【概要まとめ】監査役の職務内容
1 監査役の役割
(1)監査役の職務
取締役の職務の執行を監査し、監査報告を作成する。
※監査=職務執行が適正に行われているかを調査し、必要な場合にはこれを是正すること。
(2)監査役の権限と義務
監査役はその職務の遂行に当たり善管注意義務を負うがその他にも具体的に職務遂行について、下記のような義務や権限を有する。
【義務】
①取締役会出席・意見陳述
②計算書類・事業報告・附属明細書の監査
③監査報告作成
④株主総会提出議案・書類の調査
(該当する場合)
⑤会社に著しい損害を及ぼす事実に関する取締役による報告の聴取
⑥取締役の不正行為等の取締役会報告
⑦株主総会における質問への説明(調査結果に指摘事項ある場合の報告)
⑧取締役・会社間の訴訟等で会社を代表する
【権限】
①会社業務財産調査
②子会社調査
③取締役の行為差止請求
④取締役会招集請求
⑤監査費用請求
⑥監査役の選任・解任・辞任・報酬に関する株主総会意見陳述
2 監査役の業務遂行
監査役の業務の流れは、大まかに述べると①監査計画書を作成し、当該計画を基礎にして、②期中監査を行い、③期末監査を行って監査報告書を作成し監査結果を通知する。また、④定時株主総会における監査役の対応も発生する。
(1)監査計画
実際の監査の開始に先立ち監査計画書を作成するのが通例です。
監査計画は、一般に以下の内容で構成されます。
①基本方針
会社の経営方針、経営環境、 監査環境や時代のニーズ などを考慮して決定する。
②重点監査項目
特に注力して監査すべき事項を、例えば、次のような項目の状況を考慮して決定する。
・経営方針や経営計画などの遂行状況
・経営上又は事業運営上のリスクのうち 会社に著しい損害を及ぼす事実の発生を未然に防止するための内部統制システムの構築や整備の状況
・リスク管理体制や コンプライアンス体制の整備状況など 内部統制システムの中でもリスクが大きいと想定される項目
・財務監査上のKAM(Key Audit Matters)…会計監査人がいる場合は意見交換を行う
③監査役間の職務の分担
④監査計画、年間スケジュール
なお、監査計画を策定した場合には、効率的かつ有効な監査の実施のために、代表取締役に説明して取締役会で報告することで理解を求め監査環境の整備に努めることや、また、内部監査室や会計監査人との連携や調整を図ることが重要となる。
(2)期中監査
期中監査とは、年間の監査活動のうち、決算監査と株主総会監査を除いた日常的な監査活動をいう。
【期中監査の実施に当たって】
期中監査は、期末監査における監査報告書作成にあたっての重要な根拠・過程になるので、以下の行為を随時行っておくべきである。
①監査報告書記載事項の確認
②監査調書の作成
【業務監査】
①取締役会、その他重要会議(例:経営会議、リスク管理委員会、コンプライアンス委員会、内部統制委員会等)への出席
取締役会において注視しておくべきポイントは、例えば以下である。
‐取締役会の招集手続きは適正か
‐付議事項は適正か
‐議事進行は適正か
‐意思決定は経営判断の原則に照らして適正か
‐特別利害関係取締役が決議に参加していないか
‐定時取締役会において各取締役が自己の職務の状況を報告しているか
‐議事録の内容は、取締役会の内容と齟齬がないか、また署名/記名押印はされているか
②取締役会の議事運営等重要事項の監査
取締役会に出席し、また事前事後の手続きや資料(議事録、招集通知等)を確認する等を通じて、上記した取締役会のポイント等について監査をする。
③主要な稟議書及び契約書の閲覧
監査役監査基準:監査役は、主要な稟議書その他業務執行に関する重要書類を閲覧し、必要があれば、説明を求め、意見を述べる。
閲覧のタイミングや方法について、予め会社と協議してルール化しておくとよい。
④取締役の競業取引、利益相反取引等の監査
以下の取引は会社法違反に直結するので、問題意識をもって情報収集し確認することが好ましい。
‐利益相反取引、競業取引
‐無償の利益供与
‐通例ではない取引、関連当事者取引
⑤内部統制システムの整備、運用状況の監査
組織図や規程の確認、リスク管理委員会やコンプライアンス委員会への出席等を通じて、内部統制システムの状況を監査する。内部統制システムは以下の内容で構成されるので、この点に注視する。
‐取締役の職務執行に係る情報の保存や管理に関する体制
‐損失の危険の管理に関する規程のその他の体制
‐取締役の職務執行が効率的に行われることを確保するための体制
‐使用人の職務執行が法令・定款等に適合することを確保するための体制
‐企業集団における業務の適正を確保するための体制
‐監査役監査が実効的に行われることを確保するための体制
⑥事業部門、事業所、子会社等の監査
各事業体が適正に業務執行を行うことを監査する。監査に当たっては、予め監査計画を立て、事前に被監査部門責任者に時期等を通知し、また具体的なプランを固めておくといったことを行い、被監査部門に過度な負担をかけずかつ実効的な監査となることを心がける。
監査項目は、例えば以下のような内容が考えられる。
‐業績推移と対処すべき課題等
‐重点監査項目についての確認、検証
‐資産関連では、棚卸資産、設備、契約書類等の管理状況等
‐他にも、クレーム、訴訟、法定備置書類、労務管理等
なお、個別の問題が懸念される場合には、子会社調査権(会社法381条③)を行使することも検討しなければならない。
(⑦金商法、証券取引所規則対応の整備、運用状況の確認…上場企業の場合)
【会計監査】
⑦期中における会計監査
会計監査は最終的な期末監査が重要であるが、期中において何もしなくてよいわけではない。期中においても、しておくべき内容について以下に記載する。
‐重要な会議に出席し、月次決算の状況等を把握する。平常月と比して大きな変化(※)があった場合にはその原因把握に努める。
※大きな受注・売上、大きな支出、M&Aや大規模投資、その他イレギュラーな対応 等
‐会計監査人や内部監査室とのコミュニケーション
‐四半期決算や中間決算の確認
(3)期末監査
期中監査や日常の監査活動、年次の事業報告・計算書等を確認し最終的に監査役の監査報告書として取りまとめて会社に提出しなければならない。
【期末監査の前に】
①会計基準等の確認(改正の有無含む)
②定時株主総会までの日程・スケジュールの確認
③会計方針、会計処理方法の説明聴取
【監査の実施】
①立会監査(期末棚卸、有価証券、設備等資産の監査)
(ア)期末棚卸:棚卸が適切に行われているかを目視して検証する。注意点は例えば下記
‐倉庫内で商品が整然と定められた配列で管理されているか
‐棚卸実施表が作成され、役割分担が明らかで適正に運用されているか
‐カウントミスがないか
‐不良品等が適切な処置を取られているか
‐預り品、簿外品等の管理状況は適正か。
(イ)有価証券
(ウ)設備等資産
②計算書類、事業報告等の受領
③事業報告等の監査
事業報告については、下記のような点に注意して監査しなければならない。
‐事業報告の内容・数字が、計算書類等と一致しているか
‐事業の経過や結果、対応すべき課題等について会社の状況を正しく示しているか
‐法定記載事項を網羅しているか
④会計監査
‐会計監査人がいる場合には、監査役は、会計監査人の「監査の方法及び結果」が相当であるかという点について意見を表明しなければならない。
‐会計監査人の相当性については、会計監査人の適格性、監査の方法(計画の妥当性、実施状況等)といった点に着目する。
⑤内部統制システムの監査
着目すべきポイントは、期中監査の際に記載したとおり。
【監査報告書の作成】
①意義
監査役は、取締役の職務執行が適正に行われていたか等について、期末に監査結果を取りまとめ株主に報告しなければならない。
②記載内容
(事業報告)
‐監査の方法及びその内容
‐事業報告とその付属明細書が法令・定款に従い、会社の状況を正しく示しているか
‐取締役の職務執行において不正や法令・定款に違反する重大な事実がなかったか
‐内部統制システムについて、その内容が相当でないと認める場合は、その旨と理由
(計算書類)
‐監査の方法及びその内容
‐会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときは、その旨とその理由
‐重要な後発事象
‐会計監査人の職務遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項
③作成にあたっての留意点
日本監査役協会からFMTが出ているので、それをベースにすると良い。
ちゃんと監査できる/したことが前提なので、期中監査や日常の監査を疎かにしない。
④通知期限
事業報告を受領した日から4週間を経過した日、またその付属明細書を受領した日から1週間を経過した日のいずれか遅い方。
参考文献
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