見出し画像

ジャンバルジャンさんの規範意識(レミゼラブルにおける構成要件該当行為についての一考察)

一般社団法人未来の会議をお送りする舞台芸術トリビアコラムです。
当団体理事の藤田香織のコラムを転載いたします。

--
私はレミゼラブルが大好きです。レミゼラブルを見て、弁護士になろうと思ったほど大好きです。レミゼラブルの作者、ヴィクトルユゴーさんの、「この世に無知と貧困がある限り、この種の物語は必要であろう」という言葉にも感銘を受け、弁護士として、無知や貧困からひとを遠ざけることができないか、自分なりに頑張っているところです。

さて、レミゼラブルの主人公、ジャンバルジャンさんは、まさに、無知と貧困のど真ん中から、心の強さ、優しさで抜け出し、考える力をフル回転で使って更生し、神様のおそばに召された、この物語の象徴たる人物です。

とはいえね、彼は思い込みが激しいと思うのよね。被害者意識も若干強め。

いっつも気になっている彼の言動を、ちょっと掘り起こさせて欲しいのです。一回突っ込んだらもう大人しくするから。ほんの3点ほど。

① パンを一つ盗んだだけで牢獄に19年入れられたという主張。

 や、それは無理があるのよジャンバルさん!!そもそも、ジャンバルさんはパン屋のガラス戸を叩き割ってパンを一切れ盗んだ窃盗(刑法235条、10年以下の懲役または50万円以下の罰金)等で、5年の懲役刑を課されたの。
 大人しく刑に服してれば、日本だと仮放免の制度があるから、4年くらいで出てこられたかな?ところが、彼は、その後4回刑務所を脱獄してます。フランスのことはわからないけれど、日本には刑務所から逃げた場合に適用される逃走罪(刑法97条、1年以下の懲役)ていうのと、刑務所の鍵とかを壊して逃げる加重逃走罪(刑法98条、3ヶ月以上5年以下の懲役)ていうのがあって、多分彼は加重逃走罪を犯しているよね。

 だから、「牢獄に19年。。。パン!ひとつの!!罪でーー!!」ってすごい理不尽そうに言ってるけど、まあまあ、逃走しちゃってるもんねってなる。

② 仮出獄の許可証を破り捨て生き延びていいのか?

 ミリエル司教からの窃盗は不問に付します。めっちゃ反省してるし。
しかし、彼、直後に仮出獄の許可証破り捨てちゃってる。。。
「公用文書等毀損罪(刑法258条)」ていうのがありまして、仮出獄の許可証(原作では旅券)を毀損すると、3ヶ月以上7年以下の懲役刑です。もう、反省早々だわよ。

③ マリウスのお手紙勝手に見てる!!

 これは普通に気にならない?ラブレターを彼女のお父さんに見られるとか、本当、死にたい・・でも、その後命を助けられるからトントンなんだけど。
「親書開封罪(刑法133条)」というのがあります。1年以下の懲役または20万円以下の罰金。正当な理由がある場合には違法性がなくなることはありますが、まあラブレターはダメでしょう。

や、ジャンバルジャンさん大好きよ。でも、いっつもきになるこの規範意識の鈍麻・・・

とはいえ、根はいい人なの。すごく頑張ったから天国に行けたと思うのよ。尊敬してるし。でも、いつか天国で出会ったら、パンひとつで19年は盛りすぎでしょ?って言ってあげたいと思います。

※当時のフランス法については藤田は全く無知であることを申し添えます。ユゴー先輩すみません!!

◆レ・ミゼラブル2021年公演スケジュール
8月4日(水)~8月28日(土)福岡・博多座
9月6日(月)~9月16日(木)大阪・フェスティバルホール
9月28日(火)~10月4日(月)松本・まつもと市民芸術館

いいなと思ったら応援しよう!