concrete epic 1-4
輪ゴムを奥歯で噛み締めると幼少期の記憶が脳髄の奥から湧き出てくるという都市伝説を近所の駄菓子屋のババアが死の間際に言い残した遺言から知りおまえは親知らずの抜歯中に起きた不慮の事故によって失われてしまった30年間の家族との大切な思い出を取り戻すために100円ショップへと急いだここから一番近くにある100円ショップは久我山の駅前だから今から電車に乗れば2時間半で着くだろうつまり一旦気持ちを落ち着けるためにその辺のドトールで一服して終電に乗れば安心ってことだフィルター付近まで吸い切ったキャスターを放り出したばかりの野糞で揉み消しおまえは筑波山を下山するために衣服を纏ったしかし明日は出勤できないだろうから養豚場のおやっさんにはバイト休むことを連絡しとかなきゃな1日だけでもあの可愛い豚達の顔を拝めないのは寂しいものだ餌とクソ塗れのだらしない口にキス出来ないとはなんと悲しいことだろうしかし失った記憶を取り戻さなければならない家族はいまどこにいるのだろう嫁は?息子は?両親は?おまえは歯の神経とともに脳の一部分の神経も抜かれてしまったために何も思い出すことは出来ない代わりに思い出されるのはその悪徳歯医者が薬でおまえの体の自由を奪いアナルを散々犯したことだけだ今でもその後遺症でおまえのアナルは発情したニホンザルのように紅く膨れあがっている何も手掛かりが無い中でそもそも家族なんていたのだろうかとおまえは失った記憶自体を疑い疲れ果ててしまったので元々家族なんていなかったのだと自身に言い聞かせかつての趣味だった(はずの)パチンコで全てを忘れようとしたこともあったしかし開店前のパチンコ屋で整列しながらスポーツ新聞を読んでいた時におまえは気付いてしまったなんと文字が読めなくなっているのだ新聞に書いてある内容が一文字も分からない文字だけじゃない数字も理解出来なくなっているこれではどの台が4パチか1パチなのか判別出来ないし今手持ちがいくらあるのかも分からない!おまえは激しく怒り狂った歯医者にでは無いこの世の不条理にでも無い右手でパチンコを打ちながら空いている左手で海物語のマリンちゃんと真昼に館山の防波堤でファックすることを夢想してシコることが出来ないからだおまえは人生の生き甲斐すら奪われてしまったのだおまえは列を外れて叫びながらパチンコ屋の自動ドアを蹴破ったその時飛び散ったガラスの破片が運悪くおまえの左目に突き刺さりその後も暴れて救助を拒んだため失明してしまったおまえは義眼をこしらえる金もなかったし保険にも加入していなかったので病院を夜中に抜け出し家に帰宅して萎んだ左目を自分で引き抜きゴミ箱から取り出したアルミホイルを適当な大きさに丸めてボンドでコーティングしたものをはめ込んだ洗面台の鏡で自分の顔を眺めてみると片目に小宇宙が住み着いたようにキラキラと輝いているなんてキレイな目だろう義眼の中からカサカサと音がするラザニアを作り置きしたときのアルミホイルを丸めたからそのときにゴキブリも一緒に包んでしまったのだろう人生てのは不確定要素ばかりだおまえは布団の上に仰向けになって小宇宙の暗闇の中で死んでゆく小虫の足掻きに耳をすましているとおまえがまだ小さかった頃継母がよく読み聞かせてくれたエドガーアランポーの最晩年作『ユリイカ』で論じられていた物質的宇宙と精神的宇宙の単一性について小三の夏休みの作文で発表したら先生に殴られたのを思い出した「みんな自分以外の宇宙には興味無いんだなぁ」窓の外には春の訪れを告げるようにカラスの大群が吉祥寺に降り立つ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?