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オーストラリアの大学/大学院とUTSの立ち位置
記事のターゲット
オーストラリアの大学/大学院進学を検討している方
UTSに関して詳しく知りたい方
注意
短時間で記事を書き上げるために各データのエビデンスは深くチェックしていません。ソースはGoogle検索/Wikipedia/主観です。正確なデータが知りたい場合はご自身でファクトチェックをお願いします。また、筆者は社会人歴10年の30代半ばです。多少現役20代の学生と感覚にギャップがあることをご認識ください。
1. オーストラリアの大学/大学院に関して
2022年現在、オーストラリアには43の大学が存在します。そのうち40校が公立大学で、3校が私立大学です。
・国立大学
Australian National University
オーストラリア国立大学
・代表的な公立大学
University of Melbourne, University of Sydney, University of Technology Sydney
メルボルン大学, シドニー大学, シドニー工科大学
・私立大学
Avondale University, Bond University, Carnegie Mellon University Australia
エイヴォンデール大学、ボンド大学、カーネギーメロン大学オーストラリア校
大学の数が少数であることに加え、教育の質を維持/向上するための仕組みが整備されているため、一般的にオーストラリアの大学で提供される教育の質は高いとされています。個人的な経験を通してもこれは事実だと感じています。
日本人は世界的に見てかなり厳格な国民性、社会であり、時間を守る、品質の高いアウトプットや運用を徹底する気質が強いです。そのため多くの日本人が外国に出た時に共通して感じることは「みんな適当だな」ということです。ちなみに私はその適当さが好きです。オーストラリアもかなりゆったりとした国民性、社会構造なので、そのスタンダードで考えると大学教育/システムが適当でも不思議ではありませんが、少なくともUTSにおいては寛容さはあれど適当さは感じません。全体として一般的な日本人からしてもストレスを感じることのない運用体制/教育コンテンツになっています。特に優れていると感じた点は下記の3つです。
・レスポンスの速さと正確さ
私は大学院に進学するにあたり、世界中の大学院を検討しました。その過程で多くの大学に問い合わせを行ってコミュニケーションをとりましたが、欧米の大学の担当者はかなり適当です。返事が全くない、2つ質問をしてるのに1つしか答えが返ってこない、1ヶ月ほど放置される等は普通です。私は以前アメリカに住んでいた経験もあるのですが、基本的に欧米社会は自分から何度も催促しないと物事が先に進まないです。なので、欧米の大学に進学する場合はこの交渉力と突破力を磨く適性がないとかなりしんどいと思います。特に自己主張をするトレーニングを受けていない多くの若い日本人の学生にはきついかも知れません。
一方でオーストラリアの多くの大学院はタイムリーかつ丁寧に問い合わせに返事がありました。この点は日本人の近い感覚でやりとりが可能です。その要因として、オーストラリアの大学院には東アジア系のスタッフが多く働かれており、彼らのコミュニケーション方法や労働に対するマインドセットが少し日本人に近いからなのではないかと推測しています。
・留学生向けの支援体制
留学生向けの支援の手厚さには驚かされました。まず入学時期にはたくさんのオリエンテーションが開催され、授業の受け方からレポートの書き方、課題の提出の仕方まで事細かに説明するセッションを受けることができます。更に入学後もいつでも留学生の学生生活をサポートする窓口がオープンであり、課題でわからないことやレポートに自信がない時にアドバイスをくれる大学公式のヘルプデスクが開設されていたり、メンタルヘルスケアを受けられるサービスも充実しています。
個人的に感心したのは大学の寮に入寮する際の手続きで、性的同意に関するオンライン授業を受けてテストに合格しないと入寮できないことでした。性的同意とは「性行為を行う際には必ず双方が口頭でYESという合意形成をしなければならない」「合意した後であってもいつでもNOと意思を変える権利がある」「飲酒をしたり本人が正常な判断ができない場合は周りの友人達が気を配り、合意なき性行為が発生するリスクを減らそう」という性教育です。
様々な価値観/道徳観を持つ留学生に対して、予め性教育を施して共通のルールをしっかりと植え付ける体制に、人権意識の高さと国際的な環境でのコミュニティ運営の慣れを感じました。大学生とはいえ20歳前後はまだまだ未熟な子供ですから、彼らが曖昧な意識のままで被害者にも加害者にもならないように予め環境を整える姿勢には非常に好感が持てました。
・ITシステムの充実
オーストラリアの大学院に入学するにあたり驚いたのは出願から入学手続き、寮の手続きまで全てオンラインで完結できたことに加え、入学した後に講義を受ける際の教材閲覧、講師とのコミュニケーション、図書の貸し出し(PDFで読める)まで全てオンラインのプラットフォームでできることです。本当にデジタル化が進んでいます。少なくとも出願から入学、1セメ終了まで紙に何かを書いた記憶がありません。
また、日本では大学ごとにバラバラの独自プラットフォームを使用していることがほとんどですが、オーストラリアにおいては多くの大学で共通のITプラットフォームを利用しているようです。そのため1)バグが少ない、2)どの大学であっても同じシステムなので講師陣が使い方に慣れている点が優れていると感じました。
2. UTSの概要
UTSはUniversity of Technology Sydenyの略で、日本語ではシドニー工科大学と呼ばれています。名前の通りテック系のプログラムに定評があり、人工知能やデータサイエンス領域では世界的にも上位の研究機関です。またシドニーの中心に位置するため、学生からはビジネス系プログラムの人気が高いようです。何よりUTSの1番の魅力はその立地でしょう。
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・立地
オーストラリア全景から行くとこの位置です。州としてはNew South Wales州にあります。
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次にシドニー全景です。他の主要な大学のキャンパスもプロットしました。青がUTSで緑がUSYD(シドニー大学)です。比較的この二つはご近所です。
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次にシドニー中心地です。赤で囲っている場所がシドニーの中心街です。多くの商業施設や企業の高層ビルが立ち並ぶエリアになります。UTSはその端に位置しており、セントラル駅のすぐ近くです。ちなみにシドニー空港からセントラル駅へは電車で10分程度で着くので、かなり便利な立地です。現地就職を目指す学生にとっては人脈構築やインターンの機会を得やすいことが利点になります。人脈?と思うかもしれませんが、オーストラリアを含む英語圏の国はコネ社会です。入りたいと思う企業の従業員から推薦をもらわないと面接にすら辿り着けないことも多いので、人脈構築は非常に大切です。
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3. UTSの立ち位置/ランキング
オーストラリアにはGroup of 8と呼ばれる名門大学群があります。各種ランキングもこのG8を筆頭にその他の大学が続きますが、UTSはこのG8に含まれていない、9番目の大学です。
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国際的な評価としては世界ランキングが指標になりますが、オーストラリア国内の高校生から見た入学難易度の指標はこちらです。
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by University Review.com.au
ATARとはオーストラリアの高校の成績です。細かい話はさておき、大学入試がないオーストラリアでは基本的に高校の成績で大学の入学可否が決まります。例えばATAR 89とはざっくり上位10%の成績に位置しているということです。Avgは大学の平均、Arts/Bus/STEMはそれぞれ学位毎のATAR足切りラインです。例えばメルボルン大学のビジネス系学部に入学したい場合はATAR93が足切りなので、上位7%の成績を取っていないと入学できません。このATARのAvg順に並べた場合、UTSは5番目の難易度に位置しています。
更に冒頭でAI領域では世界上位と述べましたが、色々と指標がある中でもU.S.Newsが発表しているグローバルランキングでは2022年現在、中国の清華大学、シンガポールの南洋理工大学、香港の香港中文大学に次いで世界で4番目に位置しています。
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by U.S.News
https://www.usnews.com/education/best-global-universities/artificial-intelligence
正直世界4番目というのはかなり高すぎる?感はあるものの、AI研究に関する各種ランキングでは概ね50番以内には入っているようです。
・俗評
以上がググれば出てくる客観的数値に基づいた表向きの評価です。で、実際の大学の印象や評判ってどうなの?と現地でローカルや留学生に聞くと、もっと俗的な評価が見えてきます。
シドニー界隈においてはUSYD(シドニー大学)、UNSW(ニューサウスウェールズ大学)、UTSがトップ3の有力大学という扱いのようです。そのうちUSYDとUNSWは名門であり、エリート大学と評価する人が多い印象です。実際UTSにいるとテック以外の専攻の場合USYDやUNSWに行けなかったらUTSに来たという学生が結構います。日本で例えるとUSYDが京大、UNSWが一橋と慶応を足したような総合大学、UTSが東工大と理科大の間くらいの総合大学という立ち位置のようです。ちなみにオーストラリアの東大はメルボルン大学です。ただし都市の位置付けはシドニーが東京、メルボルンは大阪+京都のような立ち位置なので大学と逆です。
また違った角度で面白いのが、オーストラリアの芸人が各大学のジョークを言うスタンドアップコメディの動画です。Tikotikに上がっているのですが、そこで挙げられた各大学の特徴をまとめると、USYDは「お金持ちのボンボンが通う大学」UNSWは「アジア人だらけのガリ勉大学」UTSは「醜い建物がある職業訓練校」でした。サンプルでUSYDの動画を挙げておきますが、同アカウントの他の動画を見ると他の大学も色々と挙がってます。
ちなみに個人的には「ふーん」程度の感想です。現地に来て日が浅いので肯定や否定をするほどの情報はありません。あくまでジョークなので誇張された辛辣な意見が多いと思われますが、オーディエンスのリアクションを見るに共感を呼んでいるのは間違いないようです。
4. UTSの就職状況
・新卒就職統計
オーストラリア政府が毎年出しているInternational Graduate Outcomes Surveyという各大学の卒業生に関する就職状況の調査結果があります。2022年出版の統計がこちら。
院卒のデータがないので学部生のデータを見ると、UTSの卒業生のうち留学生のフルタイム就職率は41.2%で、年収の中央値は$52,600でした。USYDは54.6%で$57,000、UNSWが57.1%で$52,600なので、就職率に関してはUSYD, UNSWよりも低く出ています。ただし就職を希望した学生の母数は不明です。
一方でNSW州以外のトップ校を見るとメルボルン大学が43.9%で$50,000、モナシュ大学が50.6%で$50,500、クイーンズランド大学が55%で$55,000、アデレード大学が42.1%で$59,500、西オーストラリア大学が41.7%で$52,000です。
・OB/OG
次にLinkedInを使って違った切り口で就職状況を見てみましょう。上述した通りオーストラリアはコネ社会なので、自分が就職したい企業に大学のOB/OGがどれだけいるか確認することは非常に重要です。その観点で、学生に人気がありそうなグローバルトップ企業の出身大学を見てみましょう。
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やはりUSYDとUNSWが強いですね。ただ、いずれもUTSが上位に来ています。上述した通り、これはUTSの立地による恩恵が大きいと考えています。国際的な大企業の拠点はシドニーまたはメルボルンに集中しているため、やはり新卒や中途を問わずその付近に住んでいる人の方がチャンスを掴みやすい傾向があるのでしょう。
すでに職歴がある場合は別として、トップ企業に現地就職したい!と考える新卒の学生は、大学のランキングに加えてこの観点を持った方が良いでしょう。場合によってはクイーンズランド大学、アデレード大学、西オーストラリア大学のような地方のランキング上位校よりもUTSの方が有利に働くケースもあります。もちろん逆も然りなので、自分の目的/目標を明確にして決断することをお勧めします。
・起業
最後に起業の観点で大学を見てみましょう。アメリカの金融情報サービス起業のPitchbookがリリースした、起業家を多く輩出している大学のランキングがあります。
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by PitchBook
やはりここでもUSYDとUNSWがトップ2のようです。UTSはランク外でした。
5. まとめ
長くなりましたので、最後に箇条書きで要点まとめです。
オーストラリアの大学/大学院は留学生への支援が手厚い
UTSはビジネス/テック系の評判が良い
UTSは立地が最高
シドニー界隈ではUTSはUSYD、UNSWに次ぐ3番手
就職を加味するとランキング上位の地方大学よりもUTSの方がいい場合もある