感想:南青山イタリアン JINBO MINAMI AOYAMA
こんにちは。今回は南青山にあるイタリアンレストラン、JINBO MINAMI AOYAMAさんで頂いたディナーの感想を書きます。表参道駅から徒歩約10分、静かな住宅街に佇み、金色に輝く表札(サムネイル画像)と素敵な扉が迎え入れてくれます。YouTube等で神保シェフのことは存じ上げていて、HATAKE AOYAMAさんが閉店した後、ついに今年新たにお店をオープンされたということで、念願だった訪問が叶いました。
※お店のホームページはこちらから
お店の中には絵画やアンティークアートが飾られていて、落ち着いた雰囲気です。
以下コース内容の紹介とそれぞれのお料理の感想に移ります。
コース構成
錦秋
・アミューズ4品
・アンティパスト 「海の幸」
・アンティパスト バーニャカウダ
・パスタ料理1 ラヴィオリ
・パスタ料理2 アマトリチャーナ
・メイン 赤身和牛の炭火焼
・デザート・小菓子・飲み物
+パン2種
メインは魚・肉どちらかを選択。お値段は消費税・サービス料込みで¥19800。
1品目:アミューズ①② 栗南瓜のタルト/揚げたファゴッティーニ
最初の2つはフィンガーフード。下が北海道産の栗南瓜を使ったタルト。南瓜のペーストと魚醤を加えて乾燥させたスポンジ状のタルト生地の上に、かぼちゃのピューレと塩漬けした豚のハム、マリーゴールドのお花。
上がオリーブ油で揚げたファゴッティーニ。中にはフランス産のフォアグラ、地鶏の挽き肉、甘く炒めた玉ねぎ。
タルトは軽くサクサクとした生地の食感とかぼちゃの甘さが良い。ハムの塩味も口に入れたとき僅かに感じましたが、量が少なかったのか存在感はあまりなかった。本当にかるーく食べる感じ。ファゴッティーニは温かさを残し、揚げ物特有の食感が心地良い。そこに中の具材が持つジューシーさ、旨み、芳香が合わさって、うん、まあ、こういうものが美味しくない訳がない。食欲がそそられます。
2品目:アミューズ③ かつらむき大根とコンソメ
アミューズ3品目は金沢の伝統野菜、源助大根をかつらむきにし、それをもう一度元の形に戻してコンソメで炊き上げたもの。その上にはイタリア産の黒トリュフとアップルビネガー、白味噌で作ったソース、そしてブロンズフェンネルというハーブが乗せられています。最後にシェフが地鶏の挽肉で取ったコンソメをかけてくださいました。
まずコンソメが美味しい。さっぱり爽やかでありつつも力強く青々としたハーブの香りが漂ってきて、何とも言えない複雑な風味があります。塩加減も丁度良くこのスープだけで美味しく飲めます。大根の仕事も丁寧。1mmくらいの薄さのかつらむきで、1枚ずつお箸でめくっていただけます。神保シェフの仰った通り、大根の外側と内側で風味が大きく異なっていたのが面白かった。大根に味はしっかり染み込んでいますが、歯応えもちゃんと残っています。大根と味噌という、日本人には比較的馴染みのある組み合わせですが、大根の処理とコンソメによって、大根の新しい表情が見られました。
3品目:アミューズ④ シルクスイートのスフォルマート
アミューズの最後は茨城県鉾田市のさつまいも”シルクスイート”を使ったスフォルマート。魚のすり身、卵、パルミジャーノ・レッジャーノを混ぜたものをオーブンで焼成。北海道産馬糞雲丹と焼き芋、アマランサスとパルミジャーノ、オリーブのパウダー。その上から酒粕とゴルゴンゾーラのソースをかけていただき完成です。
土台のスフォルマートはふわりと柔らかい口溶け。雲丹、パルミジャーノ、ゴルゴンゾーラ、オリーブと聞いて重たくなるかなと思ったのですが、しっかりさつまいもの香り・甘さが感じられます。不思議。食事の後神保シェフにお聞きしたところ、お店のコンセプトの1つである発酵食品、酒粕を利用することで、酸味をプラスしつつ雲丹やさつまいもの甘みを引き立てる効果が期待できるということです。塩味と甘味のバランスがとても良かった。シルクスイートはその名の通り焼き芋にしたときの絹のような食感が人気のようで、確かにとても滑らかな口触りで美味しかったです。
4品目:11種の「海の幸」のサラダ仕立て
11種の海産物が集まった綺麗な前菜。上から北海道の白烏賊、石川の甘海老、マスのイクラ、蝦夷鮑、つぶ貝、岩手三陸のホタテ、千葉県勝浦の鰹、赤貝、アイナメ。オシェトラキャビアと透明な浅利出汁のジュレを合わせて11種類ですね。
烏賊はキウイと一緒に。甘海老にはエシャロット、シグレット、キャビア、ボリジのお花。鮑には鮑の肝のソース。つぶ貝はわさびとオリーブ油でマリネ。ホタテは表面をスモーク。鰹は自家製のガリとフィンガーライムで。赤貝にはヴィンコット(葡萄ジュースを煮詰め樽で熟成したソース)。アイナメはセモリナ粉でフリットに。それぞれの素材に別々の処理がなされていて驚きです。
甘海老はねっとりとした食感と甘み、キャビアを含む副食材の食感と塩味・旨味・香味が組み合わさってとても美味しかった。一番気に入ったのは鰹。特に上に乗るフィンガーライムという果物が印象的。プチプチというよりパチパチ、と弾け爽やかな酸味が口の中に広がります。目の覚めるような衝撃でした。
5品目:「JINBO MINAMI AOYAMA スペシャリテ」
30種の冬野菜 バーニャカウダの進化
ピエモンテ州の郷土料理バーニャカウダ。神保シェフのスペシャリテであり、このお店の看板メニュー。神保シェフの思いや生産者様のお名前が書かれたカードを渡されます。このお皿に注がれている思いの強さが伝わってきますね。
糠漬けしたもの、焼いたもの、煮たもの、生のもの、様々な状態のお野菜が1つにまとまっています。乳白色のものがニンニク、アンチョビ、オリーブ油、そして燻製にしたじゃがいもで作ったソース。この燻製の香りが「畑の野焼きを表現」しているとのこと。赤いのはおそらくビーツパウダー。手前にはお野菜の余った部分、皮などにじゃがいも澱粉を加え焼いたクッキーが添えられています。仕上げに太白白胡麻油にバジル、大葉、イタリアンパセリ等から抽出した緑色成分を加え200°まで熱したオイルをシェフ自ら回しかけてくださいます。
うーん、これは、、、説明するのが難しいです。まず燻製の香りが「土臭さ」「畑臭さ」を感じさせます。後からかけられたオイルは野菜の爽やかでフローラルな香りを与えます。野菜はシャキシャキしたもの、しっとりしたもの、パキパキしたもの、ホクホクしたものと色々な食感を持っています。また特有の苦味があるものや甘さを持つもの、水分を保ってみずみずしいものもあります。奥行きのあるソース、良い食感のクッキーも全て混ぜ合わせて。数々の要素が何段階にも絡み合い表現し難い複雑さを作っています。野菜のあらゆる側面に光を当てた、現実版レギュムの魔術師神保シェフのスペシャリテに相応しいお料理だと思います。
6品目:たらば蟹と法蓮草のラヴィオリ
たらば蟹と法蓮宗を包んだラヴィオリ。海老・蟹など甲殻類の泡ソース、ラヴィオリの下にはタラの白子と法蓮草のムース。周りにかかっているのはパプリカパウダー。ソースは濃度が低くて結構味が強いが、泡状になっているので程よくパスタに乗って甲殻類の良い香りを運んでくれます。中身のたらば蟹もシンプルに美味しいし、下のムースも旨味が凄い。でも、法蓮草はよく分からなかった。苦味を利用したかったのか消したかったのか、それは不明ですが、ラヴィオリの中の法蓮草だけ食べてみても、自分にはイマイチ感じられませんでした。色合いは綺麗です。
7品目:アマトリチャーナ
普通アマトリチャーナに使われるのは頬肉で作ったグアンチャーレですが、今回は群馬県加藤畜産社の豚足・豚タンを燻製にしたものが入っています。チーズは羊の乳で作ったペコリーノ・ロマーノ。ローマ3大パスタに合わせるのはピッタリ、でしょうか?
燻製の良い香りと胡椒・唐辛子のピリッとした辛み。定番のトマトソース。これはこれで美味しかったですが、自分としてはグアンチャーレver.の方が好きですね。まあこれは完全に好みの問題なので、”神保シェフが考える”アマトリチャーナという価値だと思います。
8品目:赤身和牛の炭火焼
熊本県「あか牛」のヒレ肉を塩麹でマリネし炭火焼き。シェフのご厚意で通常よりも量を多くしていただいたみたいです。ありがとうございます。ソースはフォン・ド・ヴォーをベースに酸味を効かせたもの。付け合わせはラディッキオとじゃがいも。ラディッキオはオーブンで1時間以上無水調理、じゃがいもは半月状にスライスしたものをバターと一緒にオーブンで焼くことで再びくっつけています。お肉の上に乗っているのはトマト、ケイパー、タジャスカ・オリーブ、大蒜。
和牛はレストランで食べた記憶がないですね。実質初めてだと思います。とても美味しかったし、牛肉ってこんなに美味しかったんだと驚きもしました。上のお野菜と合わせても、ソースと合わせても、そのまま食べても。塩麹の効果もあって本当に柔らかく、切るのに力が要らなかったです。ありきたりな言葉で恐縮ですが、肉質もしっとりジューシーで、赤身の美味しさがフルに味わえました。以前のレガーロさんのレビュー記事でメインがお肉じゃないのも面白そうと書きましたが、こういうのを食べてしまうとお肉も中々捨て難いと思わずにはいられません。付け合わせのじゃがいもも、縁のカリカリ感と中のホクホク感のコントラストが良かったです。人気なのも頷けます。
9品目:デザート
口直し。洋梨のシャーベット、サワークリーム、洋梨のジュレとシナモンを効かせたコンポート。真空圧搾した洋梨のジュースをシャーベットに、サワークリームは牛乳を温めて撹拌して作るそう。生クリームから作るものだと思っていました。特筆することはなし。
茨城県笠間の和栗を使ったモンブラン。一番下にはおそらくカカオ風味のスポンジ生地、そこに甘露煮、生クリーム、マロンクリーム。刺さっているのは3種類のクッキー:栗粉のクッキー、チョコレートクッキー、ベルガモットを効かせたメレンゲ。左にはキャラメルとシナモンの風味を効かせたジェラート。最後に液体窒素で凍らせたコーヒークリームを三度シェフ自らかけてくださいます。
液体窒素を使った調理自体は近年そこまで珍しいものではなくなってきたかもしれませんが、目の前で白煙の出る小鍋から固体に姿を変えたソースを振りかけて1皿を仕上げるという演出は、味以外の付加価値を生むのに未だ十分に効果があると言えるでしょう。ただ味そのものに関してはモンブラン、ジェラート共に特別何か印象を受けるといった感じはなかったように思います。
これらに加えて小さなお茶菓子が2つ、シチリア産ピスタチオのマカロンと蜂蜜のマドレーヌもあったのですが、そちらの写真は撮り忘れました。
まとめの感想
ジャンルはイタリア料理ですが、イノベーティブ要素も含んだお料理を楽しめます。今回はそれぞれのお料理の説明が今までのレビューと比べて恐ろしく長いです。これは勿論録音させていただいたからですが、そうでなくとも理解できるように1つ1つ分かりやすくゆっくり説明してくれました。これはとても良いと思います。自分は冷めるし味が落ちてしまう気がしてお料理がテーブルに運ばれてきたらできるだけ早く食べ切りたい人なのですが、説明は丁寧ながらも長すぎず、ソースを直前にかけるなどして温度感を保っていると思います。サービスもとても良かったです。リラックスできましたし、良い意味で値段を感じさせない接客でした。これにならお金を払っても良いと思えます。
カトラリーがかなり軽くて面白かった。柄の部分が違う材質でした。フォークはあと少し重い方が扱いやすかったかもしれない。また特徴的なのが、お皿やカトラリーレストから箸置き、カップ、おしぼり置きに至るまで、全てカマチ陶舗さん特注の有田焼だということです。お皿以外の道具も職人さん自ら作成を提案してくれたらしく、統一感があって素敵です。お店の雰囲気にも合っていると思います。
今回は、私にとってはとても幸運だったのですが、他のお客さんがいない日だったので、サービスの方や神保シェフとお料理の感想や質問含め沢山お話しできましたし、シェフとは一緒に写真も撮っていただけました。嬉しかった。私は料理人の”顔”が見えるかが良いレストランかどうかの基準の1つだと考えます。「料理人の顔が見える料理」という象徴的な意味ではなくて、例えばオープンキッチンであったり、シェフが挨拶や見送りに来てくださったり、サービスをしてくださったりするという物理的な意味で、です。まあ後者の場合は忙しかったりして難しい場合も多いでしょうが。そういう意味でも今回は満足でした。勿論お料理も大変美味しかったです。ご馳走様でした。
今回は以上です。ここまで読んでくださった方がいらっしゃれば、感謝します。
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