【太陽に焦げろ】 トルティージャ100
※喫煙シーンや乱闘シーンが出てきます
「おい、卵の数は合ってるだろうな」
奴らの手口はわかっている。いつも通り料理を始める。それはまるで何もかもが手慣れていてなにもかもが正しいように見える。
奴らは目に入る全てを刻みつける。芋、きのこ、玉ねぎ。全てを、だ。
俺は静かにその様子を見守る。おかしなことをしでかさないように奴らを見守る。守るべきものを守るためにこいつらの挙動を全て見守る。
「おい、なんだそれは。キャベツ入れすぎてまとまりきらなくなったお好み焼きそっくりじゃねえか!」
やはりだ。どう見ても卵が足りていない。気づかれたと察するや否や奴らは拳銃を抜き俺に標準を合わせた。
俺はそれをギリギリのところでかわし、卵を蹴り上げる。換気扇のところまで跳ね上がった卵。その殻が割れ白身と黄身が均等に広がりフライパンの中に落ちていく。
これは敵わないと踏んだか、連中は再び調理に取り掛かり始めた。
「最初っからケチらずに卵を入れやがれ」
俺はそいつらの首謀格の頭をはたき、今日五箱目のタバコに火をつけた。塩コショウも施させ、両足を組みソファーに身を沈める。
「15分だ。15分以内に仕上げろ」
やつらは低温で焼き始め、一向に焼き目がつかずジリジリとした時間だけが過ぎていく。茹でるように泡を立てフチが揚がる様は太陽のフレアを思い出させる。その熱が俺の怒りに火を着けた。三箱目のタバコが塵になった頃、我慢の限界に達した俺はフライパンの中に泳ぐように揚げ焼きにされていたこいつを裏返したのだ!
「バカヤロウ!焦げる寸前だったじゃねえか!」
その時だ。さっきの奴らの一人が動いた。その瞬間何かが俺の腹を突き抜けていった。
「なんだよ、おい。どうなってんだよ」
「おい、巻き簾の上で少し冷ましてあるじゃねえか…なんだよ、これ」
裏側を軽く焼いて完成した。黄色さを保ったままそれは完成した。
「どうなっちまったんだ、俺はよ…」
俺の腹を突き抜けていったのは空腹だった。空腹のあまり立つこともできなくなった俺は粗熱をとって食べやすくなったそれを手渡された。
「お…おい…なんだよ…これよぉ…なんだってんだよ………」
「トルティージャ、こりゃぁぁぁぁ!!!」
「はい、カット!すいませんもう一度お願いします!」
「なんだよ、バッチリだったじゃんかよ」
「はい、テイク2!3、2、1、はい!」
「トルティージャ、こりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なんでだよ…」
俺はタバコをくわえた。いつのまにかまんまるの月が空に見える。いや、元からそこにあったんだ。俺が倒れて、倒れた俺が見上げて初めて気づいただけだ。冷たい。地面が冷たい。
「……」
タバコはゆっくりと細く煙をあげる。火をつけただけで吸うことはできない。俺は腹の中で燃える太陽の熱を感じていた。そして遠くに浮かぶ月を眺めた。永遠に沈むことのないリオハの夕焼けを思い出し瞼の裏に描いた。焦げろ、焦がしてくれ。視野が狭窄する。腹の中でまだ燻る太陽。俺は再び目を閉じた。そして金色の狼の夢をみた。
【完】