ゲラとエリスは、広場から少し離れた静かな場所に移動し、木漏れ日が差し込むベンチに腰を下ろした。エリスが改めて話し始める。彼女の目はどこか遠くを見ているようで、真剣さがうかがえた。

「ゲラさん、先ほど話した『光を失い、闇に囚われた者たち』について、少しだけお話しさせてください」

「うん、お願い」

エリスは一息ついて、静かに言葉を紡ぎ始める。

「バズリンには、歌や音楽に特別な力が宿ることが昔から知られていました。その力は、人々の心を癒し、自然を豊かにするものでした。かつては、その力を持つ者たちが『光の歌い手』と呼ばれ、人々に希望を与える存在として称えられていたのです」

「光の歌い手……」

ゲラはその言葉を繰り返しながら、エリスの話に引き込まれる。彼女の胸の中で、少しずつ新しい世界の姿が形を成していくようだった。

「しかし、その光を拒み、闇の力に惹かれてしまった者たちもいます。彼らは『ダークアイドル』と呼ばれ、私は……彼女を救うことができなかった」

エリスの言葉は、重く、苦しそうだった。ゲラは言葉を挟むことができず、ただ彼女の顔を見つめることしかできなかった。

「でも、ゲラさん……あなたの歌声には、光を呼び覚ます力があるかもしれないと感じました。昨日、あなたの歌で村の花々が反応したように、もしかすると、あなたがこの世界に来たのは……」

エリスは一瞬ためらうように言葉を止めたが、意を決したように続けた。

「もしかすると、あなたが私たちの希望を取り戻す鍵なのかもしれません」


ゲラはエリスの言葉を聞き、胸の奥で何かがざわつくのを感じた。自分がそんな大きな役割を担うなんて、現実味がなくて信じられない。それでも、エリスの真剣な瞳が、自分をしっかりと見つめているのを感じて、ゲラは自然と前を向いた。

「私、正直言って、全然自信なんてないけど……でも、エリスがそう言ってくれるなら、少しでも力になりたいな」

ゲラの言葉に、エリスはふっと微笑む。その笑顔には、どこか安心したような色があった。

「ありがとうございます、ゲラさん。それでは、これから歌の力について少しずつお教えしますね。あなたにまず知ってもらいたいのは、バズリンに伝わる『光の旋律』と、それを刻む『伝説の歌碑』のことです」


エリスに案内され、ゲラは村の外れにある古びた石碑へと向かった。苔むした大きな岩に、見たことのない文字や模様が刻まれている。エリスはその前で立ち止まり、手を合わせて祈るように目を閉じた。

「これが『伝説の歌碑』です。この世界で歌い継がれてきた『光の旋律』の断片が刻まれていると言われています」

「すごい……何か神秘的な感じがする」

ゲラは石碑をまじまじと見つめる。古びているが、そこには美しい紋様が刻まれており、どこか生きているような感覚を覚える。

「この歌碑が共鳴する時、封じられた光の力が少しずつ解放されると信じられています。でも、全ての旋律を解き明かすには、特別な歌声が必要なのです。私はそれを解放することができませんでした」

エリスは視線を歌碑から外し、ゲラの顔を見つめる。「でも、あなたの歌声があれば、もしかしたら……」

ゲラはその言葉に不安と期待が交錯し、胸がドキドキしていた。

「私が試してみていいの?」

「はい、あなたの力がどれほどのものか、私も確かめたいと思います」


ゲラは歌碑の前で深呼吸をし、エリスが教えてくれた旋律を思い出しながら歌い始めた。最初は不安で震えていた声も、次第に自信を取り戻し、広がる青空の下に響いていく。

その瞬間、歌碑に刻まれた紋様が淡い光を帯び始めた。まるで、彼女の歌に応えるように、石碑の表面がふわりと輝き出す。エリスはその様子を目を見開いて見つめ、両手を合わせた。

「すごい……ゲラさん、歌碑が反応しています……!」

「え、本当だ……でも、これで解放されたわけじゃないんだよね?」

ゲラは戸惑いながらも、歌碑の光に見入る。その輝きは確かに彼女の歌声に反応していたが、すぐにかすかなものとなり、消えかかっていく。

「ええ、まだその力は完全には解放されていません。でも、これほどの反応を見せるのは、あなたの歌声が歌碑に認められた証拠かもしれません」

エリスは目を潤ませながら、歌碑の輝きをじっと見つめている。彼女の中で、過去に果たせなかった夢が、少しずつ形を変えて現れているようだった。

ゲラはその様子を見て、自分がこの世界に来た理由が少しずつ見え始めた気がした。

「私、エリスと一緒にもっとこの世界のことを知りたい。私の歌が誰かを助けられるなら、もっと頑張りたいって思うよ」

エリスはその言葉に心からの笑みを浮かべて、ゲラの手をそっと握った。

「ありがとうございます、ゲラさん。これから、私と一緒にこの世界を巡り、光を取り戻す旅に出ましょう」

ゲラはその手をしっかりと握り返し、彼女たちの新しい冒険が始まることを感じていた。

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