脱力感に襲われる
ここの所、毎日のように38くんと遊んでいた。勉強しなくていいの?とは聞けなかった。確信的な話をずっと避けてきたような気がする。それは私なりの配慮だったつもりだったけれど、あまりに何も聞かなすぎた。恋人ヅラして38くんのプライベートなことを詮索するのはタブーであると強く思い過ぎて、最低限の必要な情報すら聞けなくなっていた。
一応、大学のホームページでこっそり把握していた。3月25日で大学院を修了し、そのあとすぐに4日間もかかる模試を受けていたようだった。その間も毎日会っていた。模試の期間中なのに何故勉強をしないのか不思議すぎたけど、今頃じたばたしても仕方ない…という38くんの判断であろうと思っていた。恐らく38くんは1回目の試験は捨てている。5年間猶予があるので、その間に何とかするつもりなんだろうとおもう…
模試期間は大きな登山用リュックで大学に置いている大量の私物を少しずつ運んでいた。38くんが大きなリュックを背負っていてもわたしは何も聞かなかったし、38くんも何も言わなかった。
ただひたすら馬鹿みたいな話をして、楽しく過ごす事だけを考えていた。38くんが何を考えているのか、どのような進捗状況なのか、今後のことはどのように考えているのか…本当に何も分からなかった。
昨日パチンコに行ったのだけど38くんは一度も当てることができず…イライラした様子で所持金をすべて使い果たしたと言った。
38「もうどうしようもない」
わたし「フーン…」
38「もう何もできない」
わたし「どういうこと?」
38「あとは勉強するしかないってこと!」
わたし「そっか…」
来月の試験を捨てているわけじゃないのかとすこし意外だった。まあ…普通に考えて、がむしゃらに勉強するしかない時期ではあるけど…
わたし「38くんて大学はもう卒業したの?」
38「うん一応ね」
わたし「じゃあハカセなの?」
38「専門職学位の法務博士みたい。一応修士相当らしい」
わたし「なんか曖昧な言い方だね…」
38「だってアメリカをパクっただけの中途半端な制度なんだもん」
とにかく受験資格を得るためだけに通っていたはずなので、博士であろうが何であろうが38くんにはまったく興味のない事であるらしかった。
合格しなければ学歴など何の意味もない…長い年月と多額のお金をかけなければ受験すらできないのに合格率はかなり低く、5年経って不合格であった場合は再び大学院に通うか予備試験に合格するしかない。最難関と言われる非常に厳しい状況の中で受験しようとする38くんの気持ちは計り知れないけれど…わたしはずっと言えなかったことを言おうと思った。
わたし「大学院おつかれさま」
38「ありがと。試験終わった時が本当のおつかれさまだけどね」
わたし「かんばって」
38「おう」
たったこれだけのことをなぜ言えなかったのか…とは思うけれど、わたしはこれを言ったことで大きな脱力感に襲われ何もする気がなくなってしまったので、やはり相当な覚悟を強いられることなのだったのだと思う。
38くんはいつか試験に受かるのだろうか。もしかしたら猶予5年の間に本気出して合格してしまうかも知れない。38くんの出身大学の司法試験合格率を調べたら日本で3番目に高かった。通っていた大学院はランクインしてないけど猶予5年の間に4割近くが合格してる。38くんが合格する可能性は高くもないけど低くはない。
わたしは38くんのことが好きだから目標を達成して欲しいし、幸せになって貰いたい。だけど合格してしまうのが恐ろしい。38くんは何も変わらないよと言うけれど、きっと何もかもが変わってしまう。
こないだ友だちにその事を相談し「もし合格したらその肩書を使って速攻でお見合いパーティーに行くと思う。女どもに、先生〜ってチヤホヤされるの大好きだし、むしろその為に勉強していると言っても過言じゃない」とわたしが言うと友人は
「うーん…まぁ…モテたい願望は強いのだろうけど…でも実際お見合いパーティー行ってもそこまでチヤホヤされないと思うよ。それ妄想だわ」と言う。
友人「仮に合格しても、それが理由で関係性が変わるとは思えない」
友人にそう言われて、素直にその通りかもって思った。足を引っ張ろうとしたり、不合格を願うのは非常に不健全で異常な精神状態であるのだから、そんな事はもうやめようと思った。
今は脱力感に襲われているけれど、きっと心から応援できると思うし合格したら一緒に喜べるはず。どんな運命であっても、38くんにとってそれが良い事であるならばすべて受け入れる努力をしようとおもう。
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