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未来に繋ぐための対話/演劇と『法律』vol.1

演劇と社会の繋がりを考える対談連載です。板垣恭一(賛同人代表)が、弁護士・藤田香織(当基金の法務担当)に、演劇と『法律』についていろいろ聞きました。

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対談連載第1回 「コンプライアンスってなに?」

弁護士・藤田さんとの対談連載1回目。いわゆる『炎上』とは何なのか。その原因や問題点を探ります。

今回のポイント
▲コンプライアンス=「社会的ルール(←法律ではない)を意識すること」
▲ポリティカルコレクトネス=「だれも傷つけないための表現の工夫」
▲Twitterで発信する場合の注意点


板垣=どーも。賛同人代表の板垣です。この基金が意図しないことで炎上したくないなあ、と思っていたところ、心強い知り合いがいたことを思い出しました。弁護士・藤田香織さんです。彼女は人権問題の専門家で、企業法務にも携わっていて、これまでも色々お世話になっていることもあり協力してもらおうと。

藤田=藤田です

板垣=炎上したくない、ってことを僕は「コンプライアンスだ!」と考えたわけです。

藤田=なるほど。そう考えることもできますね。

板垣=でしょ? で質問なんですけど、コンプライアンスって何ですか? よく分かってないんです。

藤田=・・・あ、はい。コンプライアンスと言うのは・・・コンプライアンスって分かりにくいですよね? 横文字だし。

板垣=そうなんです。

藤田=日本語に噛み砕くと「法令遵守、及び、法律として明文化されてはいないが、社会的ルールとして認識されているルールに従って企業活動を行う」という意味です。

板垣=ふむ。

藤田=我々の基金が外に向かって意見を発信するためには、コンプライアンスを守ることは最重要課題です。

板垣=むずかしい! もっと噛み砕いて下さい!

藤田=情報の発信に関してわかりやすくいうと、「や〜。うちの会社、実は脱税してるんです」と言ったり、「コロナで外出禁止令が出ていますが、今から飲み会です!」というような発信をしないよう、きちんと会社の中で気をつけるといったことでしょうか。

板垣=なるほど。

藤田=板垣さんは先程、炎上したくないっておっしゃいましたよね。

板垣=ええ。意見の違いによる言い争いはいいんですが、単純な誤解でモメたくはないなと。

藤田=炎上しないためには、コンプライアンスを遵守するだけでは足りないと思っているんです。

板垣=と言いますと?

藤田=ポリティカルコレクトネスって聞いたことありますか?

板垣=あります! でも簡潔に説明できない。

藤田=このポリティカルコレクトネスという言葉は、最近では揶揄して使われることも多いのですが「差別、偏見を防ぐ目的で、公正中立な言葉や表現を使う」ということです。日本でも最近になって使われてきていますよね。わたしはこの言葉を「だれも傷つけないための表現の工夫」だと思っています。

板垣=誰も傷つけない・・・

藤田=もちろん表現である以上、だれも傷つけないのは難しいと思うんです。でも、特に中立的な立場で発言をするときには、発言によって傷つける人がいないか注意を払ってもいいと思います。たとえば、日本人が、あの人「ガイジン」だから、お箸使えないんだよ。という発信をしたときに、その人のことを差別するつもりではなかったとしても、「ガイジン」ということばに傷つく人はいますよね。

板垣=差別ってことですね。

藤田=そうなんです。差別なんですが、発言する本人は差別するつもりはない場合もある。それでも、受け取る側が傷ついてしまうのであれば、そのような発言や言い回しは避けるべきなんです。

板垣=差別について僕は、こう理解してます。「〇〇なのに〜」って言い方が問題だと。「ガイジンなのに日本語上手ですね」「女性なのに弁護士ってすごいですね」。本人は差別なんて自覚はないけれど、それは立派な差別である。

藤田=これを読んでいる方の中には、あえて人を傷つけようとする人はいないと思います。ただ、意図しないところで、言葉が思ってもみない人のことを傷つけている可能性を考えてみなきゃいけないんじゃないかと思います。

板垣=なるほど。意図的な悪意ではなく、悪意のないところに凶器は潜んでいると。

藤田=そうなんです。そして、今は、我々はインターネットで世界中の人に発信をし、発言は世界中の人が受け取ることになるので、注意が必要です。対面で話していれば、相手のことだけ気をつければ良いですが、世界に発信するとなると、言葉を受け取る人も多種多様になります。実際、言葉を受け取る人のことを傷つけたくないわけですから、注意が必要です。

板垣=ですね。

藤田=さらに、Twitter等のSNSで発信することの難しさもあります。

板垣=と言いますと?

藤田=本で伝えるのならば本を読み終わるまでに伝えたいことが分かれば良い、お芝居なら2-3時間かけて、幕が下りるまでに伝えられればい。でも、Twitterでは140字で伝えなきゃいけません。

板垣=確かに。

藤田=たとえば、ラカージュオフォールという有名なミュージカルがありますよね。板垣さんにあらすじを説明するのも気が引けますが、ゲイクラブの看板スター、ザザが、同性の夫であるジョルジュとともに、子どものように育ててきたジャンミッシェル。

板垣=息子とパパたちですね。いや、ママたちか。いや、分ける意味がないのか。

藤田=この子が、突然、彼女の親が家に来るからといって、「まともな」家族に見えるように、ザザを家から追い出そうとしたり、男性として振る舞えと言ってくるわけです。

板垣=そうでしたね

藤田=この時点でお芝居が終わったとしたら、このお話はとんだ差別主義的なミュージカルということになります。ゲイの人のことを「まともじゃない」なんて言うわけですから。でも、ここでは終わらない。最終的にジャンミッシェルは悔い改めて、ザザの親としての愛に気づき、ザザは、息子の前でも「私は私」として生きられる訳です。ここまで来て初めて観客は納得し、傷付かずに劇場を後にできます。

板垣=演劇の醍醐味ですね。

藤田=ただし、Twitterは140文字で文章を終わらせなければいけません。さらにその後、長い間時間をかけて説明をすることもしにくいのです。どんなに適切な配慮をしたツイートを重ねていても、一つの投稿で「ゲイの親がいるなんてまともな家庭じゃない」と書いたら、その投稿だけがリツイートされて拡散されてしまいます。だから、短い文章の中で、誤解がなく、傷つける人がいないような発信をする必要があるんだと思います。

板垣=難しいですよね。それってとても。個人的にはそれが怖くてSNS発信していません。

藤田=そうなんです。難しいです。でも、ポリコレとか、コンプライアンスとか思っているより、だれか、自分の発言で傷つけちゃわないかな?って気をつける方がわかりやすいんじゃないかと思うんです。

板垣=なるほど、それならスッキリです。

藤田=気をつけなくてはいけないのは、たいてい自分が属さない側の人、たとえば男性が発信するなら女性、役者さんが発信するならお客さん。

板垣=そうか・・・。

藤田=自分の仲間だけじゃなくて、世界のみんながこれを見ていると思えば、みんな傷つかないように伝えるのはそんなに難しくないんじゃないかなと思っています。見えていない人に少し想像力を働かせるということです。

板垣=でもそこも難しい。人は他人のことよりも、自分の正当性を訴えかけがちな生き物だから。

藤田=そうなんです。分かります。正当性を訴えてもいいんです。その人の気持ちを傷つけてるかもしれないなと思ってたとしても、それに思い当たってるならば大丈夫です。言い訳ができますし、言葉を重ねることもできます。ただ、それに思い至らない、想像がつかないと、炎上を止めることができなくなってしまいます。特にこの点の理解が難しいのが、男女差別の問題、それから、この基金の関係で言うと、役者さんたち中の人の気持ちとお客さんの受け止めの問題でしょうか?

板垣=なるほど。その話、次回うかがいましょうか。

藤田=そうですね。なかなかお互いの理解も難しいところなので、今までどのようなことで炎上が繰り返されてきたか、実情も含めて、気をつけなくてはならないことを整理できたらと思います。

板垣=次回もよろしくお願いします!

藤田=こちらこそ、よろしくお願いします。

(つづきます)

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●対談はYouTubeでもみることができます


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