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ギガントシャーク 第11話 「沿岸怪獣警報」

ある満月の夜、日本、北九州工業地帯に位置する福岡県の製鉄所付近の海面が突如として大きく盛り上がった。
ヴォァァァァァァァァッ!
野太い咆哮と共に巨大な影が姿を現す。怪獣だ。四足歩行で全身が青黒い体毛に覆われ、長い首と尾を持っており、ギョロリとした丸い目と濡れた犬のような鼻と鋭い牙が並んだ凶悪な面構えでクズリを彷彿とさせた。怪獣は製鉄所を蹴散らしながら上陸し、鋭い牙で設備を噛み砕いて食い荒らした。そしてめちゃくちゃにした後で去って行った。そして1ヶ月間姿をくらませた。その次の満月の夜、怪獣は今度は阪神工業地帯に現れ、いくつかの工場を破壊し、その設備をバリバリと食らい、荒らすだけ荒らして海に帰っていった。日本の代表的な工業地帯の一部を壊滅させた怪獣は海から現れ、クズリ(ウルヴァリン)に似ていることから「シーヴァリン」と名付けられた。シーヴァリンの主食は金属であり、今のところ月ごとの満月の夜にのみ活動している。無論この事態に怪獣対策機構が黙っているはずもなく、アジア周辺の主要な工業地帯に警報を発令し対怪獣用戦車を配備した。最大の戦力たるギガントシャークも駆り出された。シャークはいつでも駆け付けられるよう東シナ海、日本海周辺のサメたちを総動員して各海浜工業地帯近海に配置し、シーヴァリンが現れた際にはロレンチーニ通信で知らせるように命じた。
 シーヴァリンはアジア近海を泳ぎ回っているらしく、日本海で漁船が食われる事件が頻出した。この怪獣は肉には興味がないらしく、乗組員は丁寧に吐き出し、漁船だけをバリバリと食べたらしい。海上に放り出された船員たちはシャークが手配したホホジロザメたちが背中に乗せて救出した。満月の日が近づくと深海のツノザメたちが海流の動きからシーヴァリンの進行方向を導き出した。どうやら台湾に向かっているらしい。シャークは高雄臨海工業地帯に向かった。
シャークが工場に着くと、すでに大量の戦車が配置されていた。指揮をとっているのはグアテマラでのキングコアトル戦で大きな失敗をしでかしてしまったあのアンソニー・アトキンス軍曹である。
「サメ野郎!」
「おっ!軍人のオッサン!」
「来てくれたとこ悪いが今度こそお前の出る幕はないぞ。最新鋭の対怪獣用特殊装甲戦車でヤツを上陸前に始末してやる。」
「ほぅ。そうしてくれるとありがたいね。」
「必ずそうする。お前は大好きなクジラでも食いながら深海で隠居してるんだな。」
「オレ様の仕事を奪おうってか。やれるもんならやってみなー」
両者の仲は良いとは言えないようだ。
シャークたちが待っていると、やがて海に漣が立ちはじめ、海面が大きく盛り上がり盛り上がり、巨大な影が鎌首をもたげた。
ヴォォォォォォォッ!
月光の元、咆哮と共にシーヴァリンが姿を表す。
「出たぞ!早く撃て!なんでもいいから撃て!絶対に上陸させるな!原型がなくなるまで撃て!」
アトキンスはシャークに見せ場を作るまいと半ばヤケクソな命令を出した。砲塔が一斉にシーヴァリンに向き、集中砲撃が始まる。が、シーヴァリンの硬い皮膚にはほとんど通用しない。シーヴァリンはやがて岸に到達すると、戦車を咥えあげる。乗っていた兵士は間一髪で逃げ出す。そしてシーヴァリンは戦車をバリバリと食べてしまった。
「ぎゃあ!」
そしてその後、シーヴァリンは上陸した。戦車は踏み潰されるは食われるはでアトキンスの思惑は失敗に終わってしまった、
「な、なぜだ!」
「豆ツブだけで怪獣を倒せたら、オレ様はいらねぇよ。」
「なんだと!」
「だいたいよ。金属を食う怪獣相手に戦車持ち出すとか、お前頭足りないんじゃね?」
「黙れ黙れ!魚のくせに偉そうに!」
アトキンスは顔を真っ赤にして言った。
「魚じゃねえ!怪獣だ!」
「魚の怪獣だろ!」
「もう付き合いきれねぇ!オレ様が片付けるからそこでしっかり見てろ!」
陸に向かって進撃していくシーヴァリンの前に、シャークが立ち塞がる。
グルルルルル‥
シーヴァリンはシャークを見て唸る。
「かかってきやがれ。ビショ濡れ野郎。」
シャークが中指を立てる。
ヴォォォォォォォッ!
シーヴァリンが吠え、シャークに向かってくる。戦いが幕を開けた。
月明かりと工場の照明が、二つの巨影を照らし出す。
突進してきたシーヴァリンをシャークは全身でがっちりと受け止める。シーヴァリンは首を伸ばし、シャークの肩に鋭い牙で喰らいつく。
「ぐっ!」
シャークが呻く。シーヴァリンの頭を掴み、その牙を力技で引き剥がす。比類なき凶暴性で尚も向かってくるシーヴァリンをシャークは力技で押し返す。そして
「シャークエナジーパンチ!」
その首の付け根に電撃パンチを浴びせる。
シーヴァリンはショック故か怯んだ後、その動きを止めた。微動だにしないのでシャークは好機と見て拳を打ち込もうとする。しかしその瞬間、シーヴァリンは素早く首を動かし、シャークの手にガブリと噛み付く。
「ぎゃっ!フェイントかけやがったな!」
噛みつかれて身を引いたシャークをシーヴァリンが押し倒し、その体にのし掛かる。そしてその喉元に食らいつこうとする。シャークはシーヴァリンの上顎と下顎を掴んで手で押さえる。
「ぐぉぉぉぉ‥」
ヴォルルルルルルル‥
シーヴァリンが唸り声を上げ、涎がシャークの体に滴り落ちる。
シャークはその鼻面を両手で掴み、腕を帯電させる。
「シャークスパーク・マキシマム!」
ヴォォォェッ!
電撃と衝撃波でシーヴァリンがのけぞり、その隙にシャークが拘束を脱する。シーヴァリンは怯まず突進してくる。シーヴァリンはシャークの肩に再び噛みつこうとするが、シャークは頭を押さえつけて長い首の付け根を掴んだ。
「シャーク背負い投げ!」
シャークはシーヴァリンを投げ上げて地面に叩きつける。工場の設備が盛大に壊れる。
「やってくれたなあのサメ!」
工場は必ず守ると責任者に啖呵を切ったアトキンスは頭を抱えた。
「もういっちょいくぜ!」
シャークはシーヴァリンの尻尾を掴んで勢いよくぶん回す。
「シャークスイング!」
シーヴァリンは吹っ飛ばされて激しく着地し、工場がまたも破壊される、有り余る力で尚も突進してくるシーヴァリンの顎にシャークはアッパーカットを浴びせる。シーヴァリンが倒れてまた工場が壊れる。シャークとシーヴァリンの技の応酬が工場を鉄の瓦礫の山に変えていく。シャークはふらついているシーヴァリンの尾を掴みさらに激しく振り回す。
「タイフーンシャークスイング!」
シャークの体が目にも止まらぬ速さで回転した。さながら巨大な竜巻が工業地帯のど真ん中に出現したかのようだった。ヒュンヒュンと空気を切る音が暴風の如き轟音に変わっていく。シャークがその姿が判別できなくなるほど早く回転した後、シーヴァリンは凄まじい勢いで吹っ飛ばされまたまた激しく着地した。もう工場はボロボロだ。シャークも疲弊していた。
「この技は目が回るぜ‥」
しかし、シーヴァリンはこの期に及んでまだ体力が有り余っているようで、瓦礫の中から起き上がり、シャークの方に向かってくる。シャークは先程のようにシーヴァリンの首を掴み、背負い投げを見舞おうとするが、次の瞬間、シャークが地面に落ちていた煙突のかけらに足を滑らせた。
「うぉっ!」
シャークはシーヴァリンもろとも車輪のようにゴロンゴロンと転がってしまう。工場の施設を一直線に潰しながら。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ヴォォォォォォォーン!
「もうめちゃくちゃだ!」
両者の叫びとアトキンスの嘆きが重なる。
「はぁ‥はぁ‥」
シャークはふらつきながら息を切らしていた。シーヴァリンも目を回してはいたが、すぐに襲いかかってきた。
「しつけぇ野郎だなもう‥」
シャークの背鰭が雷鳴のような音とともに光る。
「とっとと片付けてやる!
シャークサンダー!」
ヴォォォォォォォァァァァァァッ!
シーヴァリンは青い光線によって激しく後ろに飛ばされ、ちょうど海の上で爆散した。
肉片が海にボトボトと落ちる。
「決まったぜ‥」
シャークは息切れしながら言う。
「おいサメ!」
「なんだよオッサン!」
「工場をどうしてくれるんだ!」
「あのなぁ、こんなゴチャゴチャしたとこで何も壊さずに戦えってか?」
「お前は配慮ということを知らんのか!」
「周りに配慮してたら怪獣退治は務まらねぇんだよ!」
「とにかくコレを修理してくれ!私の面子が立たん!」
「分かったよ、金属だのコンクリだのの材料は怪獣境から持ってきてやるから、自分たちでやりな。あばよ。」
「おいコラ!お前はデカいんだからもっと手伝え!」
「じゃあなー。頑張って。それから、お前らの兵器はまだまだ弱いぞ。」
シャークは悔しがるアトキンスを後目にそのまま海中に姿を消していくのだった。


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