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『ワダツミの木』 元ちとせ
ひどくいろんなことが宙ぶらりんになったまましばらく時間だけがたっていて、何かを決めるといったことが困難。
どんな生活をしているかと文章にするのもためらうほどほとんど生産性のない生活。
どれくらいだろうか、ずっと小泉今日子氏の歌がオートリピートされているよ。
昨日は元ちとせ氏だった。それはよくおぼえてる。私はこの歌い手が好きだ。元ちとせ氏のデビューシングルであるワダツミの木は衝撃を受けるだけではすまない体験だったのもよくおぼえてる。うねりを持った何かが天と地の境目のない所から溢れ出てくるような、既視感できるぐらいリアルな情景を持った音楽であった。
もちろん上田現氏の計算された世界であって、それを形にしたのが元ちとせ氏の長い時間の中の森羅万象を刹那的に切り取るかのような歌声。世間の社会的背景とかにリンクさせずに、表現者のみで作り出した必然的な力のある作品。
上田現氏の曲とアレンジは立体的な絵本のようであった。レピッシュ時代から飛び抜けていた。頭に中の想像を表現する力が抜きん出ていた。抽象的な情景を曲に書き起こすことができた。優れた絵本や文学が時代を選ばないように、上田氏の作品もずっと残されていくのだと思う。
同曲を上田氏の所属していたバンドであるレピッシュが奏でるバージョンも存在する。
上田氏なしで上田氏の曲をうまく表現できるのは彼らにしかできないことかもしれない。高い演奏能力もさることながら、全員が優れた表現者であることもまたすごい。
話を戻そう。元ちとせ氏に戻そう。
彼女の声を海のようであると感じる人は多いと思うし、そんなイメージを抱くのは自然であると思う。
海を連想させるミュージシャンは多いが、彼女のそれは特異だ。
季節的な海ではないし、恋愛の一部にある海でもない。漁師と荒れる海でもないし、遠くを思う海でもない。彼女の表現する、もしくはまとっている海は潮の満ち引きであり、畏怖であり、そばにあるのに制御できないものであるように感じる。
彼女の表現した世界はとても美しい。
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