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未来に繋ぐための対話/演劇と『法律』vol.6 演劇と『著作権』

演劇と社会の繋がりを考える対談連載です。板垣恭一(賛同人代表)が、弁護士・藤田香織(当基金の法務担当)に、演劇と『法律』についていろいろ聞きました。

対談連載第6回  演劇と『著作権』

今回は著作権についてです。ネットを使った動画配信が盛んな今、おいおいそれ大丈夫か?的なものを見かけることもあり。そもそも著作権とは何なのか、著作権が及ぶ範囲はどこまでなのかなど、お聞きしてみたいと思いました。

今回のポイント
▼著作権は登録しなくても発生する
▼15秒以下OKは都市伝説!!
▼著作権はなんのためにあるのか

板垣=ということで著作権についてです。僕ら業界の人間は著作権ってよく口にするような気がしているのですが、実際はよく分かってないと思いまして。さっそくですが藤田さん、著作権ってなんなのでしょう。

藤田=著作権とは、作品を作った創作者を守り、作品がどう使われるかについて創作者が決めることができる権利です。

板垣=ふむふむ。

藤田=著作権って、登録しなくても良いんです。著作物といわれる、作品を作りさえすれば、登録しなくても作った瞬間に発生する権利です。

板垣=えっ! そうなんですか? それは知りませんでした。

藤田=そうなんです。「©︎」って書いてなくても大丈夫なんです。では、この著作物っていうのが何かということなのですが、難しく言うと、「思想、もの、又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、芸術、美術又は音楽の範囲に属するものを言う」という定義になります。ちなみに、著作権者には、複製、上演・演奏、上映、アップロード、口述、展示、頒布、譲渡、貸与、翻案といった様々な利用をそれぞれ勝手にされない権利と、著作者人格権という、勝手に著作物を公表されない、誰が作ったか表示される、勝手に改変されないといった権利が発生します。

板垣=ややこしいですが、要するに「表現」に関わる権利ということでしょうか。

藤田=そうですね。舞台、特にミュージカルは、まさに著作権の宝庫です。具体的にみていきましょう。

板垣=よろしくお願いします!

藤田=ガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」を題材とした「オペラ座の怪人」は、原作からいくつもの特徴的な文章を抽出して台詞に盛り込んでいました。この、原作のオペラ座の怪人は、もちろん著作物ですし、これを翻案した、脚本も新たな著作物になります。さらに、これはブロードウェイで上演された英語の脚本を翻訳しているので、この翻訳にも著作権が発生します。

板垣=そうか。そりゃそうですね。

藤田=もちろん、アンドリューロイドウェバーの曲、チャールズハートの作詞にも著作権が発生しますし、編曲にも著作権が発生します。すてきなお衣装や、舞台セットに著作権が発生するのは感覚としてわかりやすいですよね。オペラ座の怪人の続編のラブネバーダイズの舞台セットなんて、ちっちゃくして持っていたいですよね。お衣装も、時代考証を踏まえた素敵なお衣装や、ここにまさかのラインストーン!!みたいな素敵なお衣装いっぱい有ります。そういう、特徴的な表現に著作権が発生します。振り付け、照明デザインにも著作権は発生します。シカゴのあの振り付け、みんな覚えているし、シカゴのアレっていうとわかりますよね。板垣さんのIn this houseの、後ろから当たる照明も、印象的でした。ミュージカルはまさに、我々が目で見て、耳で聞く、全てのものに著作権が発生していると言って良いと思います。

板垣=おお〜。さすがミュージカルファンですね。例えが具体的です笑。ところで僕は演出家なので、演出の著作権はあるのか気になるところです。

藤田=演出家は、著作物を直接生みだしはしないけれど、様々な著作物を組み合わせて交通整理し、一つの作品にするというお仕事だと、学術上は考えられてます。あってますか?

板垣=ええ、おそらく。さまざまなプロフェッショナルの仕事をコントロールし、スタッフもキャストも含む団体競技としてチームを勝利に導く仕事だと考えています。

藤田=なるほど!!演出家の方のカラーによって作品がものすごく魅力的になるのを何度も拝見している私としては、そんな言葉だけで表現するのも不足があるとおもうのですが、ここは著作権法のことだけを考えていくと、演出家の方、それから、役者さんやミュージシャン、指揮者の方は著作隣接権者として保護されます。著作権者に準じて扱われているという認識です。

板垣=ほうほう。

藤田=自分の作品を勝手に録音録画されたり、放送されたりすることから守られますし、作品に名前を付すこと、作品を勝手に改編されないこと、というような権利が付与されます。

板垣=そうそう、演出家って何をしているのか、なかなか理解されづらいと思ってまして。僕がよく例えるのがクラシック音楽の指揮者やプロサッカーチームの監督なんです。直接音楽(やサッカーゲーム)を作っているというより、寄り添いながら技術者の能力と魅力を最大限引き出すみたいな。著作隣接権者と言うのですね。なんか嬉しいなあ。

藤田=それだけ作品に強い影響があるということだと思います。

板垣=ありがとうございます。僕らにとって著作権が問題になるときって考えますと、侵害してしまった、されてしまった時ということになりますね。その判定ってどうなっているのでしょう。音楽について、15秒以内なら大丈夫って聞いたことがありますが、そうやって時間とかで決まってるんでしょうか?

藤田=判例は難しいことを言っていますが、簡単に言うと、創作的な表現が似ていて、真似しているということが分かれば著作権侵害になります。音楽について15秒以内ならセーフ、4小節以内はセーフというのは都市伝説です笑 あ、これはあの曲じゃないか?って分かってしまえばその時点でアウトです。

板垣=マジですか!? 都市伝説なんだあ〜。え、もし真似してるって指摘されて訴えられた場合、どのくらいお金を取られちゃうんですか?

藤田=真似されたことによって著作権者が実際に損失を被った額なので、あまり高くならないことも多いんです。6825万円の請求を裁判でして、認められたのが23万円あまりということもありました。

板垣=そうか。実際の損失額として計算するんですね。ではでは、例えば大好きなミュージカルの曲を歌ってYouTubeにアップしちゃうことは著作権侵害になりますか? 営利目的なつもりじゃなくても。

藤田=コロナで様々な作品が上映中止になったときに、私たちファンはとにかく曲を聴きたい!! youtubeなどで聞かせてって心から願いました!! ただし、これをやるには様々な制約があります。まず、原則としては、曲を歌って、録音して、アップロードするというのは、著作権の中の演奏権、複製権、公衆送信権を侵害する、著作権法違反の行為です。但し、非営利であれば許される場合があります。配信で音楽を演奏したり、歌ったりする場合

①JASRAC管理の曲を
②JASRACが利用許諾契約を締結しているサービス上で
③報酬を得ず、出演料を貰わずに
④自分で演奏して
使うのはOKです。ちなみに、歌いたい歌がJASRAC管理かどうかは
https://www.jasrac.or.jp/smt/
こちらから検索が可能です。ミュージカルの曲があまりないんですよ・・・

また、配信がJASRACと利用許諾契約を締結しているかは
https://www.jasrac.or.jp/info/network/ugc.html
こちらから検索可能です。

インスタやYouTubeはこれに入っています。twitterは入っていません。

④の、自分が演奏するという要件は、伴奏もです。なので、カラオケ音源は使えません。JASRAC管理がなされていない曲の場合は、直接著作権者と交渉することになります。ミュージカルとかだと、向こうのエージェントになるので、結構大変です。もちろん、著作権が切れている曲を使用することは可能です。日本、EU、アメリカなどは死後70年で著作権が切れるので、有名どころだとガーシュイン、コールポーター、グレンミラーなどの曲は使えます。

板垣=おお、そうなんですね。

藤田=やりがちなのですが、youtubeで歌って、URLをtwitterなどに埋め込むことも許されないので注意が必要です。

板垣=Twitterに埋め込むのは、また別の問題があるわけですか?

藤田=twitterは、JASRACと利用許諾契約を締結していないので、利用許諾契約を締結しているyoutubeで歌っても、それをtwitterに埋め込むのはアウトということなんです。

(※「埋め込む」というのは、twitterの再生機能を使って再生させるという意味です。U R Lをただ貼り付けただけなのは特に問題がないと思います)

板垣=なるほどですね。そこらへんの問題はもう専門家じゃないと追いつけないかもですね。とにかくまずは権利が切れているかの確認をすること。ひょっとしたら、SNSとはオリジナルの表現を発表すべき場所なのだと自分に言い聞かせることも大切かもしれませんね。

藤田=私は、著作権というのは、その、作品を作った人に対するリスペクトを形にしたものなんだと思います。著作権には色々な考え方があって、作品を自由に使える方が、二次著作物を含めてより多くの作品が世に出るという考え方もあります。それでも、著作権法によって、自分の作品を勝手に使われたり、冒涜されるような使われ方をしないように保護するというのは、芸術家をリスペクトし、保護し、次の作品を作るモチベーションを高めるために必要不可欠なんだと思います。

板垣=そういうことか。僕は海外の脚本を演出することも多いのですが、正直、完璧に素晴らしいとは言い難い作品もあったりします。でもその時考えるんですよね。作ったのは誰なのかって。多少弱点があったとしてもその作品を生み出したということについて、僕は尊敬と感謝の念があるのです。だから改変するときは作った方たちの「核」みたいなものは絶対いじらないように注意しますし、余計なお世話かもしれないけれど、もっともっと作品が良くなるような方法での手当の仕方を考えます。ああ、もちろん断った上で。

藤田=なんだか泣けちゃいますね。私たち観客は、それぞれの作品が大好きです。それはきっと海外の作品や脚本に接した人もそうで、新たにブラッシュアップしてすてきな作品にしてくれる人が、元の作品にも尊敬と感謝の念をもっているって、ほんとにすてきなことだと思います。大切にして欲しいですもんね。そして、そうやって新しく作られた作品も同じように大事にされるんだと思います。

板垣=いや、それはもう、はい。逆に僕が深く関わった作品を韓国で上演していただいたこともあったりして、その時に作品をとても大切にしていただいたと感じたんですよね。それは嬉しかったし、なんだか誇らしかったし、とても良い経験でした。そんなこともあったりで、ええ。

藤田=公演がなかった期間、それぞれの作品が私たちにとってどんなに大切か、思い知りました泣。そういう作品がこれからもたくさん作られ、守られていくと良いなと思います。板垣さんの作品も含め、日本発進のミュージカルがこれから、海外にたくさん進出していきますようにと思いますし、その時のためにも、日本できちんと著作権が守られる土壌が出来たら良いなと思います。

板垣=いやあ本当に。僕自身はひねくれ者なので著作権て、ビジネスのひとつでしょ?みたいな考えも正直あったんです。でも「作った人を守る=勝手に商売させない」というシンプルで大切なことが出発点になっていると気づけて嬉しいです。さっきもチラッと言いましたけど、自分たちがもっとオリジナルを作らなくてはいけないって問題も含んでいるような気がしてきました。僕なんかはそっちを丁寧に掘り下げていかなくてはと思います。今日もどうもありがとうございました!

藤田=どうもありがとうございました!
(つづきます)

●第3回目までの対談内容はこちらでも見ることができます

◆noteマガジン:未来に繋ぐための対話/演劇と『法律』連載

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