穴倉暮らし
某冬。福井県荒島岳に山行。今回は途中一泊して翌朝早くに頂上に立つ予定だ。初日は余裕をもって出発したため幕営地にも早くに到着、さっそくテント設営に取り掛かった。時間に余裕があるため、テントを建てた後、ベンチ・テーブル等も雪を固めて制作。なかなかの完成度に満足。あたりを見回しても他にテント泊される様子はないので、テント場は使い放題。さあ後、何を作ろうかと思案していると・・・遠くの方から何やら音が聞こえる。なにか雪の中に投げ続けるような音が。音は稜線から少し下った方から聞こえているようなので様子を見ようと近づいていくと、なんと雪を削ってステップが数段作られている。覗き込むとステップの一番下から雪の塊が飛んで出ている。「なんじゃこりゃ?」ステップを降り、「穴」に向かって声をかけると、中から男性が一人出てこられた。
お互いにこんな日にほかに人がいたことに驚き、またうれしくなってしばしお話をさせていただいた。男性は地元の方で今朝から登られたらしい。昨日結構な雪が降ったので、我慢ができなかったらしい。
「実は・・・何日も前から家族と今日買い物に出かける約束があったのですが、昨日雪が降るのを見ていたら我慢できなくなりました・・」と、笑いながら話してくださった。しかも、朝になってから「私は山に行くから、あなたたちは電車で行きなさい」と伝えたと。暴君だ。でも、しょうがないですよねと共感。こっちは自然が相手ですものね。
ところで雪洞。毎年ここに来られて「穴」を掘るらしいのだが、今年は雪の状況もよく時間もあるので、凝りに凝ったとの事。中を見させていただくと、これは驚いた。寝床・机・椅子・ランタン置き、しかも神棚まである!後、奥に「トイレ」を作るそうだ。凄い、凄すぎる。
嬉しそうに中を見せてくださる男性の顔はまさしく少年。大人になって凄い人はきっと「少年の心」を捨てない人なんだろうな。私もそうありたい。
翌朝、無事登頂しテント場まで戻り撤去作業を始めたころ男性に声をかけられた。「やっちゃったよ~やり過ぎたよ~。デカいのを作り過ぎたので、埋め戻すのに二時間くらいかかるよ~まっ、しょうがないんだけどね~」
また、少年のように笑っていた。