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Lido Community Staking Moduleの概要
*この記事は2024年1月に公開されたLidoのブログ記事「Lido Community Staking: Overview」に適宜説明を加えながら日本語に翻訳し、再編集したものです。
参考
2023年12月15日、Lido DAOはコミュニティ・ステーキング・モジュール(以下、CSM)の開発にゴーサインを出し、コミュニティ・ステーカーがLidoプロトコルでpermissionlessにバリデータを運用できる道を開きました。
CSMの仕組みを日本のコミュニティメンバーへ伝えるため、全四回に渡る解説ブログを執筆します。今回はその第一弾として、CSMの概要を解説します。なお、全四回の内容はそれぞれ以下の通りです:
コミュニティ・ステーキング・モジュール(CSM)の概要
ステークの配分とバリデーターの終了:https://note.com/buythedipams/n/n87ef46e81c9b
コミュニティ・ステーキング・モジュール(CSM)とは
「コミュニティ・ステーカー」という用語は、Lidoのフォーラム全体で、独立した個人(例:自前で32ETHを拠出してノード運用を行うソロ・ステーカー)や、何人かのグループで32ETHを拠出してEthereumバリデータを運用する際に広く使用されています。
コミュニティ・ステーキング・モジュール(以下CSM)は、キュレーテッド・モジュール(Curated Module)とシンプルDVTモジュールに次ぐ、Lidoの3番目のモジュールになる可能性が高いです。CSMは、参加者がETHをボンド(担保)を提供することでコミュニティ・ステーカーが許可なし(permissionless)にEthreumのバリデータを運用できる初のモジュールとなります。
と原文では述べていますが、要するにCSMは、ボンド(2ETH程度の担保)をLidoに預け入れて、Lidoから32ETHの割り当てを受け、バリデータを運用するモジュールです。これまで、Ethereumのノード運用を実施するには32ETH(約1600万円:2024年6月時点)が必要でした。これは新しくノード運用をしたい方には高すぎます。ところが、Lido CSMでは1.5~2ETHの担保金を預け入れることでLidoから32ETHを貸し出されてノード運用を開始できます。なお、みなさんがCSMに預け入れた担保金は、正しくノード運用ができなかった際の罰金として没収されることになっています。つまり、この担保金が不正なノード運用に対する事実上の抑止力になっています。
ここで、Lidoが許可なし(permissionless)に言及しているのは、これまでLidoはステーキングのプロである約30強のプレーヤーにノードの独占的に運用を任せていたからです。つまり、誰もがLidoへの預かりETHを通してEthereumのノード運用ができたわけではなく、「許可制」だったからです。このステーキングのプロのリストは以下から参照できます。この30強のプロに分散的にETHを運用させるのが、先述したCurated Moduleです。
さて、Lido最初のモジュールであったCurated Moduleでは、ステーキングのプロ(Curator)がLidoに代わって顧客のETHを運用するのですが、これは利回りが高まるという利点がある一方で、ETHが一部のプロに集約されてしまうため、Ethereumが元来掲げる分散的な世界のアンチテーゼともなっていました。さらに、Curated Moduleでは、こうしたプロが欧米に集中していることから地政学的なリスクも存在していました。例えば、アメリカがETHのステーキングに大きな規制をかければ、アメリカ内のステーキングのプロがその職務を果たせず、預入顧客(=Lidoの利用者)の利回りが大きく停滞する可能性もあります。
さらに、先述の通り、Ethereumのノードを運用するために32ETHが求められるのは高すぎて、誰もが簡単に用意できる額ではありません。
そこで、Lidoはより多くの人に安全かつpermissionlessにノードを運用させるモジュールを開発してきたのです。
Lido CSMは誰のためのものか
CSMによって恩恵を受けられる人は多岐に渡ります。まず、Lidoとしては預かりETHが欧米以外の国・地域からも運用されることにより、安定的な資産運用が期待できます。また、ETHステーキングの約3割がLidoを通して運用されている(2024年7月時点)ことを考慮すると、同プロトコルがEthereumエコシステム全体のセキュリティを考慮して導き出した解でもあると筆者は考察しています。
また、既にETHステーキングを実施しているプレーヤーも32ETHより小さな単位でステーキングが実行できるようになり、収益機会が増加します。例えば、従来のソロ・ステーカーが34ETHを保有していてもステーキングに回せるの32ETHのみでしたが、CSMを用いれば余剰の2ETHもノード運用に回すことができます。さらにCSMでは、先述したCurated ModuleとエクゼキューションリワードやMEV Boostの収益ロジックを共有しています。これはつまり、ノード運用のプロが稼ぎ出した報酬はLidoにかかわるすべてのノードオペレータの間で共有されることを意味しており、個人によるノード運用よりも収益性が高まることを示唆してます。加えて、みなさんがLido CSMに提出して担保にはstETHとしての利回りも付きます(ノード運用の報酬に加え、LidoにETHを預けた際の利回りも付与されます)。
さらに、これからソロ・ステーキングを始めるプレーヤーにも恩恵があります。第一に自前で32ETHを用意する必要性がなくなります。また、セットアップのための数多くのガイドが用意されているので、従来に比して比較的容易にオンボードが実行できます。
日本語ガイドは以下を参照してください。
https://operatorportal.lido.fi/modules/community-staking-module/csm-resources/lido-japanese-hub
Lido CSMの説明
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ここでは原文記事にてまとめられたCSMの5つの特徴について確認していきます。
1.エクゼキューションリワード(ELリワード)とMEV boostはプロのステーカーと連携される
2.ステーキングに必要な最低ロットは常識的な範囲の枚数であり、このロットを通してより多くの新規ノードオペレータの参画を目指す
3.必要なトークンはETH(stETH)のみでLDOトークンを含む他のトークンや別のトークン担保なしで参画できる
4.UIは扱いやすく、ガスは小さく
5.従来のSolo Stakingよりも高い収益性を実現する
1.に関しては、ノード運用で高い利回りを実現するために避けて通れないELリワードとMEVがCuratedと呼ばれるプロのステーカーと共有されることで、従来のソロ・ステーキングよりも収益性が高まります。
2.に関しては、従来の32ETHよりも小さな額でノード運用ができるという特徴があります。この観点は次の記事で解説予定です。
3.に関しては、ETHで利回りをもらう以上、ETHを担保にした方が利用者のニーズに合うよねということです。この観点も次の記事で解説予定です。
4.5に関しては、割愛します。
Lido CSMのゴール
CSMは、Community Validation Manifesto(英語)から初期の目標を絞り込み、より実用的な応用を形成するために、以下のゴールをセットアップしました。
Lidoの提供するノードオペレータセットへのpermissionlessな参加を可能にし、ソロ・ステーカーのプロトコル参加を促進する
CSMのメインネットローンチから数ヶ月以内に、独立したノードオペレータの総数を300以上に増加させる
なぜCSMが必要なのか
Lidoは、Ethereumを分散化し、ステーキングへのアクセスを民主化する使命を掲げてスタートしました。現在、LidoにはDAOが選定した36のプロフェッショナルなステーキングプロバイダーから成る1つのノードオペレータモジュール(Curated Module)しかありません。
より幅広いオペレータを取り入れることでプロトコルの分散化を強化するため、Lido DAOはpermissionlessな形でのノードオペレータの参加を可能にするモジュールの開発を承認しました。これがCSMです。
DeFi Llamaを参照すると、Lidoは約970万ETH、約5兆1622億円相当が預け入れられています(2024年7月15日執筆時点)。この資産の運用をより分散化させ、個人を含む多くのプレーヤーにノード運用の機会を提供するのがCSMです。先述した地政学リスクが欧米に偏ってしまっていることや、ステークされるETHが年々膨れ上がる中で現在のノード運用先1つに対する負担が増加した可能性が想定されます。
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近い将来にリリースが見込まれている2つのEthereumの新機能により、Lidoプロトコルがpermissionlessなアクセスを持続的に受け入れることがより現実的となる見込みです。具体的には、EIP-4788によりLidoスマートコントラクトが信頼性を最小限に抑えた方法でデータ(例:バリデータの残高)を取得できるようになり、EIP-7002によりLidoが不正行為を行ったバリデータをオンチェーンで直接的に退出させることができるようになります。
つまり、今後のEthereumはボンディング、レピュテーション、DVTなど、さまざまなメカニズムを用いて多様なオペレータ基盤を育成することができます。こうした状況を鑑み、Lido CSMはバリデータセットの形成に効果的なボンドベースの設計を採用するために提案されました。ボンド(担保金)は不適切な行動(例:バリデータのオフライン、スラッシング、MEVの盗難)に対する保護手段として使用され、ノードオペレータとステーカーの間の調整メカニズムとして機能します。
ここでは、CSMがいかにしてpermisionlessにバリデータを管理するかが述べられています。CSMでは、担保金による不正の抑止力に加え、不正行為を行ったバリデータをオンチェーン上で直接運用終了させることができるなど、ノード運用にかかわる一連のオペレーションが極力Lidoからの介入がない形(permissionless)で実施されます。
Lido CSMの今後
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バリデータ運用やツールの構築にコミュニティが参加することは、CSMというpermissionlessモジュールを成功させるための重要なステップです。そのため、Lidoのカスタマーサクセスチームのコントリビュータは、CSMの利用を促進するためのツール開発を行うEthereumエコシステムとのパートナーシップおよびコラボレーションを積極的に確立したいと考えています。
そのようなツールの顕著な例には、DappNode、Avado、Stereum、Sedge、eth-dockerなどがあります。
本稿はここまでです。