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凍結

某冬季、何度目かの天狗岳。今年も渋温泉より入山。時間の関係で今日は、黒百合ヒュッテまでの行程になる。無事到着すると小屋番さんより「明日は寒くなりますよ。今年一番になるかも。」と教えていただいた。

翌朝。準備を整え小屋前に出ると入口外に下げてある温度計が今にもマイナス30度にとどきそうになっている。しかし多少の風はあるものの空は快晴、良い登山日和と言えそうだ。樹林帯を抜け天狗岳が見渡せることには、風もやみ、今までで一番の景色を見せていただいた。頂上でも数人の方々と最高の日よりを喜び合って下山。高まった気持ちのまま、無事渋温泉の駐車場まで戻ることができた。最高の一日・・・だったのだが。問題はここからだった。

車のエンジンがかからないのだ。セルモーターは弱弱しく回るのだがエンジンの始動にはつながらない。しばらくして下山してきた若者が、「バッテリーですね。ケーブルがあるのでつないでみましょう。」と、ありがたい言葉提案をしてくれた。慣れた手つきで自分の車のバッテリーとつないでくれ、何度も始動を試してみるが、うまくはいかない。あまり時間をいただいても申し訳がないので、丁寧にお礼を言って若者には帰っていただいた。

うっすらと気が付いたのだ。これは「燃料凍結」かも。

今回の車は「ディーゼルエンジン」関西からこちらに向かう途中、最後はどこで燃料を入れただろか。あの高速の給油所は長野県か?それとも岐阜県か?もしかして滋賀県か?もしも長野県で給油していなければ「凍結」の可能性はあるかもしれない。いろいろと考えてはみるものの、今できることは「JAF」に頼ることのみ。連絡入れ事情を話すものの、取り合えづはバッテリーの可能性もあるので、それに対応するスタッフを送っていただくことに。こちらとしては「バッテリー」では無いとは思うのだが、それ以外に対応できる車両・スタッフはすべて出動中だというので、それに期待するしかしょうがない。待つこと約一時間。

人のよさそうな、おやじさんが作業を始めて約五分。「無理です。燃料が凍ってます。」・・・だから言ったじゃない。やっぱりな。

おやじさんの話によると、「こうなると車両を運搬できる車を呼んで、下まで下すしかないよ」とのこと。しかたがないので手配をお願いすることに。

しかし事情はそう簡単ではなかったのだ。この日はやはり市内でも気温がやたらと下がったため、スリップ事故・車両トラブルが多くて車をここにいつ到着させることができるかは分らないらしい。こうなればもうどうしようもない。時刻は昼過ぎ、おやじさんが言うには「今日中には・・・」

おやじさんが別の現場に向かうというので、最後のお願いをしてみることに。「相棒だけでも、どこか市内のホテルまでおろしてくれませんか?」ありがたいことに二つ返事で快諾いただいた。ありがとうございます。

それからが、新たな戦いの始まりだった。エンジンのかからない車の中で待つ極寒、着れるものをすべて着こんで待つこと約六時。長野県の冬の厳しさを嫌というほど教えていただけたころ。遠くの方から聞こえてきたトラックの音が聞こえてきた。うれしかった、本当に。

その後、スタッフのおにいさんの手際の良さであっという間に「車」は「車の上」に。トラックに同乗させていただき市内にあるトヨタに向かった。移動の途中連絡を取ると「営業時間は過ぎると思いますが、待っていますよ。」と、優しい言葉をいただいた。

到着後の作業は初めてみさせていただく驚きの光景だった。車両下からは大型ストーブであおり、エンジンの上からは大量の熱湯をかけ続ける。「溶かす、とにかく溶かすんです。」作業開始から三十分後エンジンがかかった時は、やっと無事下山?したような思いだった。

作業終了後、スタッフさんから「申し訳ないのですが、この後一時間程度車を走らせていただけませんか」と。まだ凍ってる部分があるとまたとまってしまう可能性があるとの事。了解し、お金を払おうとすると。「いらないですよ。お湯かけただけなんで。」スタッフ三名、残業時間あり。それでいいのか?ダメだろう。でも、なんど払うといっても受け取ってくれない。

その後、車を走らせながら思った。そりゃ仕事は仕事。でも雪深いところに住む人たちは、助け合う心や、「自然」にたいしてともに立ち向かう気持ちが、温暖なところに住む私たちには考えることもできないくらい強いのだろう。自分もそうありたいと思った。

JAFの方々、トヨタの方々。ありがとうございました。

良い一日だった。

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