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台湾紀行2023.1

1人旅の際は記録を残すことにしているので、今回も例に漏れず残しておこうと思う。旅の楽しさは他なるものを経由し、自らを省みること、そして日常的な感覚や考え方を脱構築し、「いま・ここ・わたし」を再構築することである。旅先で「常識」が剝がれ落ちていく快感を、忘れぬうちにここに記しておきたい。

今回は自身が2016年に体育会バレー部の伝統である海外遠征で渡航先として企画し、実際に友好試合を行った国立台湾大学(以下、NTU=National Taiwan University)に、新型コロナ明け初の遠征先として、後輩たちが渡航するということで、試合観戦と応援の意味合いも込めて訪台したものである。また、2016年、2017年(日本に招待し、再度交流戦を実施)の交流メンバーとも旧交を深めるという目的もあり、今回は宿泊を含め、非常にお世話になった。今回、歓迎してくれた台北にいるOB・OGもいる一方で、英語が得意で交流時にもよく話していたメンバーが軒並みアメリカやイギリスで就職して台湾にいなかったことは一つ残念なことであった。ともかく、自分自身にとっては2度目の訪台となる中で、今回は観光もさながら、現地の友人との会話の中で印象に残った部分を記録していく。
 

街の景色

信号機のピクトグラム


台北市内で歩いていると、信号機のピクトグラムが目に付く。台湾の信号では、青になると上部が秒数、下部は人が歩いているピクトグラムが表示される。ピクトグラムは最初の段階ではゆったりと歩いているのであるが、残りの秒数が少なくなると走っている動きに変わっていく。数字が読めなくてもピクトグラムの様子を見ていれば直感的にどの程度急ぐ必要があるのかがわかる。(以下参照)

この信号機のデザインは台湾が世界で初めて取り入れたもので、台北松山空港にも展示がある。日本に住んでいると、信号機のデザインについて考える機会は皆無と言ってよいだろうが、旅先で異なるデザインを見ると、相対化して考えるようになる。他者と経由して、自らを省み、知らぬ間にこびり付いた「常識的な見方」が剝がれていく快感は旅の醍醐味であろう。

Taipei101のデザイン


前回にも訪れた場所であるが、今回は現地の友人たちと一緒に展望台まで登ったため、より多くのことを知ることができた。Taipei101のデザインは伝統的な中華思想に基づく、まず外観は竹のように8層に分かれており、8と言う数字も風水上良いとされるものである。さらに、8層の節には如意と呼ばれる雲のようなモチーフが描かれ、こちらも中華思想による縁起の良さをベースとしている。この辺りの説明は屋外の景色を見ることができるフロアにあるのだが、すべて中国語でのみ書かれているため、今回初めて意味を知ることができた。

象山のハイキングコースより

また、Taipei101からは様々な建物が見下ろせるが、何より印象的であったのは、Taipei101のすぐ下に位置する台北市政府の建物で、こちらは上空から見ると感じの十が二つ重なったように見える(カタカナのキを縦にしたような形)。こちらは中華民国の建国記念日である10月10日(雙十国慶節)に由来しており、10月10日で十が二つ重なったような形なのである。日本銀行の建物が上空から見ると「円」の形をしているように、台北市政府の建物もその形には意味がある。

分かりにくいが、左下の建物が台北市政府


また、Taipei101の展望台の中心には巨大な球体があり、球体がTaipei101の免震構造を支えている。建物が揺れる方向と逆の方向に球体が揺れることで、揺れを40%抑えることができるという。メカニズムの解説動画や、実際に地震が起きた際の映像もエリア内の展示として掲載されているため、一見に値する。日本では横浜ランドマークタワーが、クアラルンプールではペトロナスツインタワーが同様の仕組みを採用しているとのこと。

展望台の解説デッキより

国立台湾大学(NTU)


今回の訪台のメインは試合観戦であるが、前回同様に試合後はキャンパスツアーを実施頂いた。日本統治時代に建設され、旧帝国大学の一つでもあった国立台湾大学の建築は極めて当時の日本的である。東京駅のように全体的に赤レンガで建設され、学校の歴史について知ることができる校史館は母校の一橋大学に酷似している。2017年のレセプションでは、思い出を振り返る際に、一橋大学と国立台湾大学の写真を2枚プロジェクターで映し、どちらかを当ててもらうというスライドをつかみにしていたことを思い出した。
また、国立台湾大学のシンボルに鐘がある。こちらは傅鐘(ふしょう)といい、1949年から1950年に渡って学長を勤めた傅斯年を記念して作られたものである。この鐘は授業の開始と終了のタイミングで21回鳴らされるとのことのだが、それは、傅斯年学長の「一日は21時間しかない。あとの3時間は沈思黙考のための時間である」という言葉に基づいている。国立台湾大学の学生は鐘を見ると沈思黙考を想起すると言うが、音を鳴らす鐘をして、鐘のならない3時間の空白を際立たせるというのはなんとも文学的ではなかろうか。情報社会である現代において、沈思黙考の時間を取ることは容易いことではない。私も常にこの鐘を思い出し、沈思黙考の時間を大切にしたい。

日常生活

レシート読み込みアプリ「發票載具」


一緒にいたメンバーとレジに並んだ際に、レジでバーコードを提示している姿が印象的であった。そのバーコードは何かと聞くと、電子レシートということらしい。日本では常に紙のレシートが発行されるが、台湾ではバーコードを見せると紙のレシートが発行されないと言う。確かに環境について考えると、購買活動の度に紙が発行されると言うのはナンセンスであろう。この紙を一気に無くすことができれば、それなりにインパクトがあるだろう。アイデアや規格は政府発案であるが、このアプリは日本でいうマネーフォワードのような家計管理アプリともAPI連携しており、現金での支出を漏らすことなく記録できる。消費者の利便性を損なわず、なおかつ環境にも優しい。なぜこれまで思いつかなかったのであろうかと非常に感銘を受けた。

服のリサイクル


こちらもサステナブルなアイデアであるが、街の小学校や公園の近くには「舊衣回收箱」という洋服のリサイクルボックスがある。こちらのリサイクルボックスに古くなった洋服を入れると、事務局によって仕分けられ、まだ使用できるものは慈善団体等に贈られるという。日本だとメリカリ等の中古品販売市場があるが、台北では公的機関によって担われているとのこと。こちらも印象に残った。

こちらは中世記念堂近くの建国中学裏にある回収ボックス

最後に

月から金までは兵役で、限りある金曜日の夜と土曜日を自分の為に使ってくれた友人に感謝したい。食事からTaipei101の展望台のチケット代に至るまで、すべて奢ってもらい、まさに至れり尽くせりであった。学生時代のバレーボールを通じた国際交流は自分自身にとって大きな財産になっている。街を歩く中で、少々センシティブではあるが、友人に中国との関係性についてどのように考えているか聞いてみた。主に若い人々は好戦論であり、実際に兵役もこれまでの4か月から1年間に延長されたという。危機が迫っていること、そしてそれに対して迎える準備をしていることを、彼は淡々と話していた。何事も起こらないことを願うが、もし何か起こった際は、この恩返しがしたい。

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