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いい人になりたい。でもなれないから。
「いい人になりたいんです」
カウンセラーに、ベラは言った。
「私は、性格が悪い。とてもとても悪い。だから、先生、私をいい人にしてください。」
カウンセラーは、んんん...と唸って
「それは、なんのために?」と問うた。
「『何のために』も何も...いい人になることは、いいことじゃないですか。先生は、一体何がわからないんですか?」
「じゃあ、質問を変えよう」とカウンセラー。
「ベラ。君は他人になりたいのかい?自分はもういらない?」
「いいえ」とベラ。「なぜそんなことを聞くの?」
「君の言う『いい人』がどんな人かは知らないが、『いい人』は存在しないんだよ。君が『いい人』と感じる人も、僕はそうとは思わないかもしれない。『いい人』を目指すには、’’ベラの思う“いい人を演じなくてはならないんだよ。」
「演じる?『なる』んじゃなくて?」
「そうさ。『いい人』の被り物をする他にない。だって、『心からの行動』じゃ、ないんだろう?」
「それを、『心からの行動』にしたいの。」
「それは無理だよ。人の本質は変えられない。自然と、または大きなきっかけで『変わる』ことはあっても...意図的に変えることはできないんだよ。」
カウンセラーのその言葉に、ベラは落胆した。
「じゃあ...私はずっとこのままなの?」
「そうさ。ずっとベラのままだ。それでいいのさ。ありのままの君を好きになってくれる人は必ずいる。どんなワガママな君も、どんな怠惰な君も。」
「どんな私も?」
「そうさ。...君は、猫は好きかい?」
「ええ、好きだわ。」
「猫は、君に何かしてくれるかい?」
「いいえ。何も。」
「じゃあ、なぜ?」
「ただ、そこにいてくれるだけで癒されるからよ。」
「そう、それだよ。『存在』。それが大切なんだ。」
「存在...」
「人間はね、『いい人だから』一緒にいたいんじゃないんだよ。ただ、何の意味もなくお互いの存在があって、気に入ったもの同士が親密になる。それだけなのさ。それでいいんだ。」
「...」
「今、君をいちばん嫌っているのはね。...周りではなく君自身だよ。なぜ、自分をそんなに嫌う?鏡をみて、自分の目を見て『愛してる』と言ってごらん。まずはそこからさ。」
ベラは、黙って俯いていたが、少ししてからコクンと首を縦に振った。
「ありがとう、先生。」
終。