Lido Community Staking : ボンド(担保)について
*この記事は2024年1月に公開されたLidoのブログ記事「Lido Community Staking: Bonding」に適宜説明を加えながら日本語に翻訳し、再編集したものです。
参考
この記事は32ETHを持たない個人でもノード運用に参画できるようにするLidoのモジュールであるコミュニティ・ステーキング・モジュール(以下、CSM)について説明する四部構成の解説シリーズの第ニ回目です。このページではボンド(担保金)について解説します。CSMではETHを担保として差し出し、その上でその担保を用いてノードを運用します。他のパートは以下を参照してください。
ボンド(担保金について):本記事
ステークの配分とバリデーターの終了:https://note.com/buythedipams/n/n87ef46e81c9b
なぜボンドが必要なのか
と、原文では述べていますが、要するに、CSMはノードを運用する前に参加者に担保金を差し出させ、そのノードオペレータが悪さをしないように首根っこを押さえるモデルです。悪さをすると担保金が徴収されるため、Lidoからの介入が存在せずとも各ノードオペレータが定められたタスクから外れることなく必要なプロセスが正しく進行されます。なお、この「悪さ」には、恣意的なもの(一旦Lidoに提出する収益を提出せずに着服するなど)もあれば、不本意なミスの双方が含まれる点には注意が必要です。
さて、ノードオペレータはETHを担保として取られているわけですが、この担保が没収されてしまうとノードを走らせ続けるのに必要なETHを失ってしまうことになるため、誰もそのような悪さをしません。この担保制によって委託先のノードオペレータが善人なのか悪人なのかという追加の検証(permission)が必要ない(less)形で新規のノードオペレータを募られることになります。
前の記事でも述べたように、Lidoではこれまで、Curated Operatorと呼ばれるステーキングのプロたちがLidoに代わって顧客のETHを運用していました。このモデルでは、Lidoが事前に候補者の選定を行ったため、許可制(permissioned;Lidoからの介入がある)なオンボーディングでした。今回はCSMを通し、このオンボード手法に加えてpermissionlessなオンボードが可能になります。
話を原文に戻します。論旨は以下の様に続いています。
1.に関しては、ボンドを組むのに必要なETHの枚数が32ETH以下であれば、参画可能なノードオペレータの数はおのずと増加するので明白です。2024年7月現在では、ボンドの要件として1.5ETH~4ETHあたりが想定されています。ボンドの具体的な金額はまだ決まっていませんが、CSMのメインネットローンチが2024年末と想定されているので、秋頃には決まるものと想定されます。
2.に関しては、ボンドの没収をスマートコントラクトで自動化させて中央管理者不在ながらも悪さをしたノードオペレータを運用から強制退場させることを示唆しています。Ethereumに新しい機能を追加する際の提案であるEIPの7002番を通し、不正行為を行ったバリデータをオンチェーン上で直接退場させるようになったことがボンド制の提案に大きく貢献していると思われます。
3. に関しては、語彙の説明のみ行います。ノードオペレータとは文字通りEthereum上でノードを運用するプレーヤーのことです。他方、ステーカーとはETHをどこかに預け入れ運用益を狙うプレーヤーです。ノードオペレータ自身もETHをロックアップしてバリデータ業務を行うため、ステーカーの中に含まれることになりますが、ステーカーは同時にLidoの顧客やコミュニティステーキングに参画するプレーヤーもこの中に含まれます。「経済的な一致」という描写の意味に関しては次章で解説します。
ETH(stETH)のみが担保トークンとして受理される
これはETHステーキングの文脈では当たり前なことを書いているようにも見えますが、重要です。Ethereumのノードオペレータ(もしくはステーカー)は自身の保有するETHを用いてバリデータを運用(もしくは委託)します。そして、その対価としてETHを受け取ります。つまり、多かれ少なかれノード運用に参加するプレーヤーはETHの将来的な価値上昇を期待していない限りバリデータを立てない(もしくはステーキングしない)ことになり、事実上はETH現物ロング1倍+利回りのポジションを持っていることになります。この状況下では担保にLidoのガバナンストークンであるLDOやステーブルコインを担保に強いることは参加者の資本効率を下げてしまうことになります。
また、原文で述べている「待ち列」の間もステーキングリワードが提供されるというのも従来のノード運用に比して斬新です。この「待ち列」は、CSMでバリデータを立ち上げた情報をブロックチェーン上に提出してから、その立ち上げ情報がLidoを介して処理され、ETHの割り当てを伴って実際にバリデータ運用が開始されるまでの処理待ち時間です。従来の運用手法では「待ち列」が終了し、実際にバリデータを走らせてからでないとステーキングリワードは獲得できませんでした。CSMではこの待ち時間中もリワードが提供されるため、資本効率が高まります。これはCSM参加者の担保がただ保管されるのではなく、Lidoを通してステーキングされる(裏側でstETHに自動変換される)ために実現されます。
カバレッジ(補償金)としてのボンド
1.に関しては、CSMを通したノード運用開始時点よりもCSMからの撤退時点でのETH残高が小さくなってはいけませんということです。CSMでは、Lido利用者のETH(他人のETH)が割り当てられるため、ノード運用終了時点のETH枚数が減少していれば、それは他人のお金を紛失したことになるので、事前に預け入れた担保金を用いて補填するのは妥当です。デフォルトの残高は、スラッシングなどのペナルティが発生した際に減少する可能性があります。
2.に関しては、CSMはLidoから委託されたETHでバリデータ運用を行っているため、各バリデータが稼ぎ出したETHは一旦モジュールに集約し、そこから各バリデータに収益を再配布します。この時、指定されたアドレスにバリデータの収益を送付せず、別のアドレスに送ってしまうと、それはLidoに対して窃盗を働いたことになるため固く禁じられています。
この節では、MEV窃盗に関する補償について詳しく述べています。例えば、2ETHを担保として預け入れたバリデータが盗み出したMEVが16ETH相当であった場合、そのノードオペレータのボンドだけでは損失が補えないため、そのノードオペレータの担保全体(同じオペレータが運用する別のバリデータ)が補償として適用されます。
二段落目の「シビル攻撃に対して非線形ボンドが有効である」ということを説明するために、まず非線形ボンドについて解説します。
非線形ボンドとはボンドが2つの点と点を結んだ直線の形ではなく、複雑な線形グラフを描画するボンドのことです。Lido CSMのボンドでは上記の図の様にノードオペレータの運用するバリデータの台数に応じで預け入れETHが徐々に減少するボンドを提案しています。
つぎに、シビル攻撃について簡単に説明します。Ethereumのノード運用におけるシビル攻撃とは、ETHを保有する悪意のあるプレーヤーが自身の情報を偽って(アイデンティティを偽って)複数のノード運用を行い、他のノードを妨害してトランザクションの検証やブロックの提案を操作することです。CSMを通し、Ethreumネットワーク全体のノードオペレータの数が増加することで、シビル攻撃のリスクが小さくなります。その上で非線形ボンドを用いることで、ノードを運用するために必要なボンド額はノードの台数が増える事に減少するため、ノードオペレータ1人が預け入れるボンドの総額が大きくなりやすくなります。よって、万一MEVを盗み出した際の没収可能額も大きくなることでこれらの行為を抑止できます。
ボンドサイズをどうするのかについて
Lido CSMは2024年末にメインネットローンチが予定されており、具体的なボンドの枚数はまだ決まっていません。Rewarded capital(報酬資本)およびrewarded capital multiplier(報酬資本乗数)に関しては別の記事で解説しようと思います。
(付)さらなる理解のために
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