気密測定結果の誤った見方
気密測定についての質問を度々受けますが、最近施主の方がインターネットでいろいろ調べているようで、施主からこのような質問があったがどのように回答したらいいかという質問が増えてきています。
高気密住宅の重要性が理解されてきていて、気密測定に興味ある方が増えてきているのだと思います。
ただ、ネット上の情報をそのまま受け取ってしまう方もいらっしゃるようで、気密測定者が説明してもわかっていただけないことがあるようです。
まず気密測定の結果の見方を以前書きましたのでこちらをご参照ください。
隙間特性値(n値)
気密測定しαAを計算する過程で隙間特性値(n値)という数値が出てきます。
気密測定では以下のようなグラフが出ます。
赤い点が気密測定器によって測定された圧力差と通気量のデータです。
通常圧力差を変更して5点測定します。
この測定点に沿って引かれた直線を基にαAは計算されます。
n値はこの直線の傾きです。
n値は1~2の間に入っていなければなりません。
1~2の間に入っていなければ気密測定器ではエラーになり、再測定する必要があります。
n値が1~2の間に入らない原因としては、窓や換気口などの閉め忘れ、風の影響で圧力差や通気量がばらつくなどが考えられます。
n値が1に近ければすき間から入る空気が層流になっていて、2に近ければ乱流になっていると考えられます。
このようなことから小さいすき間が全体に分布していると1に近づき、大きな穴があれば2に近づくと言われています。
ただ例外もあります。
高気密住宅ではn値は小さいはず?
高気密住宅ではすき間が小さいわけですから、理論的にはn値は1に近づくはずです。
そうすると2に近い数値が出ていれば、どこかに大きな穴があるのではないかと勘ぐられるようです。
実際そういう質問が増えているそうです。
では高気密住宅では本当にn値は1に近づくのでしょうか。
理論的にはその通りです。
ただ、住宅は実験室内にあるのではなく外に立っています。
そのため、風などの影響により環境は一定ではありません。
微風時の影響は従来の住宅では影響は少なかったのですが、気密性能が高い住宅では影響を受けやすくなります。
特にC値は0.3以下など非常に気密性能が高い住宅では、外の微風や室内の人の動きでも測定に影響が出ます。
高気密住宅は風の影響を受けやすい
なぜ気密性能が高い住宅では微風でも影響が出るのでしょうか。
気密性能が高いということは住宅のすき間が少ないということです。
気密測定するときは送風機を回して室内の空気を外に排出して内外の圧力差を作り、その時の圧力差と送風機を通る風量(通気量)を測定します。
(減圧法の場合)
すき間が大きいと送風機をいくら回してもすき間から空気がどんどん入ってくるのでなかなか圧力差は上がりません。
逆にすき間が小さいと送風機を少し回すだけで圧力差が上がります。
送風機を少し回すだけで圧力差が上がるということは、少ない通気量で気密測定が行われることになります。
通気量が少ないと、わずかな風でも通気量が変化してしまいます。
これがデータのばらつきの主な原因です。
ここで前述の気密測定時のグラフを見てください。
データのばらつきがなければすべての赤い点は直線上に乗ります。
しかし、風の影響などでデータがばらつくと、直線から点がずれることがあります。
点がずれると直線の傾きも変わります。
直線の傾きはn値なわけですから、データがばらつけばn値も変化してしまうということです。
このように気密性能が高い住宅では風の影響を受けやすく、そのためn値も変化しやすいということがわかります。
そのため高気密住宅でもn値が大きくなることがあります。
本来であれば無風な状態で気密測定するべきです。
実際JISや気密測定マニュアルでは風速が3m/s以下のときに測定することになっています。
ただ、気密性能が高い住宅では風速が3m/s以下でも影響を受けてしまうことがあります。
そのため、どうしてもn値が大きくなることもあり得ます。
n値は1~2の間にあれば測定としては問題ありません。
ただし、風がありグラフの直線からいくつもの点が大きく離れていれば再測定をお勧めします。
可能であればデータのばらつきを表す決定係数を計算し、決定係数が0.98以上になっていることを確認してください。
風の影響でデータがばらつく場合は圧力差を高めに測定するのも一つの方法です。
通常気密測定は圧力差が20~50Paの間で5点測定します。
これを30~70Pa間の5点、または40~80Pa間の5点、または50~90Pa間の5点というように圧力差を高くして測定します。
圧力差が高くなる分通気量が増えるため、風の影響を少なくすることができます。
気密測定器によっては細い整流筒をオプションとして出しています。
整流筒は送風機に接続して風量を測定するための装置です。
整流筒が細くなるとその分風速が速くなり風の影響が少なくなります。
気密性能が高い住宅を測定する場合は、このようなオプションを用意しておくのも一つの方法です。
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