日本のキリスト教会では教えてくれない初期キリスト教時代の不思議な男女関係
初期キリスト教会で行われていた「スピリチュアルな結婚」とは?
敵対者を攻撃するのに、男女関係のだらしなさをあげつらうのは古今東西の常套手段だが(最近も兵庫県知事選であったデマ)、キリスト教を公認したコンステンティヌス大帝の伝記を書いたエウセビオスの「教会史」に、異端者サモサタのパウロスとその近くにいた男性幹部たちが「養女」と呼ばれる女性をそばに置いていたと非難する手紙が残っている。
「彼はすでに一人の女性を追い出し、年頃の美しい二人の女性を自分の傍らに置き、どこに行くにも同行させ、いつも贅沢三昧な生活をしている…」と。この「養女」とは現代日本で言う養女とは異なり、翻訳者秦剛平氏の訳注では「独身の男性の世話をする処女を指す。ラテン語ではsubintroductae」とある(「教会史」山本書店、第3巻、65-66ページ。240ページ注301)。
ラテン語のsubintroductae(単数形subintroducta。subは接頭辞でintroductaはintroducedの意味)を調べると、文字通りには「密かに招き入れられた者」という意味で、ギリシャ語ではAgapetae(単数形Agapeta)「愛された者」(無償の愛のアガペーのagape)で、Synergy Explorersというサイトによると、「初期キリスト教時代に禁欲の誓いの下にカップルとして男性と共に暮らした女性を指す言葉」とある。Agapetae or Subintroductae (1st – 3rd Centuries) - The pleasure of partnership
禁欲については、探求や身体的満足を伴わない性的自制と説明され、初期キリスト教時代のこの実践は「スピリチュアルな結婚」として知られるという。
研究者によると、この「スピリチュアルな結婚」は、一つの地方に限ったことではなく、アイルランド、シリア、北アフリカその他キリスト教の中心的な場所で広く行われていたという。
[Elizabeth A. Clark, John Chrysostom and the Subintroductae, Church History, 46 (1977), p. 173]
「古代のキリスト教世界で行われていなかった地域を見つけることがほとんどできない」
[Roland H. Seboldt, Spiritual Marriage in the Early Church: A Suggested Interpretation of Cor. 7:36-38, part 2, Concordia Theological Monthly, Volume: 30 Number 3 (1959) pp. 176-189]
James S. Cutsinger教授によると、subintroductaeは「スピリチュアルな男性の相手と一緒に住むキリスト教徒の処女で、性交を伴わずに共寝する」と。
また、パウロも、曖昧ながら認めていた節があると指摘される。その箇所を聖書の日本語訳で見ると、なんともぼかしてあるのだが;
パウロも承認?
コリントの信徒への手紙一 7章36節-38節
もし、ある人が自分の相手である娘に対して、情熱が強くなり、その誓いにふさわしくないふるまいをしかねないと感じ、それ以上自分を抑制できないと思うなら、思い通りにしなさい。罪を犯すことにはなりません。二人は結婚しなさい。しかし、心にしっかりした信念を持ち、無理に思いを抑えつけたりせずに、相手の娘をそのままにしておこうと決心した人は、そうしたらよいでしょう。要するに、相手の娘と結婚する人はそれで差し支えありませんが、結婚しない人の方がもっとよいのです。
日本語訳が「自分の相手である娘」とした箇所は、同上サイトに掲載の英語訳では、his virgin(男性の処女)とあり、「相手の娘をそのままにしておく」は、keep his virgin(彼の処女をそのままにする)とある(英語訳はたくさんあり、全部は調べていない)。
パウロの「結婚を否定しないが、しない方がよい」との言葉は、日本のキリスト教会ではこのようにはっきりと説明されないし、あまり深く追求されない。恐らく牧師などは神学校で「スピリチュアルな結婚」について学んでいるのだろうが、教会で話すことはない。
また、パウロ自身もこの「スピリチュアルな結婚」関係にあったと思われる箇所がある;
パウロも実践?
コリントの信徒への手紙一 9章3節-5節
わたしを批判する人たちには、こう弁明します。わたしたちには、食べたり、飲んだりする権利が全くないのですか。わたしたちには、他の使徒たちや主の兄弟たちやケファのように、信者である妻を連れて歩く権利がないのですか。
上記サイトSynergy Explorersに掲載の英語訳では、lead about a sister as a wifeとある。妻を姉妹とする言い方も気になるが、また別途書けたら。
性行為は?
上記サイトSynergy Explorersには、女性の陰唇の間にペニスを置き、処女膜を破らず、膣への挿入なくと説明され、Arthur Versluis教授によっても、「男性のペニスを女性の膣の外に置く特殊な性行為で、共寝しながらエネルギーの交換ができ、挿入や射精なしに終わる」と説明される。
だんだん、subintroductaeは、聖職者の妻や家政婦を指すようになり、初期キリスト教時代のagapetaeの持っていた精神的な相手といった意味がなくなったという。ただ、実態については、この風習に反対する聖職者の著作くらいしか伝えるものがなく、あまり多くはわかっていないもよう。
agapetaeの英語版Wikipediaでは、「シングル女性が生計を立てる金銭的な、実際に役立つ解決方法だった」とも。
さらに、(現代の)注釈者の中には、マリアがヨセフのagapetaで、マグダラのマリアはイエスのagapetaだったとする者もいると…(続く)