【上を向いて歩こう】
「ほな、焼くで。最初は安くっていいねん。やっすい肉焼いて出汁がわりにするんや。」
「へぇ、タイタンさんすごいっすね。初耳です。」
「そやで。スキヤキ焼くならおいしい方がええよな。ジュッとな。最初のは安いのでええ。安くても肉は肉や、ええ味がでるんや。なんの肉かしらんけど。」
「えっ?」
「まあええがな。市場で朝買うてきたんや。ほら、ええ匂いしたるがな。音楽流そか。上を向いて歩こうでも流そか。スキヤキといえばこれやんな。」
「こっからやで、こっからや。美味い肉を軽く焼いて砂糖に醤油や。」
「タイタンさん、霜降りじゃないですか!うまそう!」
「そや、市場で買うてきたんや。和牛や。なあ、あるさん、和牛やで。ほら。みてみい。こいつを、こうするんやっ!」
「うまそうっす!」
「だからうまいって!和牛やど!市場で朝買うてきたんや!美味いに決まってるがな!」
「和牛なんて久しぶりだなぁ!きぶんが盛り上がってきますね!」
「その気持ちを詩的にあらわしてくれへんかな。タイタンこう見えて実は繊細な世界が好きなんやな。」
「無茶振りっすか?」
「ちゃうねん。無茶振りとちゃうねん。タイタンって繊細で美しい表現を愛する傾向あんねん。」
「それ無茶振りっていうんですよ。スキヤキですよ?詩的なスキヤキってなんですか。」
「タイタン聞きたいなあ。詩的なスキヤキ聞きたいなあ。」
「和牛が鉄鍋の上で身を屈めるように。寒いのかい、じゃあ僕が割り下を入れて温めてあげるよ。」
「うー、いまいち!タイタン美しいものには妥協できへんのよね。もう一回!」
「めんどくさ、この絡み!あ、タイタンさんお酒!次なに飲みますか?」
「そうやなあ、肉に合わせて少しだけワイルドにバーボン行こっかな!あるさんもハイボールでええか?」
「はい、ハイボール!」
「おもろないなあ。こう見えてもタイタン笑いには厳しいねんで。ほら、できたで。」
「ありがとうございます。いただきます。ぶはっ!なんだこれ!」
「バーボンやで。こないだスーパーで安かったんや。アーリータイムズ。」
「いやいやいや、タイタンさん!これリステリン オリジナルですよ!ウイスキーじゃありませんって!確かに似てますしアルコールもガッツリですけどね!アーリータイムズはこれです!」
「ほんまや、よう見たら違う酒やがな。まあええわ。マグロもあんねん。食べてって。」
「わあ、刺身もあるンスか!うまそう!あれ、マグロですよね。赤くない。なんか水っぽくて味があんまない。いや、不味くはないんですけどね、なんか違う。」
「マグロやで。美味しそうな名前やったんや。タイタンね、これあるさん喜ぶかなー思って買ったんや。これこれ、パッケージ。」
「磯マグロ?なんすかこれ。調べてみます。あ、似てるけどマグロではないみたいですね。でも結構いけます!」
「ショックやなぁ。タイタンあるさん喜ばせよう思ってさ、なんか磯って名前つくと一味違う感じするやんか。磯のりとかなんか磯料理的な美味しそうなイメージあるやん。」
「まあ、そんなイメージありますよね。磯料理か。磯の香りとか美味しそうですよね。」
「磯まんじゅう。」
「なんですか、それ。」
「風月堂のお菓子やで。じゃあ磯めぐりは?」
「それは三幸製菓のおかきでしょう。知ってますよ。」
「そうか。じゃあこれはどうなんや。磯把瑠都。」
「磯把瑠都?ひびきが磯マグロっぽいですけど把瑠都は磯にいませんよ!把瑠都磯にいたら未知の巨大魚ですよ!即スポニチのりますよ!だから磯把瑠都なんてありません!なんかおかしいですよ、タイタンさん!口調とかノリが!」
「おどれ、なに言うとんねん!いかに繊細なタイタンもそんなん言われたらフィヨルド!」
「タイタンさん!フィヨルドじゃなくてオコルド!でしょう!確かに把瑠都の出身地は北欧ですけど多分フィヨルドは有名じゃないですよ!」
「北欧!欧米かっ!」
「えっ?」
「エストニア!欧米か!」
「やっぱり!おかしいと思った!正体を見せろ!ほら!クリオネじゃないか!」
「くっ、わたしとしたことが。無念。」
「タイタンさんはどこだっ!」
「それは、言えない。」
「くそ!」
「そう、正解。トイレよ。もう何時間も出てこないの。」
「よし、タイタンさん、まってろ!ここか!えいっ!あっ、あわわわわわわ……」
「あるさん、助けて……便器にはまって出られんようになったんや。」
「タイタンさん、それ、上を向いて歩こうじゃなくて、上向いて座ってしまってるじゃないですか……。」
【おしまい】