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愛おしく抱かれていた、ヨギボーよ。

とにかく、悲しいぐらい
お天気が、いい日は、
街を歩く人の足取りも
穏やかなものだ。

わたしは、昨日新しいPCと
共にタクシーのりばの列に
並ぶべく、いつもの街並みを
馴染んた景色にまぎれるように
歩いていた。

わたしを軽やかに追い抜いて
ゆく人がいる。

なにか、鮮やかな緑色の筒状の
ものを縦に抱くようにして、
颯爽と歩いていた。

モノを運んでいるようにも
みえたし、大切な家族の
一員の柔らかい生き物を抱いて
いるようにもみえた。

追い抜かれざまに、ちらっと
見ると、それはあのほら、
あれ、ヨギボーだった。

ヨギボー。

知っては、いたけど。
一人住まいならまだしも、
母とふたり暮らしでは、
それほど、必要としないような
気かした。

ただ、うっとり包まれている
座り心地を我が家に
導入してしまえば、
際限なく、怠惰な日々を
招き入れることになる訳で、
危険極まりない。

いらんものは、
いらんのであるという
結論にものの数十秒で、
アンサーが、どちらから
ともなく出た。

意見がすがすがしいぐらい
一致した。

そして、ヨギボーの男の人は
タクシー乗り場に、わたしより
先に到着していた。

でも、それから数十分わたし達、
見知らぬ者同士は、不思議な
連帯感で、そこにいた。

理由は、紛れもなくヨギボーの
せいだ。

あれ、ほんまに、デカい。
すぐ側で、みてもあれ
家のドアどやって、入るん?
みたいな、スケール感だった。

そしたら、案の定タクシーの
運転士さんから、だめの
リアクションが送られてくる。

胸の前でいきなりバッテンつくる。
あれは、いまにも、その
運転士さん、Xジャンプでも
しそうなぐらいの勢いだった。

そんなに、チラ見で断らんでも
いいんちゃうん?
みたいな感じ。

彼の後ろでタクシー待ち
している人たちも、
断わられるたびに、
あ〜あ、とか、
は〜って、おじさんや
おばさんのため息が
漏れていた。

乗車拒否なんや、ヨギボー。
入らなんだ、ヨギボー。

わたしは、心のなかで、
つぶやいた。

わたしも、女の人としては
デカいので、いつの間にか
感情移入を、ちらっと一瞬
よぎらせた。

ほんま、不憫なヨギボー。

彼は、断わられる度に、
真新しいヨギボーを
抱え直す。

その抱え方が、なんか愛おしい
感じだから、わたしも、はよ
タクシーに乗せてあげてって
気持ちが湧いてくる。

3台ほど、見送られやっと
いいよ、乗っけなって
ウェルカムされていた。

今の人たちなら、神タクシーとか
言うんだろうな。

でも、わたしが思ったのは、
そのタクシーの運転士さんは
出来得る限り、彼の要望に
応えるべく後部座席に、
置いてみたり、トランクで
試してみたりしていたこと
だった。

サービス業の方なんだなって。

お客様である彼と、ヨギボーの
ために、工夫して縦に貫く
ように乗せた。

助手席に、彼。
運転士さんと、彼の間に
ヨギボー。

その絵面は、可愛かった。

その時の彼は、戦い抜いた
若干の疲れと安堵の表情に
満ちていた。

わたしたち見知らぬ者同士、
約3名ほどだったけど
みんなで、彼とヨギボーが
乗ってゆくタクシーの後ろ姿を
見送った。

もうスタンディングオベーションでも
送りたいぐらい。

ゴールデンウィークの真ん中
あたり人たちとモノと仕事ぶりを
みせてもらった。

ヨギボーほんまに、デカかった。






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ゼロの紙 糸で綴る言葉のお店うわの空さんと始めました。
いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊