『一匹のモンタージュ』リクリエーション|メンバーインタビュー(本藤美咲)
2023年10月13日(金)〜23日(月)の期間、こまばアゴラ劇場にて上演される『一匹のモンタージュ』リクリエーション。
クリエーションメンバーへのインタビュー記事を連載していきます。
2022年5月に初演された『一匹のモンタージュ』からどのような変化が訪れているのか、それぞれが「作」としてどのように『一匹のモンタージュ』をつくっているのか。その片鱗をインタビューを通して紐解きます。
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今野:本藤さんとは何作か連続でバストリオやってきてるんで、バストリオの現場について感じていることを聞かせてもらえたら。
本藤:はい、まず『ストレンジャーたち/野性の日々』を見て衝撃を受けて、そこからだったので、最初からもうめちゃめちゃ大好きな人たちで。それですごいくらって。でも、くらいすぎた相手ってすぐに近づけなかったんですよ、私当時。
今野:あー、そっかそっか。ちょうどコロナになっちゃったしね。
本藤:それもありましたね。それで止まったのもあったんですけど、そういう好きすぎる人たち、なんかすごくいいことをやってる人にすぐに話しかけに行くみたいなのが当時できなかったんですよね。それで、2年くらい経って初めて今野さんと話す機会があって、みたいな感じだったので、ようやく一緒にできてる、みたいな気持ちが一緒にやる時にはすでにあって。まずこの場に呼んでもらえてること自体がめっちゃ嬉しいみたいな気持ちが前提としてあって。どういう風に作るんだろうみたいなのが、多分バストリオの作品を見たことがある人ってみんな考えると思うんですけど、それを目の当たりにできてて、納得していってるっていう感じが最初ありました。こうやって作ってるからああなるんだみたいな感じで。
今野:こうやって作ってるんだってわかったことって、他の人に説明できんのかな。
本藤:えっと、やっぱ生活の延長だってすごい思って。自分以外の何かを演じるみたいなことじゃなくて、自分のまま、それをこう、取り出していく作業みたいな感じ。なので、不思議と役者じゃないのに舞台上で喋ったりが違和感なくできちゃうみたいなことが、バストリオのマジックだなって。自分のままで表現を何かやるっていうことが、普段の即興演奏の自分のライブと通ずるところはあるんですけど、それを演奏っていう自分の専門以外のところまで飛び出しても、それがそのまんまできるっていうのはすごいなって思ってます。それってこのバストリオの作り方、自分の普段過ごしてる写真だったり日記だったりっていう自分の生活から出てるものでパフォーマンスを作ってるから、そのままやるしかできないっていうか。それがまさにバストリオだなって思ってるところですね。
今野:なるほど。『一匹のモンタージュ』って作品について。他のバストリオの作品との比較じゃなくてもいいですけど、本藤さんがどういうふうにとらえているかを聞かせてください。
本藤:印象としては、まだ上演は始まってないので言葉にするのが難しいんですけど、去年1回やってみたっていう時点では、なんて言うんですかね…本番がすごく面白くて、生きてるって感じがするんですよ。
これは多分、演劇全てだと思うんですけど、基本的に同じことを繰り返し起こすことが演劇っていうのを、確か、佐々木敦さんがおっしゃってて、あーって思った記憶があって。
それって、普段の音楽の私がやってるライブとは全く違う性質のものだから、難しかったんですけど。同じことを起こすために、毎回ちょっとずつの微調整を全員がやってるっていう感じがあって。今日は晴れ、雨とか、日々違う状況の中で毎日やるから、それでも同じような感覚をお客さんにちゃんと手渡せるようにっていう努力をみんながしてるなって思ってて。それを一緒にやりながら見て感じられるから、すごい面白いなって思ったのが『一匹』を去年やった時だったんですよね。だから、もっと続けたいのに終わっちゃうみたいな感じで。あっという間でしたね。
でも、バストリオの作品を初めて見た時でも、初めて『一匹のモンタージュ』で出た時でも、 ある意味同じ感覚で。今、目の前で人間をめっちゃ見てるっていう感覚があって。だから『一匹のモンタージュ』っていうタイトル自体がすごいハマってるなって思うところでもあって。1つ1つの生き物を見てるっていう感覚が、やってても強く思います。
今野:なるほど。今年は『ちちち』という作品も『セザンヌの斜里岳』も一緒にやってるんすけど。他の作品と比べてっていうか、なにか違う感覚ってありますか?
本藤:そうですね。やっている人が違うし、人数も違うし。今まで関わらせてもらった中では1番人数が多い作品だと思うんですよ。なので、自分が影響するパーセンテージみたいなものは、当然やっぱ違うと思うんですけど。だからある意味、なんて言ったらいいんだろうな…、その気負いみたいな部分は1番少ないかもしれないですね。
今野:そっか。背負ってる分。めっちゃ単純にね。
本藤:はい、単純に。まあ、どの作品で一緒にやる人にも、もう全幅の信頼があるので。どの作品でも安心してやっているんですけど、そういう意味で1番安心感がどっしりある作品な気がしてます。
今野:今、『一匹』で一緒に作ってるメンバーと発表を作ったりしていて、なにか印象的なことってありました?
本藤:やっぱり、リクリエーションっていうこと自体も今回初めてやってるわけなんですけど、
今野:うん。いや、俺らもほとんどやんないからね。
本藤:そっか。去年の5月にやって、1年以上経ってて、1人1人の変化もあるし、個人同士の関係性の変化もあって、それが発表作ってて如実に見えてくるっていうか、人と人の距離感が変わっていくのを目の前で見てるっていう感覚があるんで、それがすごい面白いなって思ってます。組み合わせごとにその関係性を見るのが楽しい。
今野:あー、発表を見る側としてもね。
本藤:はい。だから、この瞬間っていうのは難しい。ありすぎるから。これ!っていうのがちょっと難しい。その発表を見せてもらう時の2人とか3人の空気感とかっていうのが、どんどん色濃くなってきてる気がしてそれがすごく印象強くて、面白いなって思ってます。
今野:なるほど。じゃあ、初演の『一匹のモンタージュ』でトライしたことと、今回、リクリエーションの現場で、自分なりに初演と比べて違うトライしてるとか、自分に限ったこととしてなにかありますか?
本藤:個人的には…、最近ずっと喋ってることなんですけど、今野さんに。自分が見せてない部分、外に出してない部分っていうのを、意識して出してないし出そうとも思わなかったみたいな、そんなとこ人に見せようなんて考えもしなかったみたいなことをに目を向けて、あえて見せていくみたいな、こういうところもあるんです、みたいなことをやってみたいって気持ちになってて。それが去年やった時と今の自分の変化として1番大きいと思います。
今野:作る時に徐々にって感じ?最初からもうそういうつもりだった?
本藤:徐々に、ですね。
今野:やっていくうちにって感じか。なんか、どういう部分なんだろ。その、見せないように意識してたっていうか、そんなところ使うとも思ってなかったって。なんとなくでも言葉で言えたりしますか?
本藤:あー、えっと、普段から自分の生活と表現するっていうことが地続きであってほしいって思ってる人間なんですけど…そのくせ生活の部分を案外見せてなかったなってことに気づいて。なんか、その出してるものの方に自分の生活の要素っていうのが、入っていってるから、それを見てもらってるっていう感覚で。一応やっぱり作ってるものだったり、演奏で出たものだけが見せるものっていう頭ができちゃってたなってことに気づいて、 別にその生活自体も見せてもいいんだよなっていう方向に発想が切り替わったっていうのがありますね。
今野:確かに。その話は結構してるもんね。
本藤:ただ、最近の自分にそれをちょっと感じられるようになってきて。自分でも気づかないうちに、うわ、こんなところまで出しちゃってる自分がいるっていうのに気づいて、ちょっと嬉しくなるみたいな、あ、できてる。みたいな感じはすごいあって。それが人に見てもらって面白いもんだと思ってなかったんですよね。案外、こうやって出した時に、あ、面白がってもらえるものなんだなってことに気づいたっていうか。なんか、自分では別にわざわざ取り立てることもないようなものでも、自分が持ってるものっていう時点で、そうじゃない人とかから見たら面白いこととかがあるんだなとかに気づいて。 あ、だったらせっかくだから面白いなら出していこうみたいな気持ちになってきたって感じですね。
今野:めっちゃわかります。可能性に溢れすぎちゃってますよね。
本藤:自分で意識してないところが面白いって言われたら、もうじゃあ、これは?これは?みたいな気持ちになってくるっていうか
今野:そこをどう表現にするか、みたいなところは、今まだその手がないから発明しなきゃいけないよね。
本藤:そうですね。どう出すかのところで、ちゃんと自分の技を作んなきゃいけない、見つけないといけないなっていう。でも新しいことをしてるので楽しいですね。
今野:本藤さんは、いままで音楽を選択してやってきたと思うんですけど、 今バストリオにおいて、その音楽をするってことに関してどう捉えてますか?
本藤:こんなに言葉と音が同列に同じ重さで、こう、同時に同じ場所に置かれる場所ってそんなにないなって思っていて。なので他の人が言っているセリフとかと会話する気持ちで、音を出していってるっていう感覚がすごく強いですね。
例えば、歌の人と一緒に私はサックスで入るとかいう時って、やっぱり歌を1番聞いてほしいっていう気持ちもあるので、それに覆いかぶさることだったり、そういう演奏って絶対しないと思うんですけど、バストリオの中だと別にセリフが聞こえなくなっちゃってもいいみたいな瞬間が訪れるというか、あるんですね。それが面白いなって、普段ならしないかもしれないなって。
今野:それは結構新鮮なことですね。
本藤:そうですね。意識してやらないと引っ込めちゃってる。どうしても後ろに回ろうとしちゃってる自分に気づいて、あ、そうじゃないそうじゃないって、出なきゃっていう感じがありますね。
今野:本藤さんにとって、最初は言葉を発するとかいうことが結構な冒険やったと思うんです。まあまだ緊張する部分があるってのは見てても思うんですけど。その辺の感覚ってどうですか。
本藤:最初は、例えば橋本さんと会話をするってなった時に、ずっと役者さんとしてやってきた人と舞台上で会話をするっていうのが、ちょっとなんかすいませんみたいな気持ちがあって、失礼しますみたいな気持ちがありました。でも、与えてもらった言葉があるし、ちゃんと伝えたいから一生懸命はやるけど、できてるとは思えないみたいな気持ちがあって、やってたんですけど、 最近はそのすいませんの気持ちよりも、ちゃんと伝えなきゃの方がどんどん大きくなってきてるんで、すいませんって思いながらやる方がすいませんだなっていうのはすぐ気づいたんですけど。なのでその気持ちは今は、うーん、もしかしたら、ほとんどなくなってるかもしれないですね。うん、慣れないことをやるんで、どうしても個人的に緊張しちゃうっていうのはあるんですけど、すいませんって思いながらやってるみたいなことは一切ないかもしれない。うん。
今野:じゃあ、場所が変わって、この『一匹』をやるっていうことに対して、今なにか思ってることはありますか?
本藤:そうですね。どうしてもSCOOLでやってる感覚とか、映像とか、頭の中にあって。で、今まだ私はアゴラに1度も行ったことがないので、全く想像ができてないんですけど。でも、リクリエーションっていうぐらいだし、そもそも場所が変わったら絶対にやることが変わるっていうのが、さっき話の中でも出た、環境が変わっても同じ感覚をちゃんと届けなきゃって思うためには、こっちがギアを変えていったりしなきゃいけないっていう作業を丁寧にやりたいなっていう気持ちがすごいあります。
前回は、小屋入り後に全てが納得がいったというか、こういうことかっていうのが。稽古中に言われてたことが全部納得できたというか、ああ、そういうことかってなった感じがあったんで、小屋入り以降はもうずっと楽しいみたいな、いっぱいやりたいみたいな。
今野:そうか、本番の記憶が結局濃くなっちゃうよね。あそこでやっちゃうとね。
本藤:はい、だから、あれ以降は稽古場での感覚の掴み方っていうのも変わりました。どうしても、今は本当の場所じゃないから、ここでできることをこういう風に進めるみたいな、冷静な気持ちでできてるというか。
今野:そうだね。そうしといた方が、そこでやるっていう時に変に自分のそれを曲げなくて済む。
本藤:本番の場所でやる前提で、変わる前提で、稽古場で今ここでやってるっていう気持ちでできるようになったのは結構大きい変化でしたね。これが伝えるべきこと、みたいな自分の持ってる、1番最初に持ってた感覚っていうやつさえどっしりしてれば他をどんなふうに変えても、いい意味でどうでもよくなる。これを残すためにいろんな変更を加えていくっていうのを前向きにできると思うんですよね。うん、初めて『一匹』の稽古をしてる時、毎回稽古場が変わるじゃないですか。だから発表を作ってた期間すごい楽しかったんですけど、いざ作品の稽古に入った瞬間すごいしんどかったんですよ。
今野:わかるわかる。みんなそう言うんだよ。
本藤:できない!どうしよう、みたいな。でも、あとあと冷静に思うと、場所が変わってるから毎回同じようにできないっていう当たり前のことが起きてて、そこがなんで毎回同じようにできないんだろうって焦っちゃってたから、苦しかったんですけど。 どういうことが起きてるっていうのが、今は冷静に現象として見れるようになってるので、冷静にできそうだなって思ってるんですけど。
今野:なんとなく1回保存されちゃうみたいな形になってわかんなくなっちゃうんだよね。
本藤:そうなんですよ。昨日できたあれが今日できない。どうしようって焦って、自分はできないままどんどん流れていっちゃうみたいな。
今野:それ、多分1回本番やってないと結構なると思うんですよね。だから本藤さんと1回本番の経験をできたっていうのは大きいですね。
本藤:はい。1回やったっていうので、もうその感覚を自分の体の中に持ってできるんで。本番中になんでもっと早く気づかなかったんだろうってこといっぱいあって。だからもっと長くやりたかったんです。あー、これがわかってたらもっとこうできたなみたいなことが、毎日発見が出てくるみたいな、
今野:うん、でもむずかしいですよね、それを稽古だけで最初に掴むのは。
では最後に来てくれる方へのメッセージみたいな、今回『一匹のモンタージュ』を見に来てくれる方に一言。
本藤:えっと、たくさん情報を浴びせられると思うんですよ。で、それを、なんだろう、 全部追わなきゃとは思わずに、私たちも私たちのままその場にいるので、なんかお客さんももうその人のままでいてもらって、ただただ眺めてもらって、素直に残ったものを持って帰ってもらうみたいな見方をしてもらえたらいいのかなって思ってて。どう見てくださいっていうのも、特にお願いしたいこととかはないっちゃないんですけど、そうですね…こういうふうにしなきゃいけないのかなみたいなことがよぎったら、もうそれはその場で即捨てながら見ていってほしいっていうか。こうしなきゃいけない、は何もないので好きに見てほしいです。
(編集:坂藤加菜)
場所提供:なってるハウス
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