1-11 concrete epic
おまえは風邪をこじらせ調布の心身会脳神経外科に5年ほど入院しているが毎週日曜日には外出許可を取りミリタリー柄のセットアップスーツにゴールドのネックレスを首から下げ下北沢駅北口で一日中ナンパをするのが何よりの楽しみだ頬はアバタだらけで鼻は水で膨らましたコンドームのようにもったりしているが高級なサングラスや髪のセットでうまく誤魔化しているし目の悪そうな女をターゲットにするので毎回なかなかの釣果である今日は前髪パッツンで二十半ばのいかにも下北沢にいそうな古着で着飾った女の子に声をかけパブで三杯ほどビールを飲んだ後ホテルへ向かったセックスを終えリラックスしたムードでふざけあい笑いあい女が甘えた声で暖を求める猫のようにおまえの懐に潜り込んできたのをきっかけに2回戦に突入した「こいつぁこれからも良い関係で続けていけそうだな」あっという間に濃厚な休憩時間は終わりあとはホテル代を割り勘などと言わずにカッコよく支払い連絡先を交換すれば今日はめでたしめでたしさしかしおまえにとって問題はここからだなんたって財布には1950円しか入ってないのだ「ここで女に金を借りるなんてカッコ悪い事できるはずがないカッコ悪い事するくらいなら死ぬか相手をやっちまったほうがマシだ」おまえは化粧台で髪をセットし直している女の後頭部をガラス製の灰皿で殴った女は何が起きたのか分からず後頭部に両手を当てストローの袋に水滴を垂らしたときのようにじんわりと静かに体を丸め化粧台にふさぎ込んだおまえは後頭部を覆った手ごと再度灰皿で殴ると女は手の痛みで(恐らく何本か折れている)一瞬手を離したが後頭部にまた一撃くだされまた後頭部を手でガードした殴り続けるとセックスの時とは違うなんとも言えないかすれ声で何か言っていたが10発目くらいで事切れた「死体をなんとかしなきゃ」おまえはシャワールームまで死体を運び携帯用ナイフで血抜きしシャワーヘッドで殴りながら大まかに関節を砕きなるべく死体をコンパクトにしてベッドシーツで包むと背中に縛りつけホテルを退出し携帯電話で母親に電話したおまえの母親は今年で75歳と高齢だが気持ちはとても若く最近ビリーアイリッシュに影響され髪を緑に染めたが元の髪型がきつめのソバージュのため巨大なブロッコリーが歩いているように見えなおかつ若い頃アメリカ放浪中にヌーディズムに感化され現在でも腰布一枚で生活していることから近隣の子供には『妖怪ブロッコリーババア』の愛称で親しまれている母親は路上で違法に肉屋を営んでおり50年前にこの商売を始めた頃「売っている品は全てビニール詰めされたミンチで日によって種類も味も変わり何の肉なのかは一切説明がなく無許可営業だが格安で食肉を販売している路傍の全裸女」という紹介記事がネットニュースで話題となり『謎肉』はその年の流行語となりカップラーメンにもなった息子のおまえは肉の原料が産婦人科のゴミ捨て場で集めた堕胎児や親がサジを投げた問題児や不登校児や殺処分されたペットショップの犬猫だと知っていたので女の死体も謎肉として処理してもらおうと考えたのだ「おかけになった電話番号は現在使用されておりません」おかしいぞついにポリに捕まったのかもしれないおまえは京王線に乗って実家の千歳烏山へ帰った駅を降りて北口へ向かいそこから50キロほど歩いたところにおまえの実家はあるかれこれ15年ぶりの帰宅なので街並みはかなり変わっており特に実家付近は先の世界大戦によって地形ごと変わっていたのでなにもわからず困惑きていると顔なじみの近隣住民がおまえに声をかけた「おまえの母親は3年前に代官山へ引っ越したよ」そんなこと全く知らないことだった月に一回必ず送ってきてくれる手紙にもそんなことは一度も記載されてなかったなんてこった肉屋はまだ続けているのだろうか頼みの綱を失いおまえは駅周辺まで戻りゴミ捨て場に落ちていた段ボールと100均で購入したガムテープで死体を梱包し佐川急便の営業所で国会議事堂へ送りつけた3年後おまえは未だに週末のナンパを欠かさないが今日は45年ぶりの大寒波で人がいなかったため女はゲットできなかったので京王線のホームで10時間ほど座って過ごした忘年会シーズンなので深夜になると泥酔してホームで潰れている女の子が多いのでおまえは介抱するふりをしてこっそりと近づき女の子たちのブーツを脱がせて持ち帰り臭いを嗅ぎながらオナニーするのが何よりの楽しみなのだ使い終わったブーツは中にモルタルを流し込み固めてオブジェとして病室の窓際に飾っている。
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