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未来に繋ぐための対話/演劇と『法律』vol.5 ネットと 『 書き込み 』

演劇と社会の繋がりを考える対談連載です。板垣恭一(賛同人代表)が、弁護士・藤田香織(当基金の法務担当)に、演劇と『法律』についていろいろ聞きました。

対談連載第5回 ネットと 『 書き込み 』

弁護士・藤田さんとの対談連載4回目。今回からは「演劇と法律」をテーマにしてみようと思います。今回は「ネットと書き込み」について。SNSなどで否定的なコメントがついた場合、法律的にはどういう対処が可能なのでしょうか。

今回のポイント
▲悪質な「書き込み」に対して対処する方法はある!
▲悩んでしまっている時は「誰かに相談して欲しい」!
▲ミュージカルファンはやたらにフランス革命に詳しい!

板垣=ということで「ネットと書き込み」についてです。SNSを利用している方は、多かれ少なかれアンチと呼ばれる方からの書き込みに悩まされたことがあると思います。これは泣き寝入りするしかない問題なのでしょうか。そこらへんを藤田さんに聞いてみたいです。

藤田=よろしくお願いします。

板垣=で、泣き寝入りするしかないのでしょうか。例によってそのままななフリで恐縮です!笑

藤田=最近、SNS等で問題になっている、ネット上の書き込みですね。先に結論から言うと、場合によってはネット上の書き込みも、刑事処罰の対象となりますし、損害賠償請求をすることもできます。

板垣=おお、心強いですね

藤田=まず、前提として、我々には、表現の自由があります。これはネット上の書き込みでよく話題になるものです。ただ、表現の自由っていったいどういうものかわかりにくいですよね。

板垣=ぜひ、教えて欲しいです。

藤田=はい。そしてまたいつものようにはじまるミュージカル話におつきあいください笑
私たち舞台ファンは、フランス革命とフランス人権宣言に非常に詳しいのですが、

板垣=ええ。銀座界隈ではよくフランス革命が起こっているようですね。ミュージカルファンは人権問題にやたら詳しいという印象です笑。

藤田=私、一時期は両親に会う頻度よりロベスピエールさんに会う(観る)頻度が高かったです笑。ミュージカル1789では、多くの条文が台詞になっていたので、私なんかはそらで覚えてしまいました。その中にも表現の自由という表現がありました。自分の思っていることを誰にも制約されないで表明する自由です。これは日本国憲法でも保障されている権利です。

板垣=そうでした。

藤田=たとえば、国の政策について意見を述べても処刑されない自由です。この自由というものがくせ者で、どこまでも許される自由なのかというとそうではない。では、自由はどういう場合に制約されるかというと、これも1789の革命家ロナンや、オランプの台詞にもあるとおり、「自由とは他人を傷つけない全てのことをできるってこと」です。自由が保障されるといっても、だれかを傷つける自由はないのです。

板垣=なるほど! しかし、やはりやたら詳しい!

藤田=大学受験の時、フランス革命だけは誰よりも詳しかったです。ミュージカルファンあるあるですよね笑。

板垣=笑

藤田=SNSでの書き込みであっても、誰かを傷つけてしまう場合には、刑事罰が科せられたり、損害賠償の対象となります。たとえば名誉毀損罪という罪があります。刑法230条1項で、3年以下の懲役、禁固、50万円以下の罰金に処せられる罪ですが、「公然と、事実を摘示し、人の名誉を毀損」した場合に処罰されます。SNSやインターネット上の書き込みは世界に発信されていますから、そこに書き込んだ事実が誰かの名誉を傷つけていれば(公共の利害に関する事実であるといった例外規定に該当しない限り)処罰されます。書き込んだことが事実であったとしても。です。

板垣=と、言いますと?

藤田=たとえば、「あいつ前科があるよ」とか、「反社会的勢力と関係があるらしい」とか、「あいつ不倫している」とか、そのような書き込みは名誉毀損になり得ます。たとえ本当に不倫していたとしても。また、「死ね」「火をつけるぞ」「仕事できないようにさせてやるぞ」などは、脅迫罪にあたり、これも刑事罰の対象になります。

板垣=漠然としたイメージなのですが、インターネットなどでの攻撃的な書き込みに対して対処することがすごく難しいのではないかという心配があります。

藤田=インターネットでさっきのような攻撃を受けた場合、出来ることは2つあります。一つが、SNSの運営母体やホームページの制作者に削除の依頼をしたり、googleなどに依頼をして検索に引っかからないようにするなどの方法で、名誉毀損や脅迫を行なった書き込みをインターネット上から見えないようにしてしまう方法です。

板垣=そんなこと出来るんだ。

藤田=もう一つは、書き込んだ本人を特定して、損害賠償請求をしたり、刑事告発する方法です。こちらは、プロバイダ責任制限法に基づいて情報開示請求をすることになります。弁護士に相談してみると、手続を代理したり、やり方を教えてくれますよ。

板垣=何か参考になりそうな体験などがあれば教えていただけますか?

藤田=たとえば私の経験では、WEB上の掲示板に、前科があるといった誹謗中傷を書かれてしまった人がいました。商売にも影響があると困って相談に来られたので、まずは、掲示板の管理者に削除依頼をかけると共に、インターネットでその人の名前を検索したときに、前科があるという事実が検索結果に出ないような申し入れをgoogleにしました。ちなみに、googleから検索できないようにするとyahooの検索にも出ないようになります。ちなみに、非常に読みにくいのですが、googleの削除依頼のフォームはこのURLです。https://support.google.com/webmasters/answer/6332384?hl=ja

板垣=あるんですね、こういうの。

藤田=そうして、まずは現時点で行なわれている誹謗中傷が外に出ないようにした上で、次にプロバイダ責任制限法に基づいて情報開示請求を行なって、書き込んだ人を特定しました。何人もの人から書き込みがあったように見えましたが、いざ特定してみると加害者は一人でした。その上で、加害者とはお話をして和解をしました。自分の氏名住所が明らかにされると、ご自分がされたことの重大性を理解して、反省してくださいましたよ。

板垣=この場合、書き込みをした側が特定されたということがポイントなのでしょうか。手順もあるのでしょうが、匿名性を奪われたから相手も何か気づけたのではと考えてしまいますが。

藤田=そうですね。匿名の誰かとして書き込んでいたときは、自分が生身の人間で、相手も生身の人間だという感覚が無かったのだと思います。ゲームで誰かを殴っている感覚だったのでしょう。本当はインターネットの後ろ側にも生身の人間がいて、殴った拳は生身の人間に傷をつけるのだと分からなかったんでしょうね。実際に本名の人間としてお互いに対峙した時に初めて、自分がどんなに相手を傷つけてしまったかに気づいたようです。

板垣=どうしてやる前に気づけないんだろう。でも得てして本人は「正義」だと思ってたりするんですよね。僕いま、授業でネットの書き込みについて大学生たちと議論しているのですが、悪い書き込みをする心理として「いいね」やリツイートが欲しくてやったのでは? という意見を聞いてなるほど!と思いました。つまり「いい悪い」の判断より先に、共感が欲しくてやってしまうのではという分析です。

藤田=今の時代って、正義が相対化されて、何が正義かわかりにくいし、それでも良いと思うんです。それぞれに自分の正義について議論をして、考えを深めていけば。また、自分の意見に共感が欲しいのはみんなそうで、それ自体はおかしなことでは無いと思います。そこまでは分かる。ただ、このことはこの対談の始めからずっと話題になり続けていますが、書き込んだ相手も生身の人間で、相手にも正義があり、叩かれたら傷付く、その人のことを想像しなくちゃいけないです。

板垣=生身なんですよね、人間て。情報としての「ヒト」なんていなくて、物理的に存在する「人」しかこの世にはいない。

藤田=目の前の人を拳で殴る覚悟がないのであれば、言葉でも殴っちゃだめですよね。ダメージは同じですから。どうしても、インターネット上の書き込みは相手が見えない分、想像力が働きにくいです。でも、パソコンや携帯の画面の向こう側に人間がいて、ツールはインターネットだけれども、人間を相手にしているという意識が必要だと思います。

板垣=「されてイヤなことはしない!」と心がけるだけでも効果があるのではと期待します。他に具体的な例をお聞かせ願えますか?

藤田=私のところにご相談に来る方は、みんな、相談に来る前にすっごくすっごく悩んで、ご飯ものどに通らなくなってから来られます。SNSをやっている以上、叩かれるのは当然だとか、表に立つお仕事をしている方は、人気商売だから相手を無碍にできないとか、いろいろ考えてしまうようです。

板垣=そうなんだ……。

藤田=もちろん意見の交換は必要ですし、合理的な批判は受け入れるべき場合もあります。ただ、最初に書いたような誹謗中傷や脅迫は、表に立つ商売であろうと、そうでなかろうと、受け入れるべき問題ではないんです。だめなことはダメと相手に言ってしまっても大丈夫です。ただ、このあたりのことはすごく難しいし、なかなか自分ではわかりにくいですよね。なので、誹謗中傷を受けて悩んでしまっているときは、だれかに相談して欲しいのです。お友達に相談しやすい人もいるかもしれないですし、赤の他人の弁護士の方が良いかもしれません。とにかく、ご自分だけで抱え込まないということをヒントとしてお伝えできればと思います。

板垣=助けを呼ぶって意外と難しいですよね。特に「やりたくてやってること」と自覚している場合は余計に。僕は自分が歳を重ねてよかったと思うことの一番は弱音を吐けるようになったことです。これ、かなり練習しました。まず相手を見つけて、イヤな気持ちを抱えている時にがんばってその状況を喋ってみるようにしたんです。でも苦しみの真っ只中にいる時は、話をしずらいですけれど。

藤田=そうですよね。助けを求めるって、弱いのではなくて、すごくすごいことだと思います。誰かに弱音を吐こうかなとか、誰かに助けを求めようかなと思ったときに、引け目を感じる必要は無くて、むしろ、私、人に助けを求められるなんてすごいと思わなきゃですね。助けを求めて来てくれた人のこと、嫌だと思う人なんて、あまりいないと思うのです。少なくとも私は嬉しいですもん。頼ってもらえて。お仕事でもそうでなくても。

板垣=藤田さん、優しい!

藤田=頼られるとみんなうれしくなっちゃいますよね。

板垣=確かに! 僕の場合、何かしなくてはと踏み込みすぎる傾向もありますが!

藤田=笑

板垣=さて「演劇と法律」というテーマを立てたので、じつは次回のテーマを考えてあります。「著作権」です。インターネットで手軽に動画がアップできるようになった昨今、おいおいそれは大丈夫か? みたいに思うことが増え。藤田さんにもそういう相談があるとか?

藤田=はい。コロナで劇場に行かれなくなり、観客も作り手の方々も家にいなくてはならないので、動画配信を計画されている方からのご相談が多いです。歌をtwitterにアップしたい。お芝居の配信をしたいというニーズが今多いですよね。

板垣=やはり。

藤田=気をつけないと、良かれと思って動画を配信したのに、著作権法違反で損害賠償請求されることになりかねません。このあたりの注意すべきポイントをお話しできればとおもいます。

板垣=ぜひお聞きしたいです。今日もありがとうございました!

藤田=こちらこそ!ありがとうございました!!
(つづきます)

●第3回目までの対談内容はこちらでも見ることができます

 ◆noteマガジン:未来に繋ぐための対話/演劇と『法律』連載

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