1匹のアオドウガネに人生を救われた話。
一度目の結婚は24歳の時だった。
6年後、夫が不倫。探偵に依頼して証拠を取ったのは5月の終わり頃だったと思う。
ひたすら逆ギレして離婚したいと喚く当時の夫。面倒くさがりで現実逃避癖があり、話し合いができない人だった。
執着する価値の無い彼に、私は追い縋った。
きっとやり直せると思っていた。
地獄のような日々だった。
職場では死にたいと喚くわけにもいかず、引っ越し先をネットで探すなどしていた。
同僚が良い部屋を見つけてくれた。ただ、そのアパートは駅から遠い点が不便そうだった。
少しして、当時住んでいたアパートのすぐ向かいの部屋に空きがでた。
綺麗だし、ここなら引越しが楽だと思い少し気が楽になった。
インテリア雑貨が好きで部屋にはこだわりがあったので、離婚した上に汚いユニットバスの部屋に住むはめにでもなったらと思うとゾッとした。
それでも踏ん切りはつかなかった。
話し合いの度に
「せめて離婚は春まで待って。ただでさえ寂しくなるのに、これから寒くなってきたらもっと惨めな気持ちになる。」
と懇願した。
季節は秋に差し掛かっていた。
ある夜、家の中に一匹のアオドウガネが迷い込んだ。
このアオドウガネが、大きな転機となった。
手で包み込んで窓から逃したその時。ふと目線を下に向けると、引っ越し先第一候補だったあの部屋から、不動産業者と客らしき人物が出てきた。
大慌てで不動産屋さんにメールをし、部屋の見学を申し込んだ。
10分足らずで、もう他の人が契約してしまったと返信が来た。
途端に大きな不安に襲われ、居ても立っても居られなくなった。
ボロボロのアパートしか見つからなかったらどうしよう。
とりあえず大急ぎで自転車に乗って、最初に同僚が見つけてくれたアパートの前まで行ってみた。
すると、アパートの目の前がバス停で、2つの駅に行けることがわかった。
ここしかない。今すぐ動くしかない。
それからは早かった。
借りてから離婚して名字が変わるのは手続きが面倒そうな気がしたので、まずは離婚。
彼は一切貯金できない人だったので、結婚生活で貯めた貯金を全額と、雀の涙ほどの慰謝料をもらうことになった。
部屋の内覧をし、その場で契約決定。
そのままの勢いで、一番早く日程が合う「平日休みの人限定婚活パーティー」に申し込んだ。
そのパーティーで出会ったのが、今の夫。
可愛い娘を授かり、本当に幸せな日々を送っている。
今のところ、育児の大変さと楽しさの割合は1:9、いやもっと楽しさの割合が多いかもしれない。
身の丈に合ったお金の使い方が出来、計画性と行動力があり、当たり前に家事をし、問題が起きたら話し合ってすぐ解決に向かって動く。夫のこういった点が、楽しく育児できる要因の一つとなっている。
全く正反対の前夫との育児だったら、こうはいかなかっただろう。
あの夜、あの時間、アオドウガネが迷い込んできてくれなかったら。
潰して捨ててしまっていたら。
部屋が埋まったことに気付くのが1週間遅かったら、娘は産まれていなかった。
巡り合わせの妙に感謝しかない。
この体験談も、誰かを救うきっかけになったらいいな。アオドウガネのように。
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