母の愛 【短編小説/あったかくなる/泣ける話】スキマ小説シリーズ 通読目安:6分
「はぁ・・・」
赤月美桜(あかつき みお)は、重い足取りで家路を歩いていた。
かなり勉強したが、模擬テストの結果は散々。
きっと、父は苛立つだろう。
そして、無関心な母に当たり、母は適当に受け流して、父の小言が始まる・・・
いつものことだ・・・
でも、だから受け入れられるというものでもない。
そもそも、美桜は勉強があまり好きではなかった。
そんなことは言い訳にならないかもしれないが、やらなければと思うほど、集中力は遠ざかる。
「ただいま・・・」
まっすぐ家に帰りたくなかったが、寄り道するアテもない。
「・・・」
誰もいないらしく、家の中は暗くて、寒い。
「お母さん、遅番なのかな・・・」
美桜が家に帰るころには、家にいることが多い母親が、今日はいない。
たまにある、パートの遅番なのだろう。
もっとも、いたところで、ただいま、おかえりと挨拶をするぐらいで、とくに話すこともないのだが。
「はぁ・・・」
何もする気がしない。
最近では、なんで生きているのかさえ、分からなくなることがある。
勉強もできない、友達もいない、これといった特技も、趣味もない・・・ 家に帰ってやることと言えば、音楽を聞くぐらいで・・・
「・・・?」
机の上に目をやると、CDが置いてあるのか見えた。
自分のものではない。
「お母さん・・・?」
CDの下には、紙が置いてあり、母の字で、何か書いてある。
「・・・」
『美桜、おかえり。
今日は仕事で欠員がでてね、急に遅番になったの。
お父さんも遅くなるって連絡があったけど、ご飯は用意してあるから、一人で食べて。
・・・ごめんね。
きっと美桜には、お母さんは無関心に見えてると思う。
あなたが辛そうにしていても、声をかけることもないから・・・
なんて言ってあげればいいのか、分からなくてね。
本当は、ちゃんと美桜に聞けばいいんだろうけど、それでも、お母さんが思ってることを、ちゃんと伝えられるか、自信がなかった。
でもね。
代わりに、素敵な曲を見つけたの。
お母さんが言いたいことが、この曲にはぜんぶ入ってる。
美桜、あなたは自分に自信がないみたいだけど、あなたは優しくて、人を思いやることができる心を持った、素敵な女性よ。
自信を持って、堂々とすれば、友達も彼氏もすぐにできる。
何も心配いらない。
本当は、もっともっと言いたいことがあるけど、うまく言えないから、この曲を聞いてみて』
「・・・お母さん・・・」
溢れ出た感情が、手紙の文字を滲ませる。
ありがとう、ごめんなさい、大好き・・・
母に対する様々な感情が溢れ、美桜は肩を揺らして泣き続けた。
自分のことを分かってくれない・・・ どうでもいいと思っている・・・
そう思っていた。
でも、間違っていた。
母はいつも、見てくれていた。
何も言わなくても、ちゃんと見ていてくれていた・・・
そのことが、とても嬉しく、同時に、恥ずかしくもあった。
ようやく落ち着き、古いノートパソコンに、CDをセットする。
「・・・」
歌詞を見ながら、流れてくる曲を聞いていると、再び涙が溢れた。
人と比べなくていい。
あなたには、生きていく意味がある。
あなたがあなたであれますように・・・
メロディに乗って、耳に運ばれてくる歌詞たちは、美桜の心を包みこみ、冷たく、硬くなっていた心を解きほぐした。
美桜は泣きながら、何度も何度も、数え切れないほどリピートして、その曲を聞き続けた。
「ただいま~」
そのうち、母が帰宅し、父親も帰ってきて、結果的に、三人での食事になった。
涙で少し赤くなった目のまま、テーブルにつくと、一瞬、母と目が合った。
すると、母は一瞬、口元を緩めた。照れるように。
「・・・?
どうした?」
それを見て不思議に思ったのか、父親が、眉を上げて言った。
「何でもないよ。
食べよ」
美桜は、少し口元を緩めながら言った。
「???」
もう大丈夫。
私は、自分を信じられる。
一人じゃないから。
みなさんに元気や癒やし、学びやある問題に対して考えるキッカケを提供し、みなさんの毎日が今よりもっと良くなるように、ジャンル問わず、従来の形に囚われず、物語を紡いでいきます。 一緒に、前に進みましょう。