリーの出てこない、よくわからないアニメが流れていたのだ。それで三本立て。
 ちなみにWikipediaに項目があるんですよ!

 このアニメにも微妙な統一感というか、使い回し感というか、そういう感じのがあって、「父親が待ちに待って生まれた息子を溺愛するが、息子はそれが嫌で家出をして、危ない目に遭う息子を父が庇って……」みたいなエピソードが、飛行機の父と息子、自動車の父と息子と二種類ある。
 ほかにも似たような感じで、同じシナリオを別のアプローチでつくってる場合もあって、その、使い回し感が好きだった。
 それと個人的にネタがかっこよかったのだ。SFっぽさもあった。品種改良の牧場の話が今でも好きだけど、もう思い出せるのは「梯子とニワトリをかけて、ニワトリの脚を多くする」くらいだ。歳月ってむごい。
 あまりにも昔の映像で、いろいろと権利問題もあるのか、トムとジェリー本編のメディア化はされているけれど、真ん中の話はなっているんだろうか?
 改めて疑問に思ったので調べてみたけど、円盤化はされていたけど5年以上前でもう入荷未定になっていて、アマプラでは見られるみたいですなあ。
 シュールなものが好きなのはここが発端かもしれないなとふと思った次第です。

 見ていた当時、子どものころは「ずっと同じやつやってるなあ」と思っていたけれど、たぶん、再放送は長くても三年くらいしかやっていなかったんだろうし、ある程度は間を置いて違うものと交互でやっていた気がする。
 とにかく自分が子どものころは、子ども向けの番組が今より少なくて、フィクションで見るものが時代劇か刑事ドラマしかなかった。当時の刑事ドラマはかなりハードで、暴力沙汰でひとが殺されたり女性が乱暴されたりする場面が怖くて、時代劇ばかり見ていた中、夕方になるとトムとジェリーになって、親も帰ってくるし、ホッとしたなあと思い出す。
 そういえば、突然の雷雨ですさまじい雷鳴が怖くて、カーテンを閉めて半泣きで水戸黄門を見ていたことがあったのを憶えている。トムとジェリーになったときは晴れ上がっていた。あれはほんとうに怖かった。今はいい時代だなぁ。見るものはたくさんあるし、雷も外にいなければフフッてなるし。
「トムとジェリーの真ん中のやつ」を見るのが好きだったころはそれなりに楽しかったのかもしれないけど、いま思い返すと自分の不遇さに気づかなくてよかったと思ってしまう。本を読むことやアニメや時代劇で気を紛らわせられていたのは本当に幸運だった。
 あのころの自分には、こんなふうに「トムとジェリーの真ん中のやつ」が、何度でも繰り返して見られる媒体で売ることになるしそれを手に入れることも実は苦ではないとは予想もしなかった。ほかにも見て懐かしんでいるひとがいることに気づいてなかった。
 これか時代を越えて受け継がれていくことなのかなあと思う。この先も「トムとジェリーの真ん中のやつ」を見ていた当時のことを、忘れずそっと心の奥にしまっておきたい。