同人誌のビジネスモデル
以前、ビジネスモデル鑑定士の古賀さんは、かつての上司である石毛さんから「老害と呼ばれて悩んでいる」という相談を受けました。
(そのときの様子)
古賀さんのアドバイスを受けて、石毛さんはアナログオーディオの試聴会を始めることになりました。
それから半年後のある日、古賀さんは月例となった試聴会に参加していました。
そこで、思いがけない展開が待っていたのです。
以下は、その日の会話を再現したものです。
石毛さん「古賀さん、毎月の試聴会に来てくださって、ありがとうございます」
古賀さん「いえいえ、石毛さんのコーヒーと音楽を楽しみにしているんですよ」
石毛さん「相変わらず、お世辞が上手いですね」
古賀さん「もと上司にお世辞を言うのは、もと部下の責務です(笑)。いいえ、お世辞じゃありません。…あれ?あの若い方が持っているの、同人誌ですか?」
石毛さん「ええ。山田さんという常連さんなんですが、アナログ機器についての同人誌を集めているらしくて」
古賀さん「へえ、アナログ機器の同人誌なんてあるんですね。値段はいくらくらいするんですか?」
石毛さん「聞いたところ、一冊2000円くらいだそうです。結構な値段ですよね」
古賀さん「専門的な内容なら、むしろ安いくらいかもしれません」
石毛さん「そうなんですか?」
古賀さん「ええ。技術系の同人誌って結構な価格帯なんだそうです。しかも、コアなファンがついていれば、500部でも採算が取れるとか」
石毛さん「500部…それなら、うちの試聴会の参加者だけでも、かなりの数になりますね」
古賀さん「しかも、石毛さんの試聴会に来ている方々は、アナログ機器に本気で興味がある方々じゃないですか」
石毛さん「最近は毎回30人くらいは来てくれています」
古賀さん「修理の依頼も増えてきてるんでしょう?」
石毛さん「先月なんか、10件くらい依頼がありました」
古賀さん「それを聞いて思ったんですが、修理のノウハウを本にまとめるというのは?」
石毛さん「実は…山田さんから、同人誌を書いてほしいって頼まれているんです」
古賀さん「それは渡りに船ですね」
石毛さん「ただ、これまでは趣味でやってきたことなので、お金をいただくのは…」
古賀さん「石毛さん、前にもその話をしましたよね。専門知識には、それなりの対価が必要です」
石毛さん「でも」
古賀さん「例えば、同人誌で基礎的な修理方法を紹介して、より複雑な修理は有料で請け負う。そういうビジネスモデルはどうでしょう?」
石毛さん「なるほど…本を読んで、自分でできる範囲を知ってもらう」
古賀さん「そうです。むしろ、それが顧客のためになります」
石毛さん「ただ、私一人では本の制作は難しくて…」
古賀さん「それなら、山田さんと協力しては?若い人の視点も入って、より良いものになるかもしれません」
石毛さん「実は山田さんが、"文章は私が手伝います"って言ってくれているんです。イラストは、グラフィックデザイナーの妹さんが協力してくれるとか」
古賀さん「それは良いチームになりそうですね。収益は山田さんたちとシェアする形で」
石毛さん「ええ、その話も出ています。私の技術指導料という形で」
古賀さん「素晴らしいですね。それに、本の売り上げ以外の収入も期待できます」
石毛さん「どういうことですか?」
古賀さん「例えば、本を読んだ人向けの修理実演会とか。参加費をいただいて」
石毛さん「あ、それなら私もできそうです。実は試聴会でも、よく機器の調整をしながら説明していますから」
古賀さん「それをビジネス化するんです。…あ、すみません。また余計なことを」
石毛さん「いえいえ、古賀さんのそういう提案があるから、私も少しずつ前に進めるんです」
古賀さん「ありがとうございます。…で、本の第一章は何にされます?」
石毛さん「そうですね…レコードプレーヤーのメンテナンス。これが一番需要がありそうです」
古賀さん「原価はどのくらいになりそうですか?」
石毛さん「山田さんが調べてくれました。500部で、一冊あたり800円くらいだそうです」
古賀さん「では、2000円なら十分採算が取れますね」
石毛さん「ええ。ただ、まずは試聴会の参加者に原稿を読んでもらって、反応を見てみようと思います」
古賀さん「さすが慎重ですね。それがプロフェッショナルというものですけど」
石毛さん「そうですか?私の"老害"な部分かと…」
古賀さん「とんでもない。そういう積み重ねが、長く続けられる秘訣ですよ」
石毛さん「では、次回の試聴会で、サンプルを配ってみましょうか」
古賀さん「楽しみです。…あ、もちろんお世辞じゃありませんよ」