法務担当のための商標対応の流れ
前回は下記の記事で商標に関する基礎知識をまとめましたので、今回は当該基礎知識をもって実際にどのように業務を進めていくのかという点を扱います。
事業部にてこのような商品・サービスをこんな名称で始めようとするというところから法務担当における商標出願の検討が始まります。具体的にどのようなことをするのかという点を以下で説明していきます。
なお、下記の記事は文字商標を前提としています。
1 商標登録可否の見通し調査
⑴ 申請すべき区分・分類の検討
①名称とサービス内容の把握
商標は、当該商品・役務のブランドですので、まずは、申請を検討している名称と役務(サービス)の内容を把握することが第一歩となります。
この際に、現状のサービス内容だけでなく今後の展開についての考えについても確認し把握しておかなければいけません。商標登録は先願主義ですので、他社に取得されると当該標章を使えなくなってしまいます。
②取得すべき区分・分類の特定
サービスの名称と内容をきちんと把握しましたら、把握したサービスの内容から取得すべき区分・分類を特定します。
∵商標登録をする際には、その商標をどのような商品・サービスについて使用するのかを指定して申請しなければなりません。指定された商品・サービスの分類が「類似商品・役務審査基準〔国際分類対応〕」の区分に則った内容にしなければなりません。
商標登録をする際に区分やその区分内で指定する商品・サービスの内容が間違っていると登録自体が実質的に無駄なものになってしまいます。
一般的にどのような分類を検討するとよいでしょうか。cotoboxというサイトで紹介している記事が参考になりますので一部を下記いたします。
・オンラインビジネス・クラウドサービス…おすすめ区分候補:42
・WEB受託開発(サイトやソフトなど)…おすすめ区分候補:42
・アプリ開発…おすすめ区分候補:9(アプリそのもの)、42(オンラインでの提供サービス)
備考:アプリの内容によって選択する項目が変わる場合がある。
・コンテンツ事業…おすすめ区分候補:35
・SNSアプリ…おすすめ区分候補:9, 35, 42など
備考:単にSNSを活用した活動をしている方は該当しない
・ECサイト名や小売店など(店の名前)…おすすめの区分候補:35類。
備考:何を販売するかによって選択する項目が大きく変わる。
・経営コンサル(企業向け)…おすすめ区分候補:35
・教育、教室、コンサル(一般向け)、セミナー等…おすすめ区分候補41
・不動産業…おすすめ区分候補:36(関連キーワード:建物)
・プロモーション・デザイン関係…おすすめ区分候補:35,42
⑵ 同一商標・類似商標がないかの調査
登録したい商標のについて同一・類似の商標がすでに取得されていましたら、自社で登録できないだけでなく、それを使ってしまった場合に商標権侵害として差止請求や損害賠償請求をされかねません。
そのため、この点が法務担当の商標業務の中で最も重要な部分といっても過言でありません。
①同一の登録商標が既にないかの確認
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の商標検索機能を使って取得しようとしている称呼を入力して検索しましょう。同一の称呼で登録したい分類が既に登録されていないか確認します。同一のものが出てきた場合、間違いなく登録を拒絶されるので、違う名称を検討することになる。
②類似の登録商標が既にないか調査する
同一の登録商標がないとしても、類似の商標があれば登録できません。そのため、今度は類似商標の有無がないかをチェックすることになります。具体的には以下の方法で私は検討しております。
(ア)J-PlatPatで検索する
上記の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で似た称呼を数パターン入れて、登録したい分類のものがヒットするか確認します。
この際に試すパターンは、特許庁「商標審査基準(改訂15版)」の
「十 第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)
・3.外観、称呼、観念の類否について
・(2) 称呼の類否について」
の中で記載されているパターンを参考にして元の名称を1~2文字変えています。
(イ)評価ツールを利用する
私は、上記に加えCotobox(https://cotobox.com/)でのAIによる簡易評価も確認しています。感覚的には厳しめに評価される印象があるので、上記(ア)の結果類似商標がHITせず、Cotoboxの評価が〇であればまず大丈夫だろうと考えて言います。
(ウ)弁理士に依頼する。
類似商標の調査は悩ましい場合が少なくありません。やはり餅は餅屋なので弁理士依頼をお勧めします。もっとも妄信するのではなく、上記ア・イの結果と対照し、乖離がある場合は弁理士さんに質問して当該意見になった背景を明らかにしましょう。
2 出願・登録
調査の結果、商標取得の見通しが立てば、今度は出願→登録のフェーズに移行します。
⑴ 出願
①出願登録願の作成
特許庁の書式を使い、当該書式に名称と指定役務の内容、出願人の情報を記載し、出願登録願いを作成します。
登録願の書式は独立行政法人工業所有権情報・研修館のサイトより取得できます。
また、登録願の書き方は、独立行政法人工業所有権情報・研修館「商標登録出願書類の書き方ガイド」に則ります。
②特許印紙の貼付及び特許庁への提出
登録願の書類ができたら、当該書類に手数料相当額(※1)の特許印紙(※2)を登録出願願に貼付し、特許庁長官に提出します。「〒100-8915 東京都千代田区霞が関3丁目4番3号 特許庁長官 殿」宛に簡易書留又は特定記録郵便で郵送しましょう。
※1 手数料=3,400円+(区分の数×8,600円)+電子化手数料(2,400円+(1枚×800円))
※2 収入印紙ではない点注意しましょう。特許庁又は全国の集配可能な郵便局で購入可能
③上記は書面での提出をする場合になります。特許庁指定のソフトをDLし電子証明書で登録することで上記の手続きをオンラインで行えます。書式はオンラインも紙も同じで、手数料の納付も特許印紙でなくてよくなりますので、こちらの方が便利です。
オンライン出願するための詳細は特許庁のサポートサイトで説明されています。
⑵ 登録
出願した後、特許庁が実体審査を行い登録可と判断すると、特許庁から登録査定書が届きます。登録査定の送達後30日以内に登録料を納付すれば、当該商標が登録できます。
①納付書の作成
納付書に必要事項を記入して作成します。
書式は独立行政法人工業所有権情報・研修館のサイトより取得できます。
②特許印紙の貼付及び特許庁への提出
納付書の記載が終わったら特許印紙(※)を貼付し、「〒100-8915 東京都千代田区霞が関3丁目4番3号 特許庁長官 殿」宛に簡易書留又は特定記録郵便で郵送する方法で提出する。こちらも出願同様、オンラインで行うことが可能です。
※10年分を一括して納付する全額納付の場合、区分数×32,900円
(参考)出願・登録を自分で行うか、弁理士に依頼するか
アウトソースに適切なケースは以下の3つに大別されると考えています。
・量的に内部対応が困難である場合
・質的に内部対応が困難である場合
・アウトソースによるコストメリットが大きい場合
そのため、基本的には出願をお願いするのは以下の2つがよいかと考えております。
①繁忙期に多くの依頼が来て部内だけで処理する手数が足りない
②調査の結果意見書又は補正書の作成が発生する可能性が高い
3 更新
無事登録をできたらそこで終わりではありません。商標の有効期間は10年なので少なくとも10年毎には更新が必要になります。
更新を忘れると商標権を失ってしまうところ、アラート立ての手段として、支払期限を通知する「特許(登録)料支払期限通知サービス(専用サイト)」を利用しましょう。
なお、更新に係る費用は、区分数×43,600円+電子化手数料(2,400円+(1枚×800円))になります。
4 商標の管理
また、特許庁との手続きではありませんが、社内での対応として商標の状況を管理しておく必要があります。会社の資産でありますので、きちんと一元管理をしておきましょう。
5 参考文献
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