気密測定のマニュアル
気密測定器は元々コーナー札幌(株)という一企業が開発した測定器で、この測定器の取扱説明書が唯一の気密測定のマニュアルでした。
その後気密測定はJIS化(JIS A 2201)され、現在はこのJISが気密測定のベースになっています。
IBECsの気密測定技能者マニュアル
一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が気密測定技能者養成事業を行っており、ここで気密測定技能者を登録する制度が設けられています。
気密測定技能者はIBECsが行う講習を受け、試験に合格した人が登録できる制度です。
この講習で配布されるのが気密測定技能者用のマニュアルです。
JISだけでは実際の現場で測定するための情報が不足しているため、このマニュアルが気密測定の公式なマニュアルになります。
なお、残念ながらこのマニュアルは市販されておらず、IBECsの講習を受けた方のみ入手することができます。
(このマニュアルが市販されるかPDFで公開されればいいのですが)
気密測定に際して気密測定技能者の資格は必須ではありません。
ただ、気密測定技能者が測定すると、専門資格を持っている人が測定しているという安心感はあると思います。
気密測定技能者マニュアルは古い?
気密測定技能者マニュアルは、JISが改定された関係で2018年に大きな変更がありましたが、今の住宅に合わないと感じる部分もあります。
あくまでも私見ではありますが、それについていくつか書いておきたいと思います。
(以下については人によって意見が異なるかもしれません)
測定する圧力差
気密測定は基本的に圧力差が10~50Pa間の5点を測定することになっています。
ただ、10Paは通気量が少なく少しの風でも通気量が動いてデータのばらつきの原因になるため、通常は20~50Paで測定します。
また、一部の住宅は高気密かがかなり進んでおり、20~50Paの圧力差では十分な通気量が出ないことがあります。
気密測定は通気量が100m3/h以上必要ですが、高気密化が進んでいる住宅では送風機を少し回すだけで圧力差が上がってしまうため、通気量が100m3/h未満になることがあります。
気密測定技能者マニュアルでは30~70Paで測定することも説明されていますが、残念ながら高気密住宅ではこれでも通気量が不足することがあります
気密性能や風などの影響によっては、40~80Pa、50~90Pa間で測定する必要があります。
決定係数
2017年のJIS改定で測定時に決定係数を確認することになりました。
決定係数はデータのばらつきを表す数値で、ばらつきがなければ1に、ばらつきが大きいほど数値は小さくなります。
新JISでは決定係数が0.98未満の場合は再測定が必要になりました。
データのばらつきの原因は主に風ですが、気密性能が高い住宅ほど通気量が小さくなるため、わずかな風や室内の人の動きにも影響を受けやすくなります。
つまり、高気密住宅ほどデータがばらつきやすく、決定係数のエラーになりやすいということです。
気密測定は現場によっては車で何時間もかけて移動し、気密測定の準備をして測定しなければなりません。
また、建設の工程の関係で測定できる日は限定されます。
そのため風があるから後日再測定するということは簡単ではありません。
たしかにデータのばらつきが大きいと測定の誤差が大きくなるので、理論的には決定係数をチェックすることは正しいのですが、気密測定では常に風がない状態で測定できるわけではありません。
現場で測定する担当者にとって、この改定は非常に負担になっています。
総相当隙間面積(αA)の有効数値
気密測定技能者のマニュアルでは総相当隙間面積(αA)は有効数字は3桁と書かれています。
しかし、高気密住宅ではαAが10、20などの2桁になります。
そうしますと、有効数字3桁とるためには10.1などの小数点まで取らなければならなくなります。
αAで小数点以下の数値は測定のたびに変わる数値で、測定値としてはあまり意味がありません。
有効数字が3桁になっているのは、もともとαAが100以上だった時代のもので、本来であれば小数点以下を四捨五入でいいのではないかと思います。