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『Holy cow/わたしたちは一度しかない』self-introduction/represent|中條玲

『Holy cow/わたしたちは一度しかない』のクリエイションでは、参加メンバーそれぞれが縁のある(あるいはない)土地についてのテキストを書くことからシーンを立ち上げている時間もあります。ある土地について語るということはどういうことなのか。

ある場所に流れた時間は歴史として、ある場所に降り積もった言葉は文化として、わたしたちの身体に流れ込みます。「沈黙」と共に雄弁になったその身体、発露することでしか混ざり合わない個の姿。黙ってることなどできなくなったわたしたちは、名付けようもないたったひとつの生命(いのち)として、一度だけのこれを握って立っていた。

出演者自身の執筆による自己紹介と、それぞれの土地に関するテキストの抜粋をお届けすることから、本作を立ち上げる"わたしたち"について紹介します。


中條玲

self-introduction

こんにちは、中條玲です。ちゅうじょうれい、と読みます。京都の道は〇〇条通りと名前がついていて、漢字は違うけど道の延長にいる自分として度々呼ばれた気持ちになりますね。

1999年に長崎で生まれました。この年は世界が終わるかもと予言されていた年で、太田省吾さんが京都造形芸術大学を立ち上げた年でもあるそうです。自分が生まれた年に何かを始めた人がいて、今そのことに向き合ってるんは変な気持ちです。太田さんにはもちろん会ったことありませんし、人づてに聞いた背の高さや無口だった様子、文字を書いていた手などのパーツを想像するだけで精一杯です。あとは太田さんが書き残した本が唯一の頼り。

18歳の時に上京して文学部に入り、演劇学を勉強していました。演劇のことは全く知らないまま始めたけれど少しずつ興味をもって今はもう7年くらい携わっています。普段は出演したり、制作業務をやったり劇場で働いたりしていて、作品やアーティストがいかにして観客と出会うかということを考えています。

そういえば、今回の公演の準備で京都に度々赴いている中で、小さいとき父親が単身赴任で京都に住んでいたこと、度々旅行で遊びに来ていたことを道を歩きながら思い出したりしました。まっすぐ交差する道はそういういろんな人の視線や記憶が交わっていることを感じます、東京よりも。そういうことを今回は感じながら作っているような気がしますね。

バストリオの作品は開かれています。今回いろんな人に会って活動を説明している今野さんや橋本さんを見ながら、言葉にすることが難しいというのはまさしくそうだなと思っています。けど、京都のカルチャーや風土、もっと広く言ったらベースに流れて共有している時間や関心ととても親和性があるような気持ちが確信になったのも事実です。内容はわからなくてもいい、けどわたしたちとあなた(たち)の話です。その辺の路地に流れている、その辺の飲み屋に流れている、その辺の河原に流れている時間を、そのまま舞台の上に流し込みたい。それは退屈というよりも、もっと濃密で、わたしたちが言葉を交わすための時間です。そのつながりと交換に出会ってほしいし、出会いたいと思っています。

ぼくはごはんも作ります。ごはんを作ることと、舞台を見ることはぼくの中ですごくつながっていて、それは街と劇場/舞台がつながっていることと一緒で、そうやって当たり前のことを重ねていくことで奇跡がおきます、きっと、しかも一度だけ。

鴨川の河原に座って反対側を眺めていると、自分の足元で草が揺れていて、近くの水には魚が泳いでるんが見える、中洲には鳥たちが集まっていて喧嘩したり遊んだり眠ったり遠くまで飛んでったりする、向こう岸にはレジャーシートを広げて昼寝をしたり、手を繋いで歩く人たちが見える。線で区切っても区切れなくつながっていて、同時に何かが起こっている豊かさと、バストリオの作品で起きる時間の豊かさはほとんど同じです、多分。川を見に来るみたいに、京都芸術センターに来てくれたら嬉しいです。


represent

やっぱり一番最初に思い出すことは、実家、マンションから外に出て、小学校に行くときも、中学校に行くときも、高校に行くときも、スイミングに行くときも、遊びに行くときも必ず坂道を下ることになって、その途中で見える、反対側の山や街が全て見えるあの景色のこと。長崎は坂がとても多くて、盆地ではないけど街と呼ばれる場所は低い位置にできている。坂に家々が並んでいて、とにかく広く見渡せることが他の都道府県ではあまりないと知ったのは、稲佐山が世界三大夜景の一箇所になっているという話を聞いてからだった。モナコと上海と長崎。別に稲佐山に上らなくても、家を出てすぐから見える向こう側の坂の途中の街並みのことを今でもよく思い出せるし、同じような写真を何枚も撮った。

長崎を離れてから、風景の一つひとつが自分に染み付いていることを知った。自転車に乗れないまま大人になったこともそう、今は乗れるようになってしまったけど。プールにずっと入っていたから塩素の匂いがすると思い出している気がする。2011年、こちらは全く揺れなかったし、津波が到達して街が壊れていくのはテレビの向こう側での出来事だった。いまでもずっとそのことが心の裏側をざらざらとさせているし、上京してから割とすぐ熊本が大きく揺れて、行くかもしれなかった大阪でも大きな地震があった。
八月になるとどうしても頭を支配されて、何かにつけて思い出してしまう。東京ではサイレンが鳴らないことを知った。別に悲しくはなかった。目を瞑っているあいだ、他の人が目を瞑っているかどうかはわからない。


公演情報

KACパートナーシップ・プログラム2024
バストリオ『Holy cow/わたしたちは一度しかない』

◾️クレジット
演出|今野裕一郎
出演|黒木麻衣、坂藤加菜、佐藤駿、スカンク/SKANK、中條玲、橋本和加子、本藤美咲
音楽|高良真剣

◾️会場 京都芸術センター フリースペース

◾️タイムテーブル
11月2日(土)19:30~★倉田翠さん(akakilike)
11月3日(日)13:00~
11月3日(日)17:00~★出演者と今野裕一郎
11月4日(月・祝)13:00~★八角聡仁さん(批評家)
★=アフタートーク

◾️チケット
​一般|予約 3,000円 当日券 3,500円
大学生以下|予約 2,500円 当日券 3,000円
14歳以下無料

◾️ご予約 https://holycow-kyoto.peatix.com/

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